男女
摂津守
男女
明け方の寝室、一つのダブルのベッドの上に二人の男女が一つのタオルケットに包まっていた。
男のほうは二十代半ばだろうか。短くカットされた清潔な髪は汗でじっとり湿っている。八月が過ぎ、九月の半ばだというのに未だに暑さが続いているせいだ。
女のほうは顔までタオルケットに覆われている。すらりとした白い足と、艶やかな黒い髪が確認できる程度だ。
男がもぞもぞと動き出した。寝苦しいのだろう。しばらく手足を動かし、寝返りを繰り返しているうちに男の目が開いた。
男は眠気眼で壁掛け時計を見やった。短針が七、長針が十二と一の間にあった。男は隣の女に気を遣ってか、緩慢な動作で、静かにベッドから抜けだした。軽く肩を回しながら、洗面所の方へ向かった。
暫くして男が寝室に帰ってきた。シャワーを浴びたのだろう、起床時より幾分さっぱりとした顔つきになっている。男はベッドの先程まで自分が寝ていた側に腰を落とした。身体を左側に開き、横目で女を見やりながら小さな声で言った。
「調子はどうだい?」
女から返答はない。ぴくりとも動かない。
男は満足した様子で薄く笑みを浮かべ言葉を続けた。
「僕たちは相性がいいと思うんだ。君はどう思う?」
女は無反応だ。
男は満面の笑みだ。
「昔の僕たちはよく喧嘩をしたね。二日に一回はしたかな? でももう三日もしてないね。その理由について僕はこう思うんだよ。喧嘩を繰り返したからこそお互いをよく理解できたんじゃないかって。僕たちが愛しあっていくには不必要なものを切り捨てることが出来たんじゃないかって」
やはり女は何も言わない。
男は興奮した面持ちで女の肩に手をかけた。
「ねぇ、その綺麗な顔を僕にみせてよ」
男は女を自分の方へ引いた。女の身体は何の抵抗もなく、男の方へと倒れた。男は顔にかかったタオルケットを剥ぎ取った。
「綺麗だよ」
女の顔は雪のように白かった。薄く開かれた目には光がなかった。ぽかんと開いた口には舌がなかった。女の身体からは汁が染み出していた。
男は女を抱き寄せて言った。
「静かな女が一番さ。その点君は完璧さ」
男女 摂津守 @settsunokami
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