春はあけぼの
朝倉夏樹は、担任の先生と春海の一連のやりとりを目の前の特等席でニヤニヤして眺めていた。
多少とぼけてはいるものの、夏樹は春海のことが好きになれそうな気がした。
何よりも、自分と同じ季節の一文字が名前に使われているところに、親近感を覚えた。
間髪を入れず、早速担任の先生が挨拶を始める。
「新入生諸君入学おめでとう!わが清涼高校へようこそ!俺はこの一年B組を1年間担任する、田宮和眞だ。教科は国語を担当する。高校での三年間は、中学校と比べるといろいろと異なる。そして高校生としての自主性も重んじられ、ある程度の自由もある。それは、君達に自覚を持って行動してもらいたいからだ。始めのうち慣れるまでの間は、君達も戸惑うことが多いだろう。クラスのこと、学校内のこと、授業のこと、部活のこと、友だちのこと、困った時はなんなりと相談してくれ。ぜひ充実した楽しい高校生活を送ってほしい。」
教壇に立った担任の田宮和眞は、気さくに生徒達に向かって語り掛けた。
先程の春海とのやり取りから察するに、歳の頃は40代後半といった具合だろう。
挨拶もそこそこに続けて、田宮は生徒達の点呼を取り始める。
「和田慎太郎・・・、次、女子な。浅倉夏樹」
「ハイ!」
夏樹は体育系らしくハキハキとした元気のある返事を返した。
なんたって最初が肝心である。
「おっ女子の方が活きがいいな!男子も負けるなよ。」
田宮が嬉しそうに笑顔を見せる。
夏樹は、いいクラスに入れたという予感がした。
「・・・篠原千秋」
「ハイ」
「白河真冬」
「ハイ」
「ん?御厨春海」
「へ、ヘイ!」
突然、田宮の点呼が“シ”から“ミ”へとワープした。
心積もりをしていなかった春海は、思わず時代劇みたいな返事をしてしまった。
「浅倉夏樹、篠原千秋、白河真冬、御厨春海、四人ともちょっと立ってくれ。」
「ハイ」
なんだろう?四人が四人とも困惑し、互いに顔を見合わせながら、座席から立ち上がった。
周りの生徒たちも、突然の出来事にざわつき始める。
「春、夏、秋、冬。このクラスには四季の名前のついた女子が四人揃っているんだな!これは珍しい、春から縁起がいいゾ。」
何が縁起がいいんだかよく判らないけれど、珍しいのは確かだ。
クラスメイト達からも自然にどよめきと拍手が湧き上がる。
四人はなんともいえない照れくささを感じた。
春海はどーもどーもと手を挙げて礼を言い、夏樹は皆に深く会釈をし、千秋はただただ困惑して赤面し、真冬は驚いて口に手を当てたまま言葉もない。
「奇遇な縁だが、これも何かの運命かもしれん。君達の四季物語は、今日からこの教室で始まる。みんな仲良くこのクラスをまとめていってくれ!よしありがとう、もう座っていいぞ。」
四人はお互いを見つめ合いながら、各々の座席に座った。
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