非法家族(KAKUYOMU版)

F.Clouds

違法婚姻に効力は無い.ならば違法婚姻の親子もまた違法なのか、それは親子ではないのか、真の親子証明とは

無駄に長いので、ストーリーのあらすじをどうぞ

【第一章 無効情侶 要約】

(第1話~第31話まで)


 娘の日本国籍が消え、国外退去を命じられる。

 そんな法律状態に遭遇した。


 妻のX(中国籍)は、偽名だった。

 それは、夫のT(日本籍)も知ったうえでの結婚だった。

 妻のXには不法滞在での強制退去歴があり、普通に結婚しただけでは日本に入国出来なかったからだ。

 Xには初回渡航費用の借金が¥200万円あった。

 不法就労で¥100万円は既に返済していたが、東京入管の摘発を受け上海へ強制送還、残債の¥100万円は返済不能となった。


 Tの手引きを得たXは、偽名を使いY名義の不正パスポートを入手。

 XはYの名でTと結婚し、再び日本への入国を果たした。

 だが、Xはもう不法就労はしようとせず、T(日本人)の妻としてあり続けた。

 3年後、XとTは娘を1人儲けた。


 9年後、娘のZが小学校へ進学する前年、XとTは大阪入国管理局へ自首出頭し、在留特別許可を請願。

 入管からは、「Tの戸籍の妻を、本名のXにせよ」と指示を受けた。

 Xは、偽名のYでTと結婚したので、Tの戸籍上の妻はYとなっていたからだ。


 この入管の指示は、「戸籍にXを入籍させて、Xに在留資格を発生させよ」という意味だ。 その上で、退去強制処分か在留特別許可かをフェアに審理するということだった。 本来は、先にXの在留資格を確保してから、入管に出頭しなければならなかったのだ。

 XとTは、事件処理の順番を間違えた。


 ただ、そういう指示が出るということは、在留特別許可の可能性も有る。

 Tは直ぐに家庭裁判所に出向いた。


 家庭裁判所は、「戸籍訂正の許可を申し立てよ」と指導した。

 これによって、戸籍上の偽名を本名に換えられるのだが、そのためには、XとYが同一人物である証明が重要だと言う。

 それは市役所で、Xの外国人登録原票記載事項証明書に「 夫はT 」と付記して貰えば大丈夫だ、という事だった。

 Tは、その足で市役所に向かい、「夫はT」と記載可能か訊ねる。

 市役所は「記載可能だ」と言った。 だが、まだ裁判を申し立てることは出来ない。


 Xは、自分本人のパスポートを紛失していた。

 外国人登録が出来てからでなければ、中国領事館にパスポートを申請することは出来ない。 Xの外国人登録は未だ申請中、まだ出来上がっていない。

 

 外国人登録が出来上がったのは、半年後。

 その間に、Xは警察の取調べを受け、既に書類送検されていた。

 Xのパスポートを申請したが、未だ発給されていない。

 「中国大使館は退去強制手続き中の者にパスポートを発給しない」、そんな噂は有った。

 パスポートはもう、発行されないのかもしれない。

 パスポートは無いまま、XとTは家庭裁判所に「戸籍訂正の許可」を申し立てようとした。

 だが家庭裁判所は、「戸籍訂正の許可」を受理しない。

 今度は、「婚姻の取り消し」であると言い出した。


 おかしい。

 家裁も最初は「戸籍訂正」と言っていたのに。 市役所も外国人登録原票記載事項証明書に、「夫はT」と付記可能と言っていたのに。

 市役所に相談に出向くT。

 市役所は、「夫はT」と記載するのは出来ない言う。

 さらに驚いた事に、Y(Xの偽名)は既に出国した扱いとなっている。

 Yの登録は封鎖され、もう、証明書類は請求できない。

 そして、婚姻取り消しの思わぬ効果を語った。


  娘のZは非嫡出子となり、

  戸籍から抹消され、

  日本国籍が消滅し、

  強制退去の対象となる。


 なんだよその、出鱈目は!

 婚姻取り消しに遡及効は無い。 つまり殆ど離婚と同じなのだ。

 娘のZが「子ではなくなってしまう」なんて、有るわけないじゃないか。

 状況を取り纏め、Tは法務局へ相談に出向いた。

 法務局の職員さんは言った。


 「婚姻取り消しではなく、婚姻無効です」


 婚姻無効 ─ それは、婚姻など無かったという事だ。

 法律の婚姻規定には、婚姻成立の規定とは別に、婚姻では無い場合の規定が有った。

 何か違反が有った場合、その婚姻には効力が無い。

 この婚姻無効が裁判で確認されると、婚姻は初めから無かったことになる。


 法的に、結婚をしていない状態になるという事だ。

 今まで妻だ子だと思っていた、X(妻)とZ(娘)は、実は妻でも子でもなく、全くの他人。

 法律上は、そうなるのだと、法務局の職員さんは語った。

 それが、行政判断というものだとTは後に知る。

 婚姻無効なら、婚姻は無いので、父(T)と子(Z)に親子関係は無い。

 Zは、日本で出生した、在留資格のない中国籍女性(X)の私生子となる。


 中国婚姻法では、重婚は婚姻無効。 妻のXは、重婚だった。

 初回強制退去の直前。

 東京入国管理局摘発の1週間前、Xは知人を介し、茨城県N市のM氏という人物と偽装結婚を(本名で)届け出ていた。


 裁判で重婚による婚姻無効が確認されたら、その判決確定の時点で、Zは非嫡出子となり、戸籍から抹消され、日本国籍が消滅し、不法在留の中国人となるのだ。


 この場合の対策はひとつ。

 それは、Zを認知して親子関係を形成し、日本人の子として日本国籍を取得させることだ。

 だが無理だった、それは出来なかった。


 認知には、Zの出生時点の母親の独身証明書が必要なのに、Xにはパスポートが無い。 そんなものは領事館に請求が出来ない。

 Xが一時帰国して、本国で請求して来ることも出来ない。

 Xは、退去強制手続き真っ最中、今、帰国したら2度と日本には入れない。


 打つ手なしの、八方塞がり。

 市役所の無料法律相談も、法律事務所でも相談を繰り返すXとTだったが、法律や戸籍の専門家は全員が同じ事を言った。


 「Z(娘)は非嫡出子で、中国国籍の不法在留」


 「これはもう、どうしようもない

  入管に出頭する前なら、何とかなったのに」


 専門の法律家が軒並み匙を投げるなか、それでも諦めない法律家もあった。

 神戸市のR国際法務行政書士事務所のR行政書士。


 「いや、パスポートさえ有れば出来る」


 だが、中国領事館からXのパスポートは、遂に発行されなかった。

 もう、どうしようもないのか。

 娘を犠牲にはできない。 このまま、戸籍の訂正はせずに娘は手許に置いておき、妻のXだけを犠牲にする決断。

 そんな真似をしなければ、ならないのか。


 途方に暮れながらも、Tは自分で法律を調べ始めた。

 法律家が全員、答えを見出せなかった難問の解。

 そんなもの有るはずも無い、思いつつも、何度も何度も中国婚姻法や民法を読み込んで行く。

 そして遂に、奇策を見出した。


 それは、Xの重婚を消滅させる法手続きだった。

 Xは茨城県M氏との偽装結婚を届け出た直後に、東京入管の摘発を受け収容された。

 その最中さなかに、届出は受理され、婚姻はM氏の戸籍に記載された。

 その後、Xは本国に送還され、Tと偽名結婚をして再び日本に不法入国。

 ここで、Xは重婚となった。

 それからXはこっそりと、M氏との離婚を届け出ている。

 その後に、XとTの子、Zが出生。


 中国婚姻法では、重婚は婚姻無効。 重婚で、婚姻は消滅する。

 ならば、その重婚を消滅させれば、婚姻は消滅しない。

 XとM氏の婚姻を、婚姻無効で消滅させれば、重婚は消え、XとTの婚姻は有効に転じるはずだ。

 そうしたら、戸籍訂正許可は、受理可能となるはずだ。

 そして、この手口なら、Xのパスポートなしでも実行は可能なはずだ。


 XとTは家庭裁判所に出向き、申し立てに及ぶ風を装い、実行可能か探りを入れた。

 家裁の書記官は言った。


 「法的には、可能ですね

  但し、裁判官の判断によりますよ

  申し立ての最中に、裁判官から、

  申し立ての取り下げか、

  婚姻無効への切り替えを求められるかもしれません」


 やはり、これなら出来るのだ。 遂に突破口を見つけ出した。

 そして書記官は、問題解決の大きなヒントを口にした。


 「婚姻無効は、離婚は出来ませんよ、婚姻じゃありませんから」


  婚姻無効は ─ 離婚できない?

  婚姻無効は ─ 婚姻ではない?


 おかしい、Tの脳裡に過ぎる疑問。

 確か、中国婚姻法では、重婚は裁判離婚の事由だったはずだ。


 R行政書士もこの手口に乗り、動き始めた。

 その一方で、XはM氏と連絡を取ることに成功した。


 法律家の誰もが見出せなかった奇策。

 そんなものが、裁判の実践で通用するのか。

 家裁が呑めば、XはTの妻と認められ、Zも日本籍の嫡出子。

 家裁が婚姻無効と言い張れば、Zは非嫡出子で、Xもろとも国外退去。


 だが、おかしくないか、Tの脳裡に過ぎる疑問。

 もしも、XとM氏が離婚していなければ、Zは初めからM氏の嫡出子で日本国籍。

 XとM氏が離婚したから、Zは私生子の外国籍。

 なぜ ─ Zの立場からは何の関係も無い婚姻が、Zの身分に関与する?


 行政判断 ─


  重婚は婚姻無効。

  婚姻無効だから、婚姻は無い。

  婚姻が無いから、子は非嫡出子。

  非嫡出子だから、父との親子関係が無い。

  父との親子関係が無いから、子は外国籍。

  外国籍なのに在留資格が無いから、子は不法在留。

 

 何かおかしくないか、この論理は何か、破綻してはいないか?

 Xは、M氏と偽装結婚した当時の状況を語り始めた。


 婚姻届けの直後、受理伺いの最中に、摘発を受け収容。

 婚姻はそのまま、M氏の戸籍に記載された。

 ならば、収容されて退去強制手続き中のXには。


  日本人配偶者ののだ


 Xは叫んだ、「ワタシは、日本人の、奥さんだと、言った」

 でも、入管は聞いてくれない ─


 Xは、オーバーステイによる退去強制処分・再入国不許可5年。

 返済不能の残債を持ったまま、上海へと送還されていった。

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