2.枷鎖に囚われし運命-1

 それは、昨日のこと。

 緋扇シュアンは、上官から「勤務態度について話がある」と呼び止められた。

 いつものように、その場で小言が始まるのかと顔をしかめたら、「上層部の人間が、直々に注意をするから、明日は必ず、出勤するように」との沙汰さただった。

 翌日は、ハオリュウが摂政に招かれて、王宮に赴く日である。

 摂政の用件など、どうせろくなものではないだろう。だから、せめてねぎらいのひとことで帰りを迎えてやろうと、シュアンは藤咲家で待機するために休暇を申請していた。無断欠勤の常習犯の彼にしては珍しく、前々から、きちんと手続きを踏んでのことである。

「明日は、わたくし、有給を取得しておりますが?」

 シュアンが、そう言って三白眼を吊り上げたのは、当然の帰結といえるだろう。

 しかし、上官は「休暇なんぞ、取り消しに決まっておる」と一笑にした。無視したら免職クビだと、言外に告げていた。

 実のところ、シュアンとしては、免職クビになっても一向に構わなかった。むしろ、こんな腐った警察隊組織とは、さっさと縁を切りたいところである。単に、他でもないハオリュウが、彼とは雇用主と使用人ではなく、対等な友人としてりたいと願ったから、続けているだけにすぎない。

 ふむ、と。シュアンは思案した。

 この機会に上層部お偉いさんの機嫌をわざと損ね、めでたく警察隊この組織から、おさらばするのもありだな――と。

 だから、言われた通りに呼び出しに応じた。

 それが罠などとは、微塵にも疑っていなかった。



 呼び出された部屋で、シュアンは、いきなり複数人の警察隊員たちに取り囲まれた。

「緋扇シュアン。お前が貴族シャトーアの厳月家、先代当主を暗殺したとの情報タレコミが入った」

 そう言われたのと、腹に拳を打ち込まれたのとでは、どちらが先だったかは分からない。

 彼に一撃を喰らわせた隊員は、たいそう体格のいい男だったため、中肉中背とはいえ、大の男であるシュアンの体が軽々と吹き飛んだ。受け身を取ることも叶わず、そのまま床に叩きつけられた彼は、腹を押さえて消化の途中だった昼食を吐き戻す。

 状況を理解することも、それどころか、胃から逆流したものを出し切ることすらも許されず、彼は胸ぐらを掴まれ、顔面を殴られた。

 口の中に血の味が広がった。再び床を転がった彼に幾つもの影が迫り、殴る蹴るの暴行が加えられる。

 抵抗する余裕などなかった。一方的に痛めつけられ、ぼろ雑巾のようになった彼は、手錠を掛けられ、囚われの身となった。



 警察隊員であるシュアンは、貴族シャトーアを殺害した自分が、どこの監獄に連れて行かれるのか、教えられなくとも知っていた。そして今、その推測をたがえることなく、むき出しのコンクリートの廊下を歩いている。

 湿気が多く、かび臭さが鼻についた。時代錯誤の鉄格子が見えてきて、あの独房に入れられるのだな、という実感が湧いてくる。

 人間を収容する空間として、およそ近代的とは思えぬ造りの牢にあるのは、死刑囚を繋ぐための鎖だけだ。まともな裁判もなく、処刑の日を迎えるまでの数日から数週間を過ごすためだけの場所に、極めてふさわしい設備といえよう。贖罪も更生も必要なく、投獄から受刑までのごく短期間しか使われない監獄であるためか、他の囚人の気配は希薄だった。

 鉄格子の扉が開けられ、シュアンは背中を蹴り飛ばされた。壁からの鎖に繋ぎ替えるため、牢の中で手錠を外される。その際、粗末な囚人服に着替えるようにと命じられた。確かに、罪人が警察隊の制服を着たままでは可笑おかしかろう。

 暴行による痛みに顔を歪ませながら、シュアンは気だるげに動く。言われるがままに、きびきびと従う義理などないからだ。

 骨は折れていないと思うが、どうせ、そのうち五体満足ではいられなくなる。四肢が斬り落とされても仕方があるまい。この監獄は、そういうところだ。そもそも、生命が風前のともしびなのだ。肉体の部位パーツの心配など、馬鹿馬鹿しい。

 シュアンの腹は、不思議なほどにわっていた。乾いた唇の上には、皮肉げな笑みさえ浮かんでいる。

 彼としては溝鼠ドブネズミを一匹、始末しただけである。ただ、それが貴族シャトーアという服を着ていれば、いずれ命取りになる可能性があることは充分に承知していた。だが、もとより彼の手は、数多あまたの他人の血で真っ赤に染まっている。はなから平穏まともな最期など、望んでいない。『穏やかな日常』ほど、彼に似つかわしくないものはないだろう。

 いつかは、こうなる予感がしていた。

 ……けれど。

 警察隊の徽章きしょうの付いた上着から腕を抜いた瞬間、がらにもなく哀愁がよぎった。

 ――こんな形で脱ぐことになるとはな……。

 子供のころから憧れていた制服は、見てくれだけの正義の味方を作り上げていただけにすぎなかった。それを知ったのは、とうの昔のことだ。

 ――ああ、でも。ひとりだけ違ったな。……なぁ、ローヤン先輩?

 大切な人の顔が浮かぶ。

 懐かしい声が心に響き、制服をなくした肩に、あの手の重さが蘇る。石の床に落ちた徽章きしょうを瞳に映し、シュアンは思う。

 正義とは与えられるものではない。自分の内側にあるものだ、と。

 ――先輩。俺は、間違っちゃいねぇと思うんです。

 シュアンの罪状は、貴族シャトーアの暗殺。

 ハオリュウに依頼されたからではあるが、厳月家の先代当主は、私利私欲を貪る、討つべき『悪』であった。

 ――後悔なんかしていません。『不可逆』だと知っての上です。

 シュアンの手は引き金を引いた。引くべきだと思ったからだ。あの少年当主の無念を晴らさずにはいられなかった。

 ――先輩。鉄砲玉となって、あなたのもとへ逝く俺を許してください。……俺は、俺の正義を貫きます。

 そっと顔を伏せ、誰にも見られないように密やかに、ぎらりと三白眼を光らせる。

 ――俺は、あいつを守ります。

 シュアンには敵が多い。恨んでいる人間は、山ほどいるだろう。だが、『厳月家の先代当主の暗殺』を理由に彼を捕らえたからには、彼の問題ではないのだ。

 目的は、『ハオリュウを陥れること』だ。

 では。

 誰が、この情報タレコミを流したのか――?

 飛ぶ鳥落とす勢いのハオリュウを失脚させたい、他家の貴族シャトーアか?

 ――違うな。

 彼は、嘲るように口の端を上げた。

 考えるまでもない。摂政の仕業だ。

 ハオリュウが王宮に呼ばれたのと同日に、シュアンが囚われたのだ。符丁が合いすぎるだろう。どうやって調べたのかは不明だが、摂政は、会食の際にハオリュウの介添えとして同行した『眼光の鋭い切れ者』が、シュアンであると気づいたのだ。

 摂政が裏で糸を引いているのであれば、シュアンの役割は、ハオリュウを意のままに動かすための人質だ。

 シュアンの心が、ぞくりと粟立つ。

 ――摂政は今日、ハオリュウを王宮に呼び出して、いったい、なんの話をしたんだ?

 そのときだった。

「おい、何をぐずぐすしている? さっさと着替えろよぉ!」

 着替えの手が止まっていたシュアンに、怒号が飛んだ。

 思考を妨げられ、シュアンは不快げに鼻を鳴らす。しかし、囚われの身で逆らっても仕方がない。上着に続いて、のろのろとシャツを脱いだ。

 素肌が外気に晒される。その刹那、背中に鞭が打たれた。

「!?」

 皮膚が裂け、血がにじむ。

「グズには、口で言っても無駄だからよぉ」

 鞭を片手に下卑た嗤いを浮かべているのは、シュアンをここまで連行してきた警察隊員ではない。この監獄の看守だ。シュアンの肌が露出される瞬間を狙いすまし、鞭を走らせたのだ。

「……」

 この監獄は、こういうところだ。

 刑の執行の前に、牢の中で囚人が息絶えていることも珍しくない。

 何故なら、ここは死刑囚の集められる場所。足を踏み入れた時点で、死が確定している。ならば、命の灯火とうかが消えるのが少しくらい早まったとしても、なんの問題もなかろう。――というのが、この監獄の看守たちの共通の見解だからだ。

 看守は慣れた手つきで鞭をしならせ、シュアンの背中を幾度も打ちつけた。愉悦に浸りきった目つきは、肌に描かれていく赤い傷跡を芸術的な線描画と履き違えているらしかった。

 警察隊の中でも特にイカれた連中が、この監獄の看守になるという。必要に応じて、尋問という名の拷問を請け負っているためだろう。

 鉄格子の向こうでは、シュアンを拘引してきた警察隊員たちが、いつの間にかきびすを返していた。無事に引き渡しが終わったため、職場に戻るのだ。その後ろ姿は脅えたように丸かったり、嘲るようでいて不自然に硬かったりと、それぞれであったが、どれも共通して、この監獄の狂気とは関わるまいといていた。

 観客ギャラリーが消えても、看守は変わらず、嬉々としてシュアンをなぶる。鋭い痛みに、シュアンのぼさぼさ頭がのけぞった。

「おいおい、まだ、そいつに枷をつけてねぇじゃねぇかよ。暴れだしたら危ねぇだろ」

 鞭を振るう看守とは、別の看守が声を上げた。何が可笑おかしいのか、にたにたと口元を緩めながら、鎖の付いた枷を運んでくる。                 

「そいつ、狂犬なんだろう? しっかり、鎖で繋いでおかねぇとよ」

「……」

 その通り。

 シュアンも『狂犬』と呼ばれた狂人だ。自分の撃った弾丸で、腐った悪党の死体が積み上げられていくのが、たのしくてたまらなかった。一発ごとに、世界が浄化されていく気がしていた。

 どんなに命乞いをされても、シュアンは眉ひとつ動かさずに、無慈悲に一発で仕留めた。だが、それは、ある意味で慈悲深かったのかもしれない。少なくとも、彼は相手が苦しむことをよろこんだりはしなかったのだから。

 鎖を引きずる音がコンクリートの床を這い、じゃらじゃらと不吉に響く。

 これから文字通り、獄に繋がれる。しかし、シュアンの心に恐怖などなかった。彼の内部を占めていたのは、まず間違いなく窮地に陥るであろうハオリュウを如何いかにして守るか、の一点のみ。

 シュアンとハオリュウの結託が明るみに出るのは、どう考えても避けるべきだ。

 ならば、シュアンは別の者に暗殺を命じられたという、偽のシナリオを作ればいい。

 では、どのような筋書きにするのがよいか――。

 シュアンが思考を巡らせている間にも、看守たちは、にたにたと狂人の笑みを浮かべながら近づいてきた。やがて彼の手足は掴まれ、ひやりとした感触と共に、四肢の自由が奪われる。壁から伸びた鎖が短く巻き取られ、彼の体は牢の壁にはりつけにされた。

 その刹那、シュアンは大音声だいおんじょうを張り上げ、引きつったような情けない叫びを発した。

「お、俺は、もと上官に騙されただけだ!」

 大きく見開いた三白眼を血走らせ、必死の形相で訴える。

「覚えていないか!? この春、凶賊ダリジィンの鷹刀一族が、貴族シャトーアの令嬢を誘拐したという事件があっただろう! それで令嬢を助けるために、警察隊俺たちが鷹刀一族の屋敷に突入した。あのときの指揮官が、俺のもと上官で!」

「はぁ?」

 看守たちは、ぐっと顎を上げ、小馬鹿にしたように、あるいは挑発するように、シュアンを鼻で笑った。

 彼らは慣れているのだ。この監獄に入れられた罪人は、どいつもこいつも自分の立場を理解した途端に、命乞いをする。だから、シュアンもまた同様に、鎖に囚われたことで自分に未来がないことに気づき、弁明を始めた――と解釈したのだ。

 どんなに懸命に言葉を重ねても、この牢まで来てしまえば、運命は変わらない。だのに、唾を飛ばすシュアンの姿が、看守たちには滑稽でたまらなかったのだろう。もっとわめけ、泣き叫べと、まるで美酒に酔ったかのように、恍惚とした表情で口の端を上げた。

「あの事件は、斑目一族と厳月家の陰謀だったんだ! 奴らは、それぞれのライバルを蹴落とすために手を組んだ。俺のもと上官が、仲を取り持ったんだ!」

 シュアンは勿論、看守たちがまるで彼を相手にしていないことを承知している。

 それでいい。

 むしろ、真剣に耳を傾けられたら困る。舌先三寸のでっち上げだ、必ずボロが出る。まともに取り合わないでいてくれたほうが、かえって都合がよい。

「けど途中で、斑目一族と厳月家が仲違いした。斑目一族は怒り狂って、仲介した俺のもと上官に、責任を取って厳月家の当主を始末しろと言ってきたんだ。それで、もと上官は、俺を騙して、捨て駒に!」

「ほおぉ? なるほど、なるほど」

 からかうように、看守のひとりが合いの手を入れた。

 嘲弄の態度は明らかであったが、シュアンは、あたかも救いの手が差し伸べられたかのように目を輝かせて畳み掛ける。

「俺は、悪くねぇんだ! 斑目一族が悪いんだ! けど、そもそも、厳月家の先代当主だって、同じ穴のむじなだ! あいつら皆、悪党なんだよ!」

 シュアンの狙いは、斑目一族と厳月家が『悪』であると主張すること。そして、厳月家の先代当主暗殺は、斑目一族の指示によるものだという構図を作り出し、警察隊の公式記録に残すこと。――そうすることによって、ハオリュウを暗殺から遠ざける。

「俺は騙されただけだ! 糞ぉ! 俺は悪くねぇぞ! はめられただけなんだよ!」

 外れるわけもない枷から逃れようとするかのように、シュアンは身をよじらせ、がしゃがしゃと鎖を鳴らした。哀れな声で取り乱し、半狂乱になって唇をわななかせる。――我ながら、なかなかの名演技だと、内心でほくそ笑みつつ。

「そりゃあ、不幸だったなぁ」

 看守たちは粘つくような瞳でシュアンを見やり、どっと笑った。

 そして、おもむろに看守のひとりが近づいてきたかと思ったら、太い腕を振るい上げ、シュアンの腹に拳を叩き込む。

「……ぐっ」

 はりつけのシュアンは、どこにも衝撃を逃がすことを許されず、重い一撃をまともに食らった。鞭打たれて血まみれの背中が冷たい壁にこすりつけられ、ざらつくコンクリートにヤスリを掛けられる。

 だが、看守の暴行はそこで止まらず、続けて、シュアンの顔面を思い切り殴りつけた。その勢いに、彼の体は吹き飛びそうになるが、短く巻かれた鎖がきしみを上げてそれを阻む。

 三白眼が飛び出さんばかりに顔が歪み、鼻血が吹き出した。食べ物とも胃液とも判別できぬものを吐瀉したのは、決してシュアンの演技ではない。

「な、何を……する……! 俺が……何をしたって……」

貴族シャトーアの当主を撃っちまったんだろぉ? 警察隊員のくせによぉ?」

「……」

「馬鹿だなぁ、凶賊ダリジィンっている分にゃあ、上層部お偉いさんも文句はねぇだろうがよぉ。貴族シャトーアっちまう、ってのはなぁ。――まぁ、狂犬犬コロじゃあ、仕方ねぇか」

 へらへらと笑いながら、看守たちはシュアンを嬲る。この監獄では、それが許されている。否、それどころか、この狂気こそが、ここの看守に求められている資質なのだ。

「た、助けてくれっ……! 俺は、もと上官が言った通りに……!」

「ああ、そういえば、お前は上官の腰巾着だ、って聞いたことがあるなぁ!」

 嘲笑とともに、鞭が振るわれた。

 彼らをたとえるなら、虫けらを玩具にして遊んだことを忘れられない、大きな子供だ。成長して自身の体が大きくなり、それに伴い、小さな虫では飽き足らずに、人間を相手に嗜虐性を発揮する。

「やめてくれぇ……!」

 シュアンが哀れな悲鳴を上げる。

 その声が、看守たちをより一層、興奮させる。

 彼らはことほか、罪人たちが藻掻もがさまを好む。幼稚な残虐性で、抵抗できぬ相手をいたぶることに歓喜する。

 すなわち、どんなに暴行を振るわれようが、されるがままに沈黙を保つ囚人よりも、哀れな声で無様に命乞いをする者のほうが、この独房内での死亡率は圧倒的に高い。――シュアンはそれを知っていた。


 そして、それこそが、シュアンの狙い。

 彼は、看守たちに嬲り殺しにされることを望んでいた。


 虚偽の自白をし、ハオリュウとは無関係を装ったところで、摂政は彼らの結託を確信している。シュアンの命と引換えに、無理な要求を突きつけるはらだろう。

 囚われのシュアンは、生きている限り、ハオリュウの枷となる。

 だから、シュアンは自身に『死』を呼び寄せる。

 あの温厚そうに見えて気性の荒い少年当主が、意志を曲げて摂政の言いなりにならずに済むように。

 確かに、シュアンは『今はまだ、獅子身中の虫でもいいさ』と、ハオリュウに言った。だが、それはハオリュウが自らの計略のもとに、行動を起こした場合のことだ。無理やり従わされるのでは、まったく事情が異なるのだ。

 警察隊の腐敗の実情を知らぬ、雲上人の摂政は、看守による死刑囚の嬲り殺しが日常茶飯事などと、夢にも思うまい。自分が許可を出すまでは処刑は行われず、この獄中に繋いでさえおけば、シュアンの命は掌中にあると信じているはずだ。

 しかし、気づいたときには、人質は死んでいる。

 いい気味である。

 ――一介の平民バイスアにすぎないこの俺を、ハオリュウに対して、有効な人質と判断するとは。いやはや、さすが天下の摂政殿下。お目が高いことだ。

 顔には出さず、皮肉げに嗤う。

 だが事実として、シュアンが囚われれば、ハオリュウは動揺するだろう。平民バイスアなんぞ切り捨てればいい、という発想は、あの甘い坊っちゃんにはない。

 ――貴族シャトーアのくせに……。

 看守に殴られ、青黒く腫れ上がった三白眼が細められる。

 今の事態は、のこのこと上層部からの呼び出しに応じた、シュアンの落ち度だ。ハオリュウの王宮行きと同日、という符丁を疑って掛かるべきだったのだ。

 ――すまんな、ハオリュウ。

 どんなに頭が切れたとしても、ハオリュウはまだ、十二歳の少年だ。どこか危うさの残る彼を守ろうとする人間が、ひとりくらいいてもいいだろうと思っていた。

 ――俺は、あんたの枷になりたくねぇんだよ。

 ハオリュウのめいによる、厳月家の先代当主暗殺は事実だ。

 摂政に嗅ぎつけられた以上、この枷鎖かさはハオリュウに永遠についてまわる。強請ゆすられ、従わされ続けることになる。

 だから、シュアンはここで、『斑目一族に依頼されて、厳月家の先代当主を暗殺した犯人』として果てることを選ぶ。


 犯人は逮捕され、黒幕を吐いて死亡する。

 そして、事件は綺麗に解決する。蒸し返す余地など、ないくらいに。


 ハオリュウは、清廉潔白なままに。

 罪は、シュアンがひとりで背負って逝く。

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