第4話 詰問
葬式があった日の夜、僕は教会の牧師から呼び出しを受けた。
頭や背中の傷はまだ痛むが、葬式が終わるなり急いで家に帰ってきたサミュエルおじいさんが手当てをしてくれた。
今までも石を投げられたり、数人に囲まれて暴力を受けたことがあるが、村の過半数によるここまで大規模な私刑まがいのものは初めてだった。
だから、エヴァンス牧師から理由を説明されずに呼び出しを受けたとき、謝罪とまではいかなくても、労いや同情の言葉をかけられると思っていた。
村にある教会の隣にあるお屋敷にエヴァンス牧師一家は住んでおり、その扉をノックすると、僕が名乗る前に扉が内側から開いた。
扉を開けたのは厳しい顔をしたエヴァンス牧師その人だった。
エヴァンス牧師は自宅に僕が足一本でも踏み入れたら呪われると思ったのか、僕の二の腕を有無を言わさずつかむと隣の教会まで引きずるように連れて行き、聖堂の椅子にたたきつけるように座らせた。
対するエヴァンス牧師は僕の前に立ち、顔は正面を向いたまま、目線だけで僕を蔑むように見下ろしていた。
僕は昔からエヴァンス牧師が苦手だった。
感情の機微が伺えない厳格な表情。
安息日の長い長い説教。
背の高い格式ばった姿勢。
僕を見下ろす氷のように冷たい眼差し。
この日も、氷のような冷たい眼差しはさらに温度を下げており、どうして労いや同情の言葉が彼の口から出てくると考えたのか、思い出せなかった。
夏とはいえ暗い聖堂はひんやり涼しい。
ささくれだった椅子を掌に感じ、底知れない恐怖と戦いながら、僕は牧師の青い瞳を見上げていた。
「君は、毎日神に祈りをささげているかね?」
「は、はい、牧師様。」
牧師の問いは唐突に始まった。
失敗は許されない、ここで異端児の烙印を受ければ、待っているのは拷問と処刑。
それも自分だけでなく、おそらくサミュエルおじいさんも。
歯の音も合わない恐怖感じた。
「神に誓って、信心深く正しい行いを毎日しているだろうね。」
「神に誓ってもちろんです、牧師様。」
「悪魔の申し子という話があるな、君には。」
「牧師様、それは事実無根です。僕は誓って、」
エヴァンス牧師はうるさそうに、僕の言葉を遮った。
「
「は、はい、ですが、僕は」
「君の周りで死人が2人も出たな。裁判の判事のお手を煩わせるのは恐縮だが、この村にも彼らに来てもらおうかと考えている。」
エヴァンス牧師の青い目の奥が燃えているように見えた。
僕は本能的に椅子から飛び降り、牧師の足元に膝まづいて、牧師のズボン裾に接吻した。
「牧師様!!!僕は従順なる教徒です。
今までより、もっと、たくさん、尽くします。
どうか、ご慈悲を、どうかこの哀れな子羊にご慈悲をお願いします。」
「…よかろう、だが、次はない。
私はいつでも君を監視していることを忘れるな。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。
寛大な牧師様に主のご加護がありますように。」
僕は恐怖で泣きながら、それでもしっかりと挨拶をすると走って家へと帰った。
怖くてエヴァンス牧師の顔を見上げることはできなかった。
どんな顔をしていただろう、いつもの冷徹な蔑んだような表情だろうか、それとも納得した表情か。
サミュエルおじいさんは泣きながら息を切らせて帰ってきた僕の背中を優しくさすりながら、温めたヤギの乳を渡してくれた。
いつもよりもっと気を付けて行動しなくては。
森へはもう行ってはいけない。
成人の儀は受けれない。
ぼくのためにも。
おじいさんのためにも。
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