10.

「ところで、どこまで説明をしましたっけ?」


「いえ、後は大丈夫です」


「そうですか。また何かありましたらいらして下さい」


 天月さんは少し機嫌を損ねたみたいだが、相手が理事長だからか、割りきって我慢しているようだ。何故か俺の方をじーっと睨んでいるようで、俺も気がきでない。


「正式には明日からここの生徒になりますので、今日のところは羽を伸ばしてもらって構いませんよ。そうそう。明日は刻夜さんの紹介を兼ねて全校集会を開きますから、何か一言考えておいて下さい」


「マジですか……」


 †


 ――シャフレヴェル騎士学園敷地内。


 騒がしい事も多々あったが、とりあえず、エセ神父に言われた通り、理事長に挨拶に行って転入する事に決まった。そこまではいいが、仮住まいだとしても、天月さんと同居とは……。


 俺は投げ渡されたブレザーを着て一足先に外をぶらり。天月さんはまだ、理事長に話があるようで理事長室に残っている。つまり、俺は右も左も分からない上、何もすることなく木々が並ぶ草原を一人で歩いている。生徒達は授業をしている時間だからか、ここには誰もいない。その証拠に「早く俺にエデンをくれーー」と、叫んでみたものの、反応したのは木の上で休んでいた鳥だけ、それも俺から逃げていくかのように鳥の群が一斉に飛び立っていった。


 鳥に見捨てられた。なんて虚しいんだ。


「ちょっと! そこの……変質者のようなつらをしている君」


 何処からともなく悪口を言われたような……。つか、変質者のような面ってどんな顔だよ!


「君が明日転入する変態君だろう?」


「変態君じゃねーし! つか、何処から声すんだよ!」


「変態君。僕は君の上だよー」


「上? なっ! そんな所に居たのか」


 その声の持ち主は木の枝に腰掛けて居た。


「君が大声でおかしな事叫ぶから小鳥さん達が逃げていっちゃったじゃないか」


 俺と同じ制服を着ているから学校ここの男子生徒だろう。髪の毛に艶があり、白髪と言うよりか、銀髪に近い。前髪をヘアピンで抑えたサイドボブヘアーを耳にかきあげたこいつは俺に問い掛けてきた。


「変態君は見るからにダメ一〇〇パーセントだね」


「初対面の俺に結構なものいいだなお前」


「気に触ったのなら謝るけど、実際、変態君が学園に来てからずーと見ていたけど……」


「はぁ? 何言ってんだ、今まで俺の視界に入ってねぇだろ」


「そんな眉間にシワなんか寄せちゃって。話は最後まで聞いてくれると嬉しいかな」


 俺はバカにされていると認識した上で、話の途中で割り込んで聞き返したが、こいつは冷静に俺をあしらった。


「理事長から話は聞いたろうけど、ここでは小隊制を推奨してる。つまりは、一人がダメなら小隊全体の戦力が落ちると言う事、変態君の実力は完全に無だ! 君の魔技はいったい何だったんだい?」


 魔技……そう言えば具体的にどんな魔技か分からないままだったな。


「どんな魔技かは実際あやふやだ。補助系ではないのは確からしい事は言ってたが、それがどうした」


「変態君。君は何で僕にそんな態度なんだい? 僕は睨まれるような事したかな?」


 確かに、俺は何故、こいつを睨んでる? 否、俺はこいつに早々にバカにされたんだ。睨みつけてもおかしくない。危うく自分を疑うとこだった。あぶねぇあぶねぇ。俺は、平静になりつつ言ってやった。


「お前が俺を変な呼び方したからだろ!」


「僕が君の事を? それは気のせいじゃないかな。事実、僕は君の名前を知らないし、僕は見たままを呼んだだけだし」


「はいはい。そうですか。他に用がなければ俺は行くぞ」


「ちょっと待ってよ! 用ならあるから」


 俺がこの場から歩きだそうとしたら、こいつは分かりやすい反応を見せた。


 名前をまだ聞いていないからこいつは仮に銀髪少年こいつとしよう。


 銀髪少年は少し慌てた感じに俺を引き留めようと声を張り上げた。


 用があるなら、さっさと言ってくれた方が気分がいいのだが、まどろっこしい話は聞いていて無性にめんどくさく苛立ちが沸いて来るようで気分が悪い。


「明日、集会が終わった後、僕の所に来てくれないか。来てくれれば、魔技の使い方に剣の使い方、それと、朔乃んと、してたようだけど忠誠の儀について教えてあげる。今後、学校ここにいるには必要な事だから」


 なるほど、それは確かに俺にも理に適っていて悪い話ではないか。無知でいられる簡単な場所でないことも朝の戦闘で実感してるし、せっかくの話だ乗ってもいいか。だが、銀髪少年の事も何も知らない。どこまで信用していいものか。俺は少し悩んだ。


「それはありがたいが、そうだな……お前が俺に教えて何の利益がある」


「利益? そんな見返りなんて期待はしてないよ。ただ、君に興味があるだけ、何もできないままじゃ君も大変だろう? だから、僕が教えてあげるの『キ・ミ・に!』」


 どういう意味なんだ? 俺に興味があるだと? そう言う趣味は俺にはない。ましてや彼女が出来た事すらないのに、いきなり同性は……友達としてならまだオーケーだが?


 バカか俺、何考えてんだよ俺。これは所謂ゲームで言うところのチュートリアル的なやつで、さながらこいつがガイドキャラと言う設定なんだ! きっとそうに違いない。いや、そうであってくれ! 恋愛系のイベントフラグにしてたまるか! 


 こいつをガイドキャラと仮定すると結構残念だ。なにせこいつは男だからな。


 ガイドキャラなら欲を言うと女の子か可愛い妖精が良かったんだが。つうか、そう言うの相場で決まってないのか? いや、まあ、ここがゲームでない事は知ってますよ。いろいろ肌身に感じてますから、知らない分けないでしょ。でもなーまさかの男とはな……。ここんところは諦めるしかないか。


 一応、ここでは例に従うべきなんだろうが、それにしても。くっそー頭からこいつの上から発言が離れていかん。変態君って誰だよ! 


「どお? 話に乗ってみる気は?」


「話ねぇ……確かに悪い話でない事は分かるが、せめて俺を変態君と呼ぶのは止めて欲しい」


「止めて欲しいと言われてもねぇ。変態君は、学校の門の所で朔乃んの服を破壊したしさぁ、それに葵ちゃんに抱きついて胸を揉んだよね? それを見てからだとどうしても君を変態君と呼ぶしかないんだよね」


「何故にそれを……誤解だ! あれはすべて不可抗力でわざとじゃない! そもそも何でそこまで知ってるんだよ」


「何で知ってるかって? 他人に言うのも本当は気乗りしないんだけど、君には特別に教えてあげる。僕の魔技は視覚の共有。つまり、視覚をもつ生物の視界に写ったものと同じものを見る事ができるのさ。だから、鳥やガルムの視界に写ったものを見る事も可能なのさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る