第二章 約束の残響音に

〈第一章あらすじ&登場人物紹介〉

===第一章 あらすじ===


 メイシアが鷹刀一族の屋敷で暮らすようになってから、ひと月が過ぎた。〈ムスカ〉の行方は掴めず、一族の総帥イーレオは保留という方針を宣言する。

 ルイフォンは、母キリファが〈七つの大罪〉の実験体、〈天使〉ではないかという疑問をイーレオに投げかけ、「そうだ」との答えを得る。そして、『〈天使〉とは、脳という記憶装置に、記憶データ命令コードを書き込むオペレーター。いわば、人間に侵入クラッキングして相手を乗っ取るクラッカー』だと教えられた。

 かつて、キリファは強大な力を恐れられ、殺されそうになっていたところを、次期総帥エルファンによって助け出され、鷹刀一族のもとへやってきたのだった。


 ある夜。リュイセンは『イーレオは、一族の解体を目指している』と知らされたことを思い出し、悩んでいた。そこにルイフォンが来て励まされる。

 同時刻。メイシアは密かにイーレオを訪ね、『ルイフォンは、母キリファの〈天使〉の力によって、母の死の記憶を改竄されているのではないか』という疑問を投げかけていた。

 メイシアは、更に踏み込んで、イーレオはキリファの死の真相を知っているのではないかと問い詰める。イーレオは『触れてはいけないものに触れてしまう』と明確な答えはくれなかったが、『キリファを殺した者は既に死んでいる』と教え、『自分は〈七つの大罪〉の研究者、〈悪魔〉である』ことを暗に匂わせた。

 

 ある休日。リュイセンは、イーレオによって半ば強制的に、一族を抜けた兄レイウェンの家を訪ねていた。しかしそれは、『リュイセンが忘れた、よもぎあんパンを届ける』という口実をでっちあげ、メイシアをレイウェンの家に行かせ、そこに住んでいるユイランと引き合わせるための策略だった。

 ユイランとは、リュイセンとレイウェンの母であり、エルファンの正妻である。ルイフォンの母キリファが、エルファンの愛人であったため、ルイフォンやメイシアにとっては『敵対関係』にあるといえる。幼いころから『母は愛人へのあてつけで自分を生んだのだ』と思っているリュイセンは、母とは仲が悪く、そんな母と引き合わせると聞いて、メイシアのことを心配する。

 そんな中、リュイセンは、母は憎き〈ムスカ〉の実姉であると教えられ驚愕する。更に、〈ムスカ〉が娘のミンウェイへの異常な愛情を向けた理由は、娘を死んだ妻の身代わりにしていたからであり、『ミンウェイ』という名前自体、妻の名前をそのままつけただけだと知らされる。


 一方、ユイランと対面したメイシアは、三つの用件があると言われる。

1.さる方からメイシアの服の仕立てを頼まれたので、採寸したい。

2.過去の鷹刀のことを話すようにと、イーレオに頼まれている。

3.死ぬ前のキリファから預かった、ルイフォンへの手紙を届けてほしい。

 話の流れから、まず初めに過去の鷹刀のことをユイランは話し始めた。


 闇の研究組織〈七つの大罪〉の支配下にあった時代の鷹刀一族は、〈にえ〉と呼ばれる実験体にされるために、異常な血族婚を強いられており、そのために子供も育ちにくいという状況だった。ユイランとエルファンもまた、そうして定められた夫婦であり、尊敬はあるが愛情はない関係だった。

 そんな一族を解放するために、イーレオは総帥となった。その後、エルファンとキリファが出逢う。立場上、ユイランとキリファは正妻と愛人という間柄となったが、ユイランとしてはキリファを大歓迎しており、いずれは正妻の座を譲るつもりだった。

 しかし、敵対する凶賊ダリジィンに、レイウェンとセレイエの幼い異母兄妹が襲われてしまう。そして、もともと凶賊ダリジィンではなかったキリファと、その娘セレイエは、安全のために鷹刀の外に出されることになった。また一族の後継者となるレイウェンを助け、万一のときにはレイウェンの代わりの後継者となるべく、リュイセンの誕生が望まれた。――という。

 話を盗み聞きしていたリュイセンは「納得した」と言い、和解とは違うが、不仲であった母ユイランとの距離を少しだけ縮めた。


 ユイランは、メイシアとリュイセンに、〈ムスカ〉について語る。

 現在の〈ムスカ〉と、ユイランの実弟であり、ミンウェイの父であるヘイシャオは『別人』であると、ユイランは言う。ヘイシャオは病弱な妻のためだけに生きたような男であり、娘のミンウェイを託し、妻のあとを追って事実上の自殺をしたのだから、この世に未練はない。〈ムスカ〉は、何者かが、ヘイシャオを悪用するために用意した『駒』だと断言した。


 一方、鷹刀一族の屋敷にいるルイフォンは、メイシアが『敵対関係』のユイランのところにいると聞き、駆けつける。そこで待っていたものは、ウェディングドレス姿のメイシアだった。メイシアの異母弟ハオリュウが花嫁衣装を注文しており、その採寸が、ユイランのひとつ目の用件だったのだ。状況を察し、ルイフォンは『敵対者』と思っていたユイランに頭を下げた。

 そしてユイランは、三つ目の用件、キリファから預かった『手紙』とい名目の分厚い茶封筒をルイフォンに手渡す。中身は人工知能〈スー〉のプログラムであり、悪筆のキリファの手書き文字を、一文字も間違わずに解読して〈ベロ〉に打ち込めば、〈スー〉が出てくるというものだった。

 キリファが住んでいた家と、鷹刀一族の屋敷にあるコンピュータ、〈ケル〉〈ベロ〉は、一見、普通の高性能マシンであるが、実は『張りぼて』だった。それとは別に、〈七つの大罪〉の技術で作った機体に、キリファの作った人工知能を載せた、とんでもない性能を持った真の〈ケル〉〈ベロ〉がいるという。

 真の〈ケル〉〈ベロ〉は、『張りぼて』の〈ケル〉〈ベロ〉のカメラマイクを使って、どこかから鷹刀を見守っているらしい。そして、〈スー〉を起動させれば、何かしらの情報を喋ってくれるのではないかと推測できた。


 屋敷に戻り、メイシアはルイフォンに、ルイフォンの記憶が改竄されている可能性があると、イーレオに相談したことを打ち明ける。そのとき、イーレオが、自分は〈悪魔〉であると示唆したことを告げる。

 話をしていくうちに、ふたりは、『昔の鷹刀』を知ることで、イーレオが理解を得ようとしていたこと、そのためにメイシアとユイランを引き合わせたのだということに気づいた。そしてルイフォンは、『隠しごとばかりする糞親父を吊るし上げる』と宣言したのだった。


 また、ルイフォンは、ユイランが別れ際に『〈天使〉のホンシュアは、ルイフォンの異父姉セレイエの〈影〉だ』と暗に伝えてきたことを言う。

 今までの出来ごとを重ね合わせると、『女王の婚約を開始条件トリガーに、『デヴァイン・シンフォニア計画プログラム』は動き出す』。

 つまり、〈七つの大罪〉の正体とは――。

 そして、『デヴァイン・シンフォニア計画プログラム』とは、いったいなんなのか……。

 何が起きているのか分からない。それでも、〈天使〉のホンシュアが――セレイエが引き合わせたメイシアを、必ずこの手で幸せにすると、ルイフォンは決意を新たにしたのだった。



===登場人物===


鷹刀ルイフォン

 凶賊ダリジィン鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの末子。十六歳。

 母親のキリファから、〈フェレース〉というクラッカーの通称を継いでいる。

 端正な顔立ちであるのだが、表情のせいでそうは見えない。

 長髪を後ろで一本に編み、毛先を金の鈴と青い飾り紐で留めている。

 凶賊ダリジィンの一員ではなく、何にも属さない「対等な協力者〈フェレース〉」であることを主張し、認められている。


※「ハッカー」という用語は、「コンピュータ技術に精通した人」の意味であり、悪い意味を持たない。むしろ、尊称として使われていた。

 「クラッカー」には悪意を持って他人のコンピュータを攻撃する者を指す。

 よって、本作品では、〈フェレース〉を「クラッカー」と表記する。


メイシア

 元・貴族シャトーアの藤咲家の娘。十八歳。

 ルイフォンと共に居るために、表向き死亡したことになっている。

 箱入り娘らしい無知さと明晰な頭脳を持つ。

 すなわち、育ちの良さから人を疑うことはできないが、状況の矛盾から嘘を見抜く。

 白磁の肌、黒絹の髪の美少女。



[鷹刀一族]

 凶賊ダリジィンと呼ばれる、大華王国マフィアの一族。

 秘密組織〈七つの大罪〉の介入により、近親婚によって作られた「強く美しい」一族。

 ――と、説明されていたが、実は〈七つの大罪〉が〈にえ〉として作った一族であった。


鷹刀イーレオ

 凶賊ダリジィン鷹刀一族の総帥。六十五歳。

 若作りで洒落者。

 実は〈七つの大罪〉の研究者、〈悪魔〉であったらしい。


鷹刀エルファン

 イーレオの長子。次期総帥。ルイフォンとは親子ほど歳の離れた異母兄弟。

 感情を表に出すことが少ない。冷静、冷酷。


鷹刀リュイセン

 エルファンの次男。イーレオの孫。ルイフォンの年上の『甥』。十九歳。

 文句も多いが、やるときはやる男。

『神速の双刀使い』と呼ばれている。

 長兄レイウェンが一族を抜けたため、エルファンの次の総帥になる予定である。


鷹刀ミンウェイ

 イーレオの孫娘にして、ルイフォンの年上の『姪』。二十代半ばに見える。

 鷹刀一族の屋敷を切り盛りしている。

 緩やかに波打つ長い髪と、豊満な肉体を持つ絶世の美女。ただし、本来は直毛。

 薬草と毒草のエキスパート。医師免状も持っている。

 かつて〈ベラドンナ〉という名の毒使いの暗殺者として暗躍していた。

 父親ヘイシャオに、溺愛という名の虐待を受けていた。


草薙チャオラウ

 イーレオの護衛にして、ルイフォンの武術師範。

 無精髭を弄ぶ癖がある。


料理長

 鷹刀一族の屋敷の料理長。

 恰幅の良い初老の男。人柄が体格に出ている。


キリファ

 ルイフォンの母。四年前に謎の集団に首を落とされて死亡。

 ただし、これは「ルイフォンの記憶」であり、偽りである可能性が濃厚である。

 天才クラッカー〈フェレース〉。

〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈スコリピウス〉に〈天使〉にされた。

 また〈スコリピウス〉に右足首から下を斬られたため、歩行は困難だった。

 もとエルファンの愛人。エルファンとの間に生まれた娘がセレイエである。

 ルイフォンに『手紙』と称し、人工知能〈スー〉のプログラムを託した。


〈ケル〉〈ベロ〉〈スー〉

 キリファが作った三台の兄弟コンピュータ。

 表向きは普通のコンピュータだが、それは張りぼてで、本当は〈七つの大罪〉の技術を使った、人間と同じ思考の出来る人工知能を搭載できる機体である。

〈ベロ〉に載せられた人工知能の人格は、シャオリエを元に作られているらしい。

 また〈スー〉は、ルイフォンがキリファの『手紙』を正確に打ち込まないと出てこない。


セレイエ

 エルファンとキリファの娘。

 ルイフォンの異父姉、かつ『姪』。リュイセンの異母姉。

 貴族シャトーアと駆け落ちして消息不明。

〈影〉と思われるホンシュアの『中身』だと推測されている。

 メイシアを選び、ルイフォンと引き合わせた、らしい。



[〈七つの大罪〉・他]


〈七つの大罪〉

 現代の『七つの大罪』=『新・七つの大罪』を犯す『闇の研究組織』。


〈悪魔〉

 知的好奇心に魂を売り渡した研究者を〈悪魔〉と呼ぶ。

〈悪魔〉は〈神〉から名前を貰い、潤沢な資金と絶対の加護、蓄積された門外不出の技術を元に、更なる高みを目指す。

 代償は体に刻み込まれた『契約』。――といわれているが、おそらくは組織のトップである〈神〉に逆らえないように、〈悪魔〉となるときに〈天使〉による脳内介入を受けている、という意味だと思われる。


〈天使〉

「記憶の書き込み」ができる人体実験体。

 脳内介入を行う際に、背中から光の羽を出し、まるで天使のような姿になる。

〈天使〉とは、脳という記憶装置に、記憶データ命令コードを書き込むオペレーター。いわば、人間に侵入クラッキングして相手を乗っ取るクラッカー。

 羽は、〈天使〉と侵入クラッキング対象の人間との接続装置インターフェースであり、限度を超えて酷使すれば熱暴走を起こす。


〈影〉

〈天使〉によって、脳を他人の記憶に書き換えられた人間。

 体は元の人物だが、精神が別人となる。


『呪い』・便宜上、そう呼ばれているもの

〈天使〉の脳内介入によって受ける影響、被害といったもの。

 服従が快楽と錯覚するような他人を支配する命令コードや、「パパがチョコを食べていいと言った」という他愛のない嘘の記憶データまで、いろいろである。


『di;vine+sin;fonia デヴァイン・シンフォニア計画プログラム

サーペンス〉が企んでいる計画。

ムスカ〉の協力が必要であるらしいのだが、謎に包まれている。

『di』は、『ふたつ』を意味する接頭辞。『vine』は、『つる』。

 つまり、『ふたつのつる』――転じて、『二重螺旋』『DNAの立体構造』――『命』の暗喩。

『sin』は『罪』。『fonia』は、ただの語呂合わせ。

 これらの意味を繋ぎ合わせて『命に対する冒涜』と、ホンシュアは言った。


ヘイシャオ

〈七つの大罪〉の〈悪魔〉、〈ムスカ〉。ミンウェイの父。故人。

 医者で暗殺者。

 病弱な妻のために〈悪魔〉となった。

〈七つの大罪〉の技術を否定したイーレオを恨んでいるらしい。

 娘を、亡くした妻の代わりにするという、異常な愛情で溺愛していた。

 そのため、娘に、妻と同じ名前『ミンウェイ』と名付けている。

 十数年前に、娘のミンウェイを連れて現れ、自殺のような状態でエルファンに殺された。


現在の〈ムスカ

〈七つの大罪〉の技術によって蘇ったと思われるヘイシャオ。

 イーレオに恨みを抱き、命を狙ってくる。

 記憶も姿も、ヘイシャオそのものであるが、実姉のユイランに言わせれば『第三者が自分の目的を果たすために作った、ただの駒』であり、ヘイシャオとは『別人』。


ホンシュア

 セレイエの〈影〉と思われる人物で、〈天使〉の体にさせられていた。

〈影〉にされたメイシアの父親に、死ぬ前だけでも本人に戻れるような細工をしたため、体が限界を超え、熱暴走を起こして死亡。


サーペンス

ムスカ〉が、ホンシュアのことを〈サーペンス〉と呼んでいた。

 ホンシュアの中身はセレイエだと思われるため、セレイエが〈サーペンス〉である……かは不明。



[草薙家]


草薙レイウェン

 エルファンの長男。リュイセンの兄。

 エルファンの後継者であったが、幼馴染で妻のシャンリーを外の世界で活躍させるために

鷹刀一族を出た。

 ――ということになっているが、リュイセンに後継者を譲ろうと、シャンリーと画策したというのが真相。

 服飾会社、警備会社など、複数の会社を興す。

 

草薙シャンリー

 レイウェンの妻。チャオラウの姪だが、赤子のころに両親を亡くしたためチャオラウの養女になっている。

 王宮に召されるほどの剣舞の名手。

 遠目には男性にしかみえない。本人は男装をしているつもりはないが、男装の麗人と呼ばれる。


草薙クーティエ

 レイウェンとシャンリーの娘。リュイセンの姪に当たる。十歳。

 可愛らしく、活発。


鷹刀ユイラン

 エルファンの正妻。レイウェン、リュイセンの母。

 レイウェンの会社の専属デザイナーとして、鷹刀一族の屋敷を出た。

 エルファンの愛人キリファとは敵対関係、と周りに思わせていたが、実はキリファが信頼をおいていた人物のひとり。

 メイシアの異母弟ハオリュウに、メイシアの花嫁衣装を依頼された。



[藤咲家・他]


藤咲ハオリュウ

 メイシアの異母弟。十二歳。

 父親を亡くしたため、若年ながら藤咲家の当主を継いだ。

 十人並みの容姿に、子供とは思えない言動。いずれは一角の人物になると目される。

 異母姉メイシアを自由にするために、表向き死亡したことにしたのは彼である。

 女王陛下の婚礼衣装制作に関して、草薙レイウェンと提携を決めた。


緋扇ひおうぎシュアン

『狂犬』と呼ばれるイカレ警察隊員。三十路手前程度。イーレオには『野犬』と呼ばれた。

 ぼさぼさに乱れまくった頭髪、隈のできた血走った目、不健康そうな青白い肌をしている。

 凶賊ダリジィンの抗争に巻き込まれて家族を失っており、凶賊ダリジィンを恨んでいる。

 凶賊ダリジィンを殲滅すべく、情報を求めて鷹刀一族と手を結んだ。

 敬愛する先輩が〈ムスカ〉の手に堕ちてしまい、自らの手で射殺した。

 似た境遇に遭ったハオリュウに庇護欲を感じ、彼に協力することにした。

 


[繁華街]


シャオリエ

 高級娼館の女主人。年齢不詳若くはないはず

 外見は嫋やかな美女だが、中身は『姐さん』。

 元鷹刀一族であり、イーレオを育てた、と言っている。

 実は〈影〉であり、体は別人。そのことをイーレオが気にしないようにと、一族を離れた。


トンツァイ

 繁華街の情報屋。

 痩せぎすの男。



===大華王国について===


 黒髪黒目の国民の中で、白金の髪、青灰色の瞳を持つ王が治める王国である。

 身分制度は、王族フェイラ貴族シャトーア平民バイスア自由民スーイラに分かれている。

 また、暴力的な手段によって団結している集団のことを凶賊ダリジィンと呼ぶ。彼らは平民バイスア自由民スーイラであるが、貴族シャトーア並みの勢力を誇っている。

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