神王VS戦神②
神域の戦い―――其れは正にそう喩えるに相応しい戦いだったのだろう。
呵々と笑う一つ目の仮面を付けた少年―――否、金髪の少年の姿をした魔神が、無造作に槍を横一文字に切る。
その所作一つで大気に亀裂が入り、三つの山岳と七つの森が引き裂かれた。
人体に向かって放つには、明らかに行き過ぎた暴力。その兆分の一の力で人体など粉微塵になるだろう。
絶望と呼ぶに相応しい斬撃を受けたのは、三つ編みの髪を靡かせて戦う一人の女。身の丈ほどにもある二本の剛槍は明らかに女の手に余る業物だ。
しかし三つ編みの女は退く構えを取らない。両足を肩幅よりやや広く構えた女は不退転の覚悟を以ってその斬撃を迎え撃つ。何故ならこの斬撃を避けたが最後―――己の背後に守る者が散ることを、彼女は知っていた。
其れは即ち、この箱庭の希望が潰えることに他ならない。
一つ目の仮面を付けた魔神は彼女が避けられぬことを知っているが故に、呵々と笑いながら試すような行動を繰り返している。
三つ編みの女は迫る斬撃を前に、呼吸を短く合わせる。
「ふっ―――!」
女は二つの剛槍に緩く握り、その切っ先で僅かに触れる。そして剛槍を巧みに操り、大気に亀裂を生みながら奔る斬撃を剛槍の柄に滑らせ―――魔神の一撃を、傷一つなくすり抜けたのだ。
「呵々………!! 器用な娘よッ! サオの使い方は一級品と来たか!」
口元から涎を垂らし、下卑た笑いを見せる一つ目の仮面の魔神。
槍使いの女は取り合わず、即座に次の一撃を構える。呼吸と鼓動を重ね、体の稼働領域を最大に生かす為に背を僅かに沿って腰を落とす。その姿はさながら、体幹に一本の剣が通っているかのようだ。
女の構えが槍の投擲と気付いた一つ目の魔神だが、その口元の笑みが崩れることはない。此れから撃ち出される必殺の一撃がどのようなものかを知った上で、魔神は微動だにしない。
二つの剛槍を構えた女―――影の国の女王スカハサは、渾身の一撃を以ってその投擲術の名を口にする。
「霊格解放―――行くぞ、ガイ・ボルガ………!!」
稲光を放つ剛槍。
ケルト神群の大神・ルーより授かった神格が鯨王の骨より削り出した槍に宿る。一つ目の魔神はいよいよ以って笑いが止まらぬと、呵々大笑を上げて三つ編みの女に向かって吼えた。
「呵―――呵呵呵々々々カカカカ!!! よりにもよって、最後に頼るのがクサレ孫の投擲術か!! そんなもんが効かぬことぐらいわかっておるだろうに!! それとも
顎が痙攣するほど呵々と笑う一つ目の魔神。
本来ならば、この神槍の一撃は神霊であっても必滅の一撃だ。大神クラスであっても、直撃を受ければ無事では済まない。
しかし一つ目の魔神は恐れるどころか嗤い声を上げてその槍を待ち構えている。
そう―――この魔神には、この槍は刺さらない。
いや、其れが喩え北欧や印度に語られる必勝の槍であろうと、この一つ目の魔神には傷一つ付かないだろう。例外を許さぬ防備と必殺を兼ね備えた極西、最強の魔神が目の前の少年に宿っているのだから。
だがスカハサに退く様子はない。敵の強大さはわかっている。理解しても尚、引けぬ戦いであることを彼女は熟知している。
スカハサは一瞬だけ全身の力を弛緩させた直後。
全身の筋肉を膨張させ―――二本の剛槍を稲光と共に撃ち出した。
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