晴れた日の、昼下がり。

並木坂奈菜海

我が家の一日ペット

(作者注:本作は単独でも十分お楽しみいただけますが、こちらの前日譚を読んでいただくとより一層面白く読めます(多分)。

 URL: https://kakuyomu.jp/works/1177354054881132247/episodes/1177354054881206318)




「先輩、こんなのとかどうですか?」

「おおおお!!!!可愛いよものすごく!!」




 彼女が着ているのは黒のワンピースにフリルのついた白いエプロンドレス。

 いわゆるメイド服、というもの。いつだったかリコ自身が買ったものらしい。

 頭の上にはもちろんカチューシャ。でもあのフリルのついた白い定番ではない。

 となると残った答えは1つ。

 そう、猫耳カチューシャ。

 今のリコは猫耳メイド。これは僕の趣味ど真ん中である。


「にゃーん♡」


 猫のしぐさ。似合いすぎてるし可愛すぎる。


「写真撮ってもいい!?」

「いいにゃん♪」


 バッグから一眼レフを取り出し、セッティング完了。

 あぁ~心がぴょんぴょんするんじゃぁ~。


「地球の未来にご奉仕するにゃん!」

「リコ、危ないから、それは」


 でも可愛いから許す。許されるべき。やっぱり可愛いは正義なんだ、と改めて感じる。


「じゃあ、今日は一日、先輩のペットのネコになるにゃん♪」


 といって、僕の体に抱きつき、顔を見上げる。正直もう限界。特に理性とか理性とか。あと理性。


「にゃーん♪」


 背中を擦りつけてきた。ちょうど近くにあった頭を撫でてやる。


「にゃう~♪」


 体をくねらせる。可愛いすぎるうううううう!!!!!!


「リコ、こっち向いて」

「にゃん?」


 自分の唇をリコのそれに重ねる。


「………!」


 さすがのリコも驚いたらしい、顔が赤い。僕のペットなら、そのくらい想定してほしかったな。

 顔を離す。

 リコは赤い顔のまま、うつむいていた。


「なんでご主人様は、こんなに強引なのにゃ…」

「リコのご主人様はそういう人なんだよ」


 そろそろもういいかな。

 リコのカチューシャを外す。


「ねえ、リコ。そろそろお昼にしようよ。お腹減ったし、さ。どこか食べに行く?」

「……は、はい……じゃあ、私が作るから、先輩は待っててください」

「え、ホントに!?作ってくれるの!?」

「だって前来たとき、お昼食べて行かなかったじゃないですかぁ。それのリベンジ、ですっ」




「お待ちどうさま。冷やし中華ですっ」

「おおお!!!やっぱり夏はこれだねっ!」


 僕は醤油、リコは胡麻。


『いただきます』


 ズズズズズズと、思い切りリコお手製の冷やし中華をすする。

 彼女の冷やし中華の味は語るまでもなく美味い。


「味、どうですか?」


 自信なさそうに聞いてくるリコ。


「うん、すごく美味しい」

「本当!?」

「うん。本当だよ」

「ありがとうございますっ!」




『ごちそうさまでした』


 食器を片付け、リコが着替えるというのでソファに座って待つ。

(今日もまた来ちまったなぁ……)

 今日も今日とてリコの家。もはや休日のほとんどをここで過ごすといっても過言ではない。それ以前、彼女と付き合い始める前は家で何をしていたのかも、もはや遠い昔の話。

 …

 ……

 ………


「せ~んぱいっ、お待たせしましたっ」


 突如降ってきたリコの声で我に返る。


「あ、ああ。うん、メイド服もいいけど、リコの私服はいつ見ても似合ってるよね」

「あ、ありがとうございま……す……。ところで、先輩、どうしたんですか?暗い顔してますよ?」

「え、そんな顔してたかな?」

「してました」


 リコの顔がぐっと近づく。こうやって至近距離から見つめられるのは結構くる。何が、とは言わないが。


「してないってば」

「本当ですか?」

「本当だよ」

「なら、いいですけど、」


 言いながら隣に座り、改めて僕の顔を見る。

 僕の腕をとり、自分の頭を肩に預ける。


「私が先輩を、守ったら、支えたら、ダメですか?」

 彼女の温もりが腕と肩から伝わる。


「ううん、そんなことないよ。だって、リコは僕の大事な彼女だから」

「じゃあ、私に…先輩を、支えさせて下さい。私が、います。私が、守ります」

 その言葉に、心の糸がゆっくりと解ける。


 リコの頭を撫でると、彼女の柔らかい髪が手を流れる。


「……うん、ありがとう。これからも、ずっと一緒にいてほしい、な」

「…はい!」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る