Scene15 砂漠に落ちるファイアーレッドの夕陽

 エジプト・アスワン・ナイル川


 世界的観光地アブシンベル神殿を訪れるために泊まったホテル。

 イシスアイランドホテル アスワン。

 ナイル川の中州に造られたホテル。

 敷地の周り360°がナイル川である。

 ホテルに泊まるには船に乗らなくてはならない。

 私達はツアーの企画でファルーカという小さい帆かけ舟でナイル川をしばし下ってそのホテルへと到着する。


 低層の造りの部屋のバルコニーに出てみる。

 目の前は母なるナイルの悠久の流れ。

 確か対岸は街だったが、私達のバルコニーから見える岸は反対側らしく、あまり人の生活の気配が見えない。

 川岸から砂丘になっている。

 見渡せる範囲すべてが砂丘。

 山ほどもあろうかという高さ。

 とりたてて変化もない景色だが、雄大なそれは眺めていて飽きない。


 訪れたのは冬。1月だった。

 アフリカ大陸とはいえ、冬のエジプトは20度前後でとても過ごしやすい気候だ。

 暑くもなく、寒くもなく、ナイルからときおり吹き渡る風も心地よい以外のなにものでもない。


 バルコニーのチェアに座り、日本から持ってきた文庫本を読んでいると、視界の端が赤くなってきた。


 夕暮れのとき


 普段街中で見る夕陽は片手で掴めそうな大きさだ。

 それと比べるとこの夕陽は両腕を広げても受け止められないほどの大きさだ。

 燃えるような赤色だ。

 鉄が燃えているような赤。

 燃えながら砂丘に近づいてくる。

 空は一気に熱を帯びて赤銅色に染まる。


 砂丘の向こうへと沈んでいく夕陽。

 ここから砂丘まで距離にして1キロもないだろう。

 きっとあの砂丘の向こうが地球の果て。

 果ての先にある宇宙にあの太陽は沈む。

 もしくはあそこが果てでないのなら、太陽はあの砂漠に墜落する。

 だからあんなにも大きく見えるのだ。

 燃え尽きるのではないかと思わせるその天体。


 世界的な大河の中洲ですごすひととき。

 古代から変わらぬ悠久の流れと壮大な眺めを満喫する。


 アスワンの近くのルクソールが古代エジプト王朝の都の時代もあった。



 恐らく紀元前のファラオも見つめたあの夕陽。

 ファラオすら恐れをなしたかもしれない。

 だからこそ太陽神の力を借り、神に近づこうとしたのかもしれない。


 圧倒的な夕陽は空を宇宙そらへと開け放っていった。



【描写した場所】

 エジプト・アスワン・イシスアイランドホテル

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