Scene26 さくら色の春
日本の春の情景
私の心に積もる春の情景
今か今かと
花開くことをこれほど待たれる花もない
日本人の心の花
咲いたことをこれほど喜ばれる花もない
咲いた花の下にこれほど人が集まる樹もない
この国で「花」と言えばこの花のことを表す
その年に初めて咲く桜の花
無数につけたさくら色の蕾の中で最初に開くその花
初桜
道幅はあまり広くないほうがいい
その方が両側の並木の桜の枝が道の上で交差するから
見上げる頭上は
一面さくら色の天井
その腕を大きく広げ空に架ける天蓋
小さな薄紅色の花のあいだからのぞく小さな空色
煌く陽の光がその枝を照らす
さわ、と
繊細な花たちを抱えた枝がゆるりと揺れる
どこまでも続いてほしいと願う花の隧道
爛漫の春
花の雲
それらの桜を愛でる
今年も春がやってきたと
巡る季節に想いをはせる人たち
桜並木は当然のことながら美しいが
1本で佇む桜は気高さを纏っている
孤高の立ち姿
その美しい所作
誰に知られる桜の名所でなくとも
巡ってくる春に花を咲かせる1本の桜の樹
きっと誰かに見てもらおうと思って咲いていない
きっと誰かに褒められようと思って咲いていない
それでも毎年全力で花を咲かせる樹
そんな時期に眠りにつきたいと詠んだ歌人がいた
~願はくは 花のもとにて 春死なん その
(できることなら桜の花咲く春に死にたいものだ。その如月(旧暦2月)の満月のころに)
花曇り
青空に映える桜も素晴らしいが
曇りの日の桜は愁いを帯びる
灰桜色の空を纏うその花が揺れる
何か迷っているような
何か悩んでいるような
桜雨
桜の時期に降る雨
水分を含みやや色濃くなった花からの雫
花曇りが悩みならば
桜雨は悲しみだろうか
限りある命を惜しむ
やがて訪れる別れを惜しむ
この雨で散ってしまうかもしれない桜の花たち
花びらにつく滴は
それを惜しむ空の涙
私たちの心の涙
桜流し
私たちの負の想いも共に流れていけばいい
私たちの心が洗われるといい
水際が好きらしい
まるで水を飲むかのように水面にのびゆく桜の枝
まるで水鏡に映る優美な姿を自ら覗き込むように
時が満ちる
その水面に舞い降りる無数の花びら
まるで降り積もる雪のような薄紅色
はらはらはら
ゆるゆるゆる
さらさらさら
風もなく
春の穏やかな陽に見送られ
ゆるやかに散りゆく桜の花びら
散ることで刹那の美しさが際立つ
さくら色に染まる日本の春
さくらが言祝ぐ日本の春
今年も巡り来し日本の春
今年も咲き誇る日本の春
今年も過ぎ往く日本の春
夢見草
この花の別名
美しく儚いその花の別称
うっとりと
まさに夢を見るように
この花を見惚れる様子から
1センチほどのその花びら
最も淡い紅染のその色
空を覆い
風と舞い
水に浮き
私達のこころに降り積もる
いつの世も待ち焦がれるそのさくら色の日本の情景
私達日本人のこころにきっとあるその情景
【描写した場所】
日本・みなさんの心の中にあるであろう春の情景
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