私だけのはせがわさん
蜷川二奈
一章
プロローグ にやにやえぐち
通話時間:5時間24分。
満ち足りた心持ちで、スマホの画面を見つめる。カシャ。スクリーンショット撮っちゃった。浮かれてるな、私。ふふふ。
今更、部屋の中の肌寒さに気付いて、二の腕をさすった。どうやら暖房がタイマーで切れたらしい。だけど、その寒さでさえ、今は不快ではなかった。
空っぽで寒々しかった胸の奥に、暖かい液体がドバドバと流れる。その奔流が、胃の底からじわじわと広がって、私を充足させていくのがわかる。つま先まで、ぽかぽかしている。
「むふふーふーふーふーふっふー……♪」
ばさり、と毛布の上に倒れて、顔をうづめる。
そのまま国民的RPGのテーマソングを口づさみながら、スマホを胸の前に抱えて、ベッドの上を何度も転がる。ごろごろごろごろ。
もう一度、スマホの画面を覗くと、時間はもう深夜2時だった。
明日も6時半起きなのに、これはいかんぞ、と思いながらも、動悸はなかなか収まらない。むしろ、目は冴えてきていた。
5時間24分、それは私の為だけに用意された時間。他の誰でもない、私のみが許され、優先された証だった。
むず痒くて、でも嬉しくて、もっともっと、認めて、承認して、満たして欲しい。この感情を、なんと呼ぶのか聞かれたら、それに最も近いものは恐らく。
・・・こんな私にでも、訪れるものなんだな。
例えそれが、同性からもたらされたものであっても。
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