12.
「いや、一日で食べろとは言わないが、量が量だから流石に食べ盛りの兄ちゃんでも食いきれないっしょ。二人で仲良く食ってくれ、なっ」
「この肉は私のでもあるんだから、勝手に一人で食わないでよ」
「お兄さん!」
「ちょっと無視しないでよ」
「何だ兄ちゃん」
「因みにこの肉は何の肉なんすか?」
「コボルトの肉に決ってるだろ。身が固いが、しっかりした肉の旨味は勿論の事、香辛料のカルダモンが揉み込まれているかのようなピリッとしたアクセントに芳香はそれに近く、カレーには持ってこいの食材だ!」
コボルト?……コボルト……コボルト。
俺は聞いた事のあるようなないような、コボルトと言う生き物を思い浮かべた。現実には存在しない生き物。俺の頭に浮かんだのは、二足歩行する犬だ。ゲームによく出てくる初級の奴だ。
だがしかし、二日間ほとんど食ってないから流石に腹がやばい。逆にここまで持ったことが不思議なくらいだ。
いかん。言われて少し引きはしたが見た目は旨そうな肉にしか見えない。つうか、そこら辺にモンスターがいるんだろうか。いや、居てもおかしくないのが、この世界何だと、今日の一連の出来事を思い返して自分の今の立場を改めて理解した。
現実の世界と言ったら、今の世界が現実世界になるのか……なら、普通に元の世界と言っておくべきか、とりあえず、嘘みたいな話を聞き入れた元の世界からここの世界に飛ばされ、魔法? でわないか、魔技と言っていたな。それと、剣が誰にも咎められない世界。ファンタジーの中で生活する事になってしまったのだと、俺は諦めに近いそんな気持ちで大袋に入ったコボルトのモモ肉を担いで朔乃と隣り合わせに家に向かう。朔乃がなんか言っていたがまったく耳に入らなかった。
「ちょっと朔乃ちゃん。今朝のとっといたよ」
朝、りんごをくれた果物屋のおじさんだ。隣には優しそうなご婦人が立っている。
「あれ! おばさんもう大丈夫何ですか?」
「朔乃ちゃんが看病してくれたから、もう元気ハツラツよ」
「あまり無理すんじゃねぇぞ」
「分かってますよ」
「こいつが、もうそろそろ朔乃ちゃんが帰って来る時間だから店に出るって、聞かないんだよ」
「あら、そうなんですか? まだ病み上がりなんだから無理しないでくださいよ」
「大丈夫よー。朔乃ちゃんに会ったから病気なんかもうどっか行っちゃたわ。それに、また倒れたら朔乃ちゃんに見てもらえるもんね」
「何言ってんだよ。お前に倒れられちゃ俺が困るんだよ」
「そうですよおばさん。元気はいいですけど、倒れたらおじさんが心配しますよ。私なら、いつでも会いに行けるんだから体調に気をつけて下さいよ」
「はーい。ところで隣の男の子は朔乃ちゃんの彼氏?」
「ちっ違いますよ! 誰がこんな奴、こいつったら朝、私が寝てる間に襲って来たんですよ!!」
「あら、大胆ね」
なにか改変されたような……俺の記憶じゃ襲って来たの朔乃の方だったよな? そういや一、今日一日朔乃といる事が多かったが、あの時の朔乃は、言葉使いも荒かったっし、殺されると思うほどだったし、今となっちゃ全然いい奴何だよなー。少し
「おばさんたらもー」
「盛り上がってるとこ悪いけど、朔乃ちゃんこれどうする?」
「あぁそうだった。これ何て言うフルーツ何ですか? こっちも見たのは初めて何だけどよ。なんと! 他の国じゃドゥーリアンって言うフルーツらしく、別名フルーツの国王と言うらしい。めっちゃ精力つくらしいぞー」
ドゥーリアン? 何処と無くドリアンを連想させる名前だな。名前が似てるだけで見た目は洋梨が四倍程になったような感じだ。ドリアンの特長の無数の棘はない。やっぱり俺の知るドリアンとは別物だ。
「ふ~んそうなんだー。じゃあせっかくだから、買うわいくら?」
「買うって金持ってないんだろう?」
「そうだった……ごめーんおじさん今日はちょっとお金が……クズ嶺ーあんた金持ってないの?」
「ない!」
「迷いのない返事! 流石に引いたわ」
「二人ともそうなの? じゃあいいや、今日はプレゼントしちゃうよ」
「えっいいのおじさん!」
少しは遠慮しないのか?
「ちょっと朔乃ちゃん待って! このフルーツはっ!」
朔乃がそのドゥーリアンに触れる寸前でおじさんは止めた。
「こいつを持つなら、この枝を持たないと」
おじさんは台の上の他のフルーツをどかし、ドゥーリアンを中央に置いて棒で実の部分突っついて見せた。
俺が名前で連想したドリアンよりはるかに鋭い無数の棘が表面を覆って棒がまるで串刺し刑に。
「実を触ったらこの棒のように串刺しになっちゃうんだよ。まぁ数分で納まるからちょっと待ってね」
俺達はあまりの衝撃に顎が……口がぽかーんと、開いた口が閉じなくなってしまった。
流石、フルーツの国王と言う名前に恥じない
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