読んでから見るか、見てから読むか

 今は昔、セーラー服姿の薬師丸ひろ子が機関銃をぶっ放し、白ブルマ姿の原田知世が時をかけていた頃……だから、そう1980年代だろうか、世間では「読んでから見るか、見てから読むか」というキャッチなコピーが流行っていた。


 それは赤川次郎の『セーラー服と機関銃』や筒井康隆の『時をかける少女』など、人気作家のジュブナイル小説と呼ばれる少年少女向けの読み物が、後に映画化されるとき、両方に版権を持つ角川がこしらえたうまい宣伝文句である。


 一見、小説を読んでしまえば映画は観ないし、映画を観れば小説を読む必要はない、と思われがちだが、そういう考えの人は意外に少なく、実は、小説を読んだから映像で観てみたい、映画で観たので小説でもっと詳しく物語を読んでみたい、と

相乗効果が働くらしい。


 いつの世もよい小説は映画化されていることが多い。殊に川端康成の『伊豆の踊り子』などは六度も映画化されている。ただ映画会社が松竹、日活、東宝で、特段小説をセットで宣伝するメリットがなく、いわばであった角川という出版社が映画を作ってこその「読んでから見るか、見てから読むか」であった。


 ところで私は最近「から読む」という新たな経験をしている。


 どういうことかというと、私は寝るときにスマートフォンを枕元に置き、ユーチューブで落語を聴いている。代書屋、阿弥陀池、池田の猪買い、くしゃみ講釈、寄り合い酒……等々、しかし同じ演目を何十回も聴いていると、流石に飽きがきて物寂しく、何か他に落語に代わるものはないだろうか──と探した結果、「小説の朗読」というのを見つけたのである。


 これは夏目漱石、芥川龍之介、太宰治や宮沢賢治、プーシキン、ドストエフスキー、カフカ……等々の小説を読んで聞かせてくれるのである。ああ、なんと親切なことだろう、とさっそく飛びついたのだが、アップロードされている小説のほとんどが権利の失せた古典小説であり、しかも提供する側により品質・状態の善し悪しがあって、つまり聞かせることのプロである俳優や声優の朗読は流石に聞きやすいのだが、素人の朗読はまだ良しとしても、あの無機質な機械音声というのは聞くに堪えないものがある。しかし、AIの進歩は日進月歩であり、確実に人間の声色に近づいている。権利関係はわからないが、最近の、しかも存命の作家さんの有名な作品も聞くことができるのだ。


 最初の頃に、肉声で聞けた岡本綺堂の『木曽の旅人』、ジェイコブズの『猿の手』は収穫だった。


 それらの朗読は偶然見つけたもので、私は検索をするのではなく画面を人差し指でスクロールしながら探すのだけれど、真夜中、電気の消えた部屋の中で、仰向けに寝転んだ私がブルーライトに顔を蒼く浮かせながらスマフォをスク、スク、ロールしている姿は、考えてみれば江戸時代に化け猫が行灯の油を舐めている異様さに匹敵していそうだが、そのスクスクロールで見つけたのがFMシアターというラジオドラマであり恒川光太郎さんの『夜市』だった。


 ラジオドラマつまりラジドラは、例えばNHKとかの放送局が製作して流したものだからプロの声優を使い、効果音などもあって、放送時間内にうまく編集されている。


 ストーリーは、小学生の頃、妖怪世界の夜市に紛れ込んだ少年が野球の才能と交換に弟を売ってしまうのだが、その十年後、夜市が開かれると知って、今度は、売ってしまった弟を買い戻しに行く……という、奇想天外なホラーというかファンタジーである。


 夜店の主人はみな妖怪であり、客も殆どは妖怪である。売っている商品だって人間世界のものではない。ラジオドラマは、声優たちの台詞回しや、足音や風の音、ふくろうの鳴き声、BGなどの効果音で盛り上がる──。では、小説ではどう表現しているのだろうか、と気になった私は、さっそく図書館で本を借り、読んでみたのだが……。


 この『夜市』は第12回日本ホラー小説大賞受賞作であり、選考委員である荒俣宏、高橋克彦、林真理子各氏が絶賛し、短篇でありながら長編を抑えて大賞を獲ったという秀作であるらしい。


 まあ、そういわれれば、確かによいのかもしれない。自分の弟を売るという行為とその弟を取り返すための方法というのが、奇抜といえば奇抜である。物語的には面白い仕上がりで、私は中学生の頃読んだ『中三時代』などの雑誌に掲載されていた小説を思い出したほどである。


 ───純真な気持ちがあれば、もっと感動できるだろう───


 と中学生の頃の気持ちで何度も何度も探してみるのだけれど、もう『夜市』は削除されていて聞くことができない。ああ、残念だ。


 と書いていて、カドカワの株主としての私がユーチューブの宣伝のようなことを書いてよいのだろうか、この話題はむしろニコニコ動画を利用した話題を書くべきではないのだろうか……って、まあ、そんな大したことじゃないよな~。ここはニコ動の会員が増えることを祈ることにしよう。奇しくも、今日と明日(2018.4/28~28)がニコニコ超会議らしいから──。




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