Scene5 カヌーツーリングは青緑の夏の色

 北海道 釧路川。


 全国のカヌーイストが憧れる川だそう。

 どこかしらでそんな情報を仕入れていた。

 そんなカヌーを本格的にしている人をも魅了する川で私は生まれて初めてカヌーに乗った。

 カナディアンカヌーというタイプのカヌーだ。

 いわゆる一般的なボートを細くしたようなタイプの舟である。

 先頭に座らせてもらう。

 後ろにはガイドの方がついてくださっている。


 カヌー体験ができるペンションに泊まり、早朝のクルージングに出かけた。

 

 夏の北海道。

 気温は確か10度前後。

 驚いたことにペンションでは夜には暖房が入っていた。


 生まれたての朝日とともに出かける目指す川。

 湖で明けたばかりの陽ざしに出迎えてもらい、カヌーに乗り込み、すぐに薄暗い川へと入って行った。

 

 あたりは森である。

 夏らしい若い緑の木々が立ち、直接朝日は望めない。

 それでも木漏れ日から差し込む光はちらちらと柔らかく川面を照らす。


 音は聞こえない。

 いや、オールを漕ぐ音や鳥のさえずりぐらいはあったのかもしれない。

 川の色は青とも緑ともつかない色だ。翡翠のような深いグリーンもあれば、オパールのような澄んだブルーの箇所もある。流れも穏やかで、オールを漕がないと前方に進めないほどだ。にもかかわらずついつい私は景色に見惚れてオールを漕ぐ手は休みがちだ。ガイドさんが後ろでゆっくりと舟を進めてくれている。ほぼ川面と同じ高さの目線から見上げる森と空、見渡す川。清らかな川を魚が泳いでいるのが舟の上からでも見える。ヤマメだそうだ。

 木々のトンネルのその上を鳥が飛んで行った。アオサギですね、とガイドさんが教えてくれる。


 人工のものが一切目に入らない。カヌーを除いて。森も川も太陽もずっとここで時を刻んできた。それらを敬い憧れる少数の人間を受け入れながら。


 いつまでも。そう、何世紀も先までもこの景色が変わることがないように。特別絶景という景色ではないのかもしれない。けれどもあの緩やかで穏やかな夏の景色は守らなくてはならない自然だと思う。

 さすが、カヌーイストの憧れの川は一般人の私にとっても素晴らしい川だった。



【描写した場所】

北海道・屈斜路湖から釧路川へ

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