3.

 ――いざ、外の世界へ。


 部屋のドアを開けると、まだ外ではない! 当たり前だ。廊下があって、キッチン、風呂場、トイレがある。しかし、信じがたいが俺の家でない事が明白である。俺の家は隣の部屋に妹の咲希さきの部屋がある。それに引き換えこの家には隣の部屋なんて存在しない。あれ? ……まぁ今の所は考えない事にしておこう……。


 玄関げんかんのドアを開け外に出ると、知らない街だった。まぁ異世界に繋がる扉と言った所か、良くある話だ。違うか! 既に異世界でしたもんね! って俺は馬鹿か! なんで一人ノリツッコミしてんだよ。少し叫んでもいいですよね? ここ広いし。


「ここはいったい何処なんだー!」


「うるさいわね、私まで馬鹿だと思われたらどうしてくれんの? ここはシャフレヴェル学園都市に決まってるじゃない。この素晴らしい世界を知らないと言うの?」


「そう、シャフレヴェル学園都市、俺なにも知らない」


「……」


 もしかして、あきれられた?  


 ここは、俺が知る日本の親しみ深い風景とは、かけ離れていた。 


 煉瓦レンガ造りの建造物が建ち並び、石畳の道がずっと奥まで続き、その道の両端には、屋台が並んでいた。


「朔乃ちゃんおはよう。今日も買って行くかい? 珍しい果物フルーツが入ったんだよほらこれ」


 道を歩いていた途中、一つの屋台から天月さんを引き止めるように優しそうなおじさんが話しかけてきた。


「おはようございます。あら、ほんと珍しい形ですね。でも、今は急いでるからまた帰りに寄らせてもらうね。そう言えばおじさん。おばさんの具合良くなったんですか?」


「朔乃ちゃんが看病してくれたから良くなったよ。今日は病み上がりだから休ませてるが、明日はあいつも出てこれるだろよ。ありがとうな朔乃ちゃん。そうだ! お礼ちゃっなんだけどリンゴ持って行きな隣の兄ちゃんにもあげていいから」


「いいの? ありがとうおじさん」


「天月さんって優しんだね」


「何言ってるの、騎士として『と・う・ぜ・ん』なんだから、褒められても何もでないわよ」


 天月さんは人差し指を立て、チ・チ・チ・チー的に指を振り、髪をかきあげた。その時の顔はドヤ顔だった。


「りんご貰ったのに俺にはくれないの?」


「あげないわよ……私が貰ったんだから」


「ケチ」


「……あげればいいんでしょ……」


 やっぱり刃物は食べ物に使うべきだだよな。うん。さっきの短剣は足ベルトにあったのか、スカートでわからなかった。


「どうぞ、変態さん」


「変態!? なんで俺が変態なんだよ」


「さっきから私の事やらしい目でジロジロ見てたでしょー」


「それは……なんか向こうの方騒がしくないか?」


「誤魔化したわね」


「いや、本当だって向こうの階段近くで騒動そうどうでも起きてんじゃないか?」


「うそ! ……」


 騒がしい方に恐る恐る近寄って行く。


 騒動の現場に着いて俺は気づく、異様な老人の姿に。


「爺さん盗み食いは大人がやることじゃないよな、きちんとマニー払ってくれないと」


「誰がお前なんぞにわしが生かせてやってんだぞ! もっと儂を敬え!」


「何言っていってんだ? 爺さん? ろれつが回ってねーじゃん酒でも飲んでんのかよ? おっとそれは生肉だ食ったら腹壊すぞ?」


 老人はむさぼるように店の肉を分捕ぶんどり食い付き、筋肉隆々きんにくりゅうりゅうの男性商人を困らせている。


「あれ天月さん……?」


 俺は振り向き天月さんに聞こうとした時、天月さんは既に俺の隣ではなく老人の方に向かっていた。


「マジかよ! おい爺さんいい加減にしろよ。腹壊しても知らねぞ!」


 辺りの人の目線は肉屋に向いていた。


「あのお爺さん気持ち悪い……」


「見ちゃダメよ」


 老人の異様な姿を子どもに見せないように場を離れるように促す母親や家と家の間にある階段に座り込み身を寄せる子ども達、恐怖のせいか握ったバナナがぐちゃぐちゃになっている。大人達もまた批難ひなんつぶやきながら肉屋の側から離れていく。


「おいおい、俺の腕は商品じゃねーよ……爺さんふざけてんのか? 離してくれよなぁ爺さん痛いからさ」


 肉屋の商人が場を離れたくも老人は商人の腕を掴み引き寄せる。明らかに体格差があるはずなのに、筋肉隆々の商人の方が力負けしているように見える。


 老人は店に置かれた肉切り包丁を手にして振りかざした。


 見ているこっちからすれば、まさかの行動だ。


「本当ふざけんじゃねぇよ! このくそじじーまじふざけんな! いい加減離せ化物」


「そこの老人止めなさい! 私はシャフレヴェル騎士学園所属、現、五番隊王直属騎士天月朔乃だ! 民に多大な迷惑をかけ、マニーも払わず暴食を繰り返すとは見過ごす訳にはいかない」


 天月さんは老人から少し距離を置き忠告をする。老人は肉切り包丁を振り翳したまま、天月さんの方に振り替えった。


 その老人の顔には今着ているボロボロに汚れた衣服の切れ端で眼帯側りに左目を覆っており、不揃いに伸びた白髪は顔を隠すように張りついているみたいに振り返っても乱れない。見るからに浮浪者ふろうしゃらしき風貌ふうぼうに俺はぞっとした。


「なぁ天月さん、なんかこの老人やばくないか?」


「そんな事分かってる。おそらく、この者は人鎧契約者じんがいけいやくしゃだ。悪魔と契約を交わし、悪魔の能力ちからを借りる代わりに自らの身体の一部を捧げた者。多くの者はこの者と同様、自我が保てずに暴走する。暴走している者は悪魔に身体ごと支配されていて、人の鎧を着た悪魔に過ぎない」


「朔乃ちゃんか、頼むこの爺さんを殺ってくれ」


「まさか天月さん、ここで闘うのか街中なのに?」


「ここで人鎧に暴れられては住民にも迷惑だし、被害を広げる訳にもいかない。だからこそここで騎士の私が解決する。君は私のマルタイだ今は私の後方で離れてていい」


「天月さんだけで何とかなるのか?」


「我、天月朔乃の名の下に一陣の風を纏いし炎の精霊よ今この刻、姿を表し加護をもたらさんレーヴァテイン!」

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