2-6
今でも後悔している。
会わせるんじゃない、と、あの日の自分に強く訴えたい。
きっかけはもう忘れてしまった。
当時、遙香にもカレシが居て、ダブルデートなんて言って気取ってみたんだったか。
あの日のことは本当に、鮮明に覚えている。
胸が苦しくなるくらいに。
「遙香ー、ごめん、待った?」
「毎度の事だからね、慣れちゃった。」
小さく肩を竦めて、遙香はわたしの遅刻を許してくれた。
明るい茶髪はファッションカラーではなく、外国の血が入った彼女の血統だそうだ。わたしは密かに遙香の天然カラーの栗毛に憧れていた。
「今日はほら、それでも五分しか遅れてないでしょ?」
「あたしは十分前に来たのデス。」
「……ごめん、」
会社勤めをする前のわたしにはどこか甘えた意識があって、どうしても遥香との約束の時間を守る事が出来なかった。
「そんなんじゃ、社会に出てから苦労するよ? 紗江。」
遙香は学校の関係で一足先に就職を決めて社会に出ていたから、時々、お姉さん風を吹かせた。
気の利いた提案も、いつも遙香だった。
「男性陣はもうちょい後で合流するから、先にちょっとお茶でもしない?」
「え? なんで? 同じ時間に待ち合わせたら良かったんじゃないの?」
「あんたねぇ。あたしのカレシはまるで知らない赤の他人でしょ? それなのに遅刻とかしたら、あんた、大恥掻いちゃうのよ? あんたのカレシだって幻滅するかも知れないわよ。そういう事も考えなくちゃ駄目なのよ。」
さすがは遙香だ、なんて、この時には惚れ惚れしたものだった。
わたし達が入ったのは、待ち合わせ場所からそう遠くない喫茶店だった。
モダンな黒のテーブルとチェア、白いスクエア型の灰皿。遙香は煙草を吸う。
珈琲を頼んで、改まって遙香はわたしに祐介とのなれそめを聞いた。
「ねー、写真は見せてもらったけどさ、あんなイケメン何処で捕まえたのよ?」
「大学かアルバイト先しかないでしょー、出会いの場なんて。けど、後は秘密。」
「えー。あんた、バイト先とか教えてくれないじゃん。何処で会ったのよー。」
「バイト先教えたら、あんた来るじゃん! 絶対教えないっ。」
「行くに決まってるじゃん、あたし達、親友でしょー!?」
親友という言葉が、今となっては胸に突き刺さる。
バイト先を教えたくなかったのは、単純に、夢を叶え損ねた自分に引け目があったからだ。卒業後も、夢だった事柄とは何の関連性もない仕事を、結局は選んでしまった。
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