第21話 ただただ空へ

「ナグリ?」

 シェルはなぜ止めたのかわからないと顔する。魔力は制御され淀みがない。ドライバーに求められた仕事は完璧にこなしているはずだ。

 なのにどうしてナグリは怒っている。

 一度は離れたナグリが肩をゆらして近づいてくる。翼を壊されても怒らなかったナグリが明確に怒気を孕んでいた。

「なんで止めるの?」

「言わなきゃわからないか」

「…………」

 黙りこむシェル、わからないから聞いたのだ。

「その情けない魔力はなんだ!」

 シェルの目が見開く。会心の魔力制御を情けないと評された。

「情けないってなによ!!」

「情けないから情けないと言った、魔力も情けなけりゃ、光も情けない」

 情けないを連呼しながら翼を指さす。

「こんな弱い光がハチニーのはず無いだろ!! 俺はお前の魔力の輝きに惚れこんだ!!」

「エッ!?」

「この前見た輝きはライフサンダーにも劣らない輝きをはなっていた。それなのに、腑抜けたことをしやがって」

 ナグリが手を振り上げる。

「ッ!?」

 殴られると思ったシェルは目をつぶり、黙ってみていたハルナも慌てて止めに入ろうとするが、しかしナグリがシェルを殴ることはなかった。

 振り上げた手を握り親指を立て、ナグリは自分自身の胸を指す。

「俺が作った翼を信じてくれ!」

 一言、ただ力強い言葉。

「コイツはおまえの為に作った翼だ、必ずおまえの力に耐え切ってみせる」

「ナグリ」

 シェルの心の中から、いつのまにか先ほどまでの不安はなくなっていた。

「必ずお前の全力に応えてみせる」

「うん」

 短い返事を聞いたナグリは、もはや言うことはないとライトからはなれる。

「ライトもごめんね中途半端になって、次は間違いなく全力でいくから」

 シェルの瞳に光が宿る。それは三日前と同じ白に憧れを抱き手加減をしらない少女の瞳。

 レバーを握り全力全快、魂の全てをこめて魔力を流し込む。

「スタート・ユア・ウィング!」

 さっきの優しい光をロウソクとするなら、今度の輝きはまさに太陽ようであった。何者をも凌駕する圧倒的のエネルギー。

 シェルとライトを中心に突風が巻き起こり、大地からの呪縛を打ち破り、白いドラゴンは十年の時を越え大空へと飛び立った。

 空高く、華麗さなどまったくない、ただただ力強く白いドラゴンが天を登っていく。

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