3.冥府の守護者-1

 幾つかの階段を上り、ルイフォンたちは執務室の扉までたどり着いた。

 彼らの前に立ちふさがる、大きく翼を広げた鷹の意匠。その羽の一枚一枚は刀と化している。一行の中で唯一、この扉を初めて見たハオリュウは、その細工の見事さに思わず息を呑んだ。

 先頭のルイフォンが振り返り、顔ぶれを確認する。

 ルイフォン自身と、異母兄エルファン、年上の甥リュイセンと、姪ミンウェイは家人であり、〈ベロ〉に登録済みである。

 メイシアは、貧民街で携帯端末を貸したときに、ルイフォンと同等の権限を与えた。メイシアの異母弟ハオリュウは、指揮官と話をつける必要があるから、ゲストアカウントを作るべきだろう。

 ルイフォンの目が、一番後ろからついてきた警察隊員シュアンに移る。

「エルファン、こいつも執務室に入れるのか?」

「ああ、使える駒だ」

 エルファンが短く答えた。その言葉を喜ぶべきか否か、シュアンは複雑な思いで鼻に皺を寄せた。

 そして彫刻の鷹が眼球を動かし、一同を鋭く威圧する。各人の認証を終えた扉は、小さな機械音を立てて、皆を招き入れた。



 部屋に入った瞬間に感じたのは、異臭――。

 ハオリュウは、肌にぴりぴりとした感触を覚え、戦慄した。

 それは、彼と共に門から屋敷内に入った、身分詐称の凶賊ダリジィンたちに、警察隊の緋扇シュアンが贈った末路と同じ臭いだった。

 脳裏に、ほんの少し前に見た光景が蘇る。ミンウェイの心遣いを振り切り、彼が五感に刻み込んだもの……。   

 ハオリュウは、先頭にいたルイフォンを押しのけ、更に行く手を塞ぐように立ち並んだ、警察隊員にしては体格のよすぎる大男たちを掻き分け、最前列に躍り出た。

 彼の目に飛び込んできたのは、部屋のほぼ中央で、血溜まりの中にうずくまる恰幅のよい男。制帽の徽章と制服の装飾が他の者とは異なることから、すぐにその男が指揮官だと知れた。

「……これは……いったい、どういうことですか!?」

 高さの安定しないハスキーボイスが、甲高く響く。ひび割れた声は、そのまま彼の気持ちを表していた。

 ハオリュウの目的は、指揮官に警察隊の撤退命令を出させること――。

 警察隊は、貴族シャトーアの藤咲家の要請によって出動した。だから、藤咲家の人間が撤退を命じれば、たとえ腑に落ちないことがあろうとも、従わざるを得ないはず。もし歯向かうようであれば、ハオリュウは金でも権力でもなんでも、使えるものはすべて使ってでも引かせるつもりであった。

 そして、警察隊を追い払ったあとで、その恩も売りつけつつ、鷹刀イーレオとの交渉に移る――異母姉メイシアの身柄を藤咲家に引き渡させ、斑目一族に囚われたままの父の救出を依頼する予定であった。

 だが、今、彼の目の前にあるのは、血まみれの指揮官の死体。

 いったい、誰が……? ハオリュウの頭に疑問が浮かぶ。しかし、彼はすぐにそれを打ち消した。

 考えるまでもない。

 彼ら一行がこの部屋に入る前にいたのは、斑目一族の息の掛かった指揮官と、彼の率いる警察隊員たち。それから、凶賊ダリジィン鷹刀一族総帥と、彼の部下。たった、ふたつの勢力。

 ならば、指揮官を傷つけたのは、鷹刀イーレオ本人か、彼に命じられた部下のどちらかしかあり得ない。

 もう少しで丸く収まるところを、何故、事態をややこしくする? 鷹刀イーレオは、とんだ痴れ者だったのか? ――ハオリュウは、奥歯をぎりりと噛んだ。

 こんなことになるのなら、異母姉メイシアの願いなど聞き入れず、彼女は脅迫されていた被害者で、鷹刀一族は誘拐犯とするべきだったのではないだろうか。そして、心情的に許せないものがあっても、ここは割り切って、斑目一族の言うことをすべて聞き入れ、父を解放してもらったほうがよかったのではないだろうか……。

 ハオリュウは、執務室全体を見渡した。

 中央やや奥に、白いベッド。銃弾に撃ち抜かれた枕が、少し離れたところで無残に羽毛を散らしている。

 壁に掛けられていたであろう風景画が床に投げ出され、その隣にふたりの男――壁に背を預けたまま動かない、手錠をはめられた制服の巨漢と、その傍らに立つ、巨漢に匹敵する立派な体躯の凶賊ダリジィン

 背後を振り返れば、さきほど彼が掻き分けてきた壁のような大男の警察隊員たちが、出口である扉を封じるように立っている。男たちの後ろに、ハオリュウと共に執務室までやってきた一行。卒倒しかけながらも持ちこたえている異母姉メイシアと、それを支えるルイフォンの姿もあった。

「藤咲ハオリュウ氏だな」

 不意に、呼びかけられた。突然のことだったためだけではなく、低く魅惑的な声色に、ハオリュウはぞくりとした。

 はっと気づいたときには、ひとりの男が目前に立っていた。

 ハオリュウは、動けなくなった。声を発することはおろか、瞬きさえもできなくなった。

「俺が鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオだ」

 鷹刀一族の血が色濃く出た、中性的な美貌。それなりの年齢であるはずなのに、まるで老いを感じさせない漆黒の魔性。

 緊迫したこの場に、まるで不釣り合いな緩やかな部屋着を身に纏い、口元に微笑を浮かべる。それだけで、目を逸らすことが叶わなくなる。吸い込まれるような魅惑……。

 怒りをぶつけているはずの相手に、ハオリュウは完全に呑まれていた。

「……不躾に失礼いたしました。僕……私は、貴族シャトーアの藤咲家当主代理、藤咲ハオリュウです」

 やっと、それだけの言葉が出た。

 一方、イーレオには、ハオリュウの心の内が手に取るように理解できていた。すべて顔に出ていたからである。

 だからといって、この複雑な状況を説明するのは容易ではない。必要なこととはいえ、警察隊姿の巨漢を捕らえているのだ。まったく何もしていないとは言い切れない。さて、どう言ったものか。彼は秀でた額に皺を寄せた。

 そのときだった。

「ハオリュウ様」

 太い声が響いた。

 思わぬ方向からの声に、その場にいた者たちは皆、そちらに注目した。見れば、手錠をはめられた制服の巨漢が顔を上げていた。

 チャオラウに失神させられていた巨漢が、ちょうど意識を取り戻した……のではなかった。彼は数分で回復していたのであるが、今までそれを隠していたのだ。

「指揮官は、鷹刀イーレオに襲われました。誘拐の嫌疑は晴れましたが、家宅捜索の際に見つけた資料について尋ねたところ、いきなり……。止めようとした私もこの通りです」

 巨漢は生真面目な顔をして言った。満身創痍の体に、手錠まではめられた両手をじゃらりと強調する。

 事実を知る者たちは、よくもぬけぬけと言ったものだと、呆れを通り越して感心すらしただろう。だが、それを知らぬハオリュウには充分に説得力のある言葉だった。

 ハオリュウを絡め取っていたイーレオの魅了の呪縛が、ふつりと切れた。

「くっ……! やっぱり、なんだな……!」

 ハスキーボイスが裏返る。

 鷹刀イーレオは所詮、凶賊ダリジィン。凶悪で粗暴な害悪にすぎない。一時とはいえ、圧倒されてしまったことが恥ずかしく思え、怒りが倍増した。

 裏切られたような喪失感が胸にこみ上げてくるのを感じ、そしてそれは、それだけ鷹刀イーレオに期待していた証拠なのだと気づき、忌々しく、悔しくなってくる。

「その件は一切、我が藤咲家のあずかり知らぬことです。警察隊で処理なさってください。――指揮官に、ご冥福を」

 鷹刀イーレオには失望した。

 だが、過ぎたことは仕方ない。この双肩に掛かっているのは父と藤咲家の命運。すぐに次の行動に移らねば……。

 ハオリュウが背を向けようとしたときであった。

「ハオリュウ、待って!」

 高い声が、鋭く彼の動きを遮った。

「イーレオ様は、そんな方ではないわ!」

 壁のように並んだ大男の間を掻き分け、異母姉メイシアがハオリュウに駆け寄る。その必死な様子に、彼は苛立ちを覚えた。

「何を言っているの、姉様!? 帰るよ!」

 異母姉の手を捕まえ、彼はきびすを返す。

「ハオリュウ!」

 ――と、彼の名を呼ぶ声が、『ふたつ』重なった。

 ひとつは、高く澄んだ、異母姉メイシアの声。

 もうひとつは、低く魅惑的な、鷹刀一族総帥、鷹刀イーレオの声――。

 対照的な音がつくるハーモニーに、メイシアは驚き、萎縮して口籠ったが、イーレオはゆっくりと押し切るように言を継いだ。

「斑目に下る気か?」

「はっ! 弁解でもするのかと思えば!」

 悪びれもせずに話しかけてくる厚顔さに、ハオリュウは蔑みの眼差しをぶつけた。だが、涼やかな顔のまま動じることのないイーレオに、更に不快感を募らせただけだった。

「そりゃあ、俺も、弁解のひとつくらいはしようと思ったさ。だが、面倒臭そうなのと、そもそも無意味だと気づいたからな」

「どういうことですか!?」

「いくらお前が貴族シャトーアでも、その場にいなかった事件には口出しできない。それに、お前はこの件に関して『藤咲家のあずかり知らぬこと』と警察隊に、はっきりと宣告しただろう?」

 激しく食らいつくようなハオリュウに対して、イーレオは凪いだ海のようにどこまでも穏やかだった。ハオリュウの傍らで恐縮しているメイシアにも、気にするなと目元で言う。

「ええ、そうです。藤咲家はあなたとはなんの関係もありません。それでは失礼します!」

「待てよ。ここは俺の屋敷テリトリーだ。俺の屋敷テリトリー内のものは、生かすも殺すも、俺次第だ」

「……なっ!?」

 イーレオの口角が、かすかに上がった。

「お前を守る者は誰もいない。そのことに気づいているか?」

 低く柔らかな言葉の波が回り込み、ハオリュウの足元をすくった。さらさらと崩れ落ちる砂の上に立っているような感覚に、彼は目眩を覚える。

 藤咲家に仕える彼の護衛は、門のところで待機させてきた。屋敷に入るときに護衛として連れてきた偽の警察隊員は、シュアンに射殺されている。そのシュアンは、警察隊員でありながら鷹刀一族と手を組んでいる。

 この執務室にいる、警察隊の制服を着た大男たちはどうか。イーレオの口ぶりと、あまりにも戦闘向きすぎる体つきから察するに、やはり彼らも偽者――斑目一族の凶賊ダリジィンと考えるのが妥当だろう。果たして、彼らは貴族シャトーアを守ってくれるだろうか――否。

 ハオリュウは苦々しげに唇を噛み、視線を下げた。汗でしっとりと濡れた拳を握りしめる。

 つまり、鷹刀一族と斑目一族の抗争のただ中に、丸裸で放り出されたも同然――。

「ミンウェイを護衛につける。門まで送らせよう。そこまでの安全は保証する」

「え?」

 今までの流れを逆流させたかのような、イーレオの唐突な発言。間抜けな声を出しながらハオリュウが顔を上げると、図らずとも直視してしまったイーレオの完璧な美の中には、どこか茶目っ気のある遊び心が隠されていた。

 困惑するハオリュウに、イーレオは眼鏡の奥の目を、ふっと細めた。

「上に立つ者は、決して選択肢を間違えてはいけないし、自らを危険に晒してもいけない。……たとえそれが、どんなにしんどくてもな」

 言葉の波がハオリュウに打ち寄せる。触れそうで触れずに戻っていく波は、ハオリュウの足元に複雑な砂紋を描いていた。それが何を意味しているのか、彼にはまるで理解できなかったが、引き波の行方はイーレオの過去なのだと、ぼんやりと潮の香だけを嗅ぎ取った。

 鷹刀イーレオは決して『善』ではない。なのに、いや、だからこそ、人を惹きつけてやまない。

 ハオリュウは、再びイーレオに呑み込まれそうになる自分を感じ、きつく拳を握った。

 ――口先だけだ。

 強く握りしめた掌に硬いものが食い込んで、痛かった。それが何か、見なくても彼には分かっていた。自分の指に嵌められた、重い金色の指輪だ。

凶賊ダリジィン風情が、貴族シャトーアの僕に説教する気か!?」

 ハオリュウは、きっ、とイーレオを睨みつけた。

「ハオリュウ、そんなこと言わないで!」

 鈴を振るような声が、悲愴な色合いで割り込む。

「姉様は、都合が悪くなると、すぐに口封じをするような、人間の屑の肩を持つの!?」

「イーレオ様は、指揮官を傷つけてなどいないわ!」

 メイシアは、きっぱりと言い切った。その堂々たる態度に、いつも一歩引いた異母姉しか知らないハオリュウは耳を疑う。――が、すぐに言い返す。

「それ以外、考えられないだろ! 他に誰がやるっていうんだ!?」

「狂言だわ」

「……え?」

 ハオリュウは、メイシアをじっと見つめた。半分は血が繋がっているのに、まるで似ていない異母姉。生まれたときから見続けている美しい顔が、今は知らない人のように見えた。

「この状況を冷静に考えてみて。大前提として、イーレオ様に誘拐の罪を着せて、捕らえようとしている『誰か』が存在するのよ。そして誘拐の罪が晴れたらすぐに、傷害の罪が用意されている――不自然でしょう?」

「あ……」

 狙われていたのは鷹刀イーレオだ。彼を捕らえるために、貴族シャトーアのメイシアを屋敷に送り込み、警察隊を出動させる大義名分を作った人物がいる――。

 ハオリュウは愕然として、血溜まりの中に倒れる指揮官を見た。目的のためなら、ここまでする輩が相手なのか……そう思ったとき、ふと指揮官が荒く息を吐いたように見えた。

「指揮官!?」

 指揮官の体がびくりと動いた。痛みのあまり気を失っていたのだが、ハオリュウの声が刺激になって目覚めたらしい。

「う……。うう……」

 地獄の底から這い出そうとでもするように、血まみれの指先を伸ばす。

 今まで黙って様子を窺っていた、手錠の巨漢が口を開いた。

貴族シャトーアのお嬢さん、随分と勝手なことを言ってくださいますね? いくら貴族シャトーアとはいえ、推測だけで物事を決めつけられては困ります」

 頬の刀傷を引きつらせながら、巨漢は物々しく顔を顰める。そして、警察隊の制服を着た大男たちに冷酷に言い放った。

「鷹刀イーレオを逮捕しろ。抵抗するようなら、見せしめに奴の身内を射殺しろ」

「なっ……」

 その呟きを、誰が漏らしたものかは判然としなかった。

 ただ、空気が緊張の色に染まったのは確かで、各々が好き勝手な色彩でもって染め上げた場は、混沌としていた。

 その中で――。

 ――銃声が、ひとつ。素早く鳴り響いた。

 硝煙の臭いと、かすかに肉の焦げる臭い。

「誰だっ!」

 巨漢が叫んだ。その頬には、刀傷をなぞるかのような、新たな擦過傷があった。

 声に応じて、警察隊の濃紺の制服の中から、ひとりの男が現れる。

 彼は中肉中背のはずなのだが、大男たちの中に埋もれるように紛れていたので、随分と貧相に見えた。加えて、無理やり制帽で押さえつけた、精彩を欠いたぼさぼさ頭。しかし、斜に構えた三白眼は、鋭い眼光を放っていた。

「警察隊所属、緋扇シュアンだ。全員、動くな」

 彼は拳銃を構え、ぴたりと巨漢に照準を合わせた。彼の射撃の腕前に対して、巨漢は四肢を封じられている。巨漢の生命が、シュアンの手の中に握られた。

 シュアンは巨漢への警戒を怠らずに、「上官殿、大丈夫ですか」と、指揮官に声を掛けた。

「緋扇……!」

 血まみれの指揮官が喜色を上げる。

「上官殿の危機に馳せ参じました」

「あ、ああ……、よく、来て、くれた……!」

 少々扱いにくいが、いつも困ったときに突破口を開いてくれる、お気に入りの部下。どうやってここに来たのか分からぬが、ともかく助けに来てくれたのだと、指揮官は喜んだ。

「ご安心ください。鷹刀イーレオは逮捕しました」

 口の端を上げた悪相で、シュアンは優しげな声色を出した。

 失血のショックで意識がなかった指揮官は、現状を把握していないと彼は踏んだ。

 つまり、この言葉は――罠。

「よくやった!」

 指揮官の顔が安堵に染まる。シュアンは、その心の油断に、そっと囁く。

「あとは、上官殿に傷を負わせた憎き凶賊ダリジィンを捕らえるだけです。刀傷の男ですね?」

「そうだ!」

 その瞬間、シュアンの血色の悪い顔が満足そうに歪み、目には見えない狂犬の牙が光った。

「上官殿、あんた、その男を部下として連れ歩いていたぜ?」

 断罪を求めるようにではなく、あくまでも優しく誘うように――シュアンは奈落の底への道標を照らし出す。

「ここらが潮時だろ、上官殿。あんたが斑目とつるんでいる証拠なんか、俺はとっくに握っている。その傷も狂言そのもの。鷹刀イーレオが殺すつもりでやったなら、急所を外すわけがない」

「緋扇!? こ、この……! 恩をあだで……! この狂犬め!」

「『狂犬』ね? ああ、あんたは散々、俺のことを便利な犬扱いをしてきたな。ならば、飼い犬に手を噛まれた、ってことでどうだ?」

 シュアンは、毒づく指揮官を氷のような目で一瞥すると、それきり興味を失ったように視界から外した。そして、この部屋の扉の方角に向かって、やや得意気に口角を上げる。

「ミンウェイさんよ、このカードはここで切るのが一番効果的だろう?」

 彼はそれだけ言うと、今度は壁のように立ち並ぶ大男たちを睨みつけた。

「お前らが偽の警察隊員だということは分かっている。武器を捨てろ。両手を頭の後ろで組むんだ。従わなければ、あいつを撃つ。お前らのボスだろ?」

 シュアンが巨漢を顎でしゃくる。

 だが、その巨漢から低い笑い声が響いた。

「構わん。お前ら、邪魔者を殺せ。すべて殺せ。鷹刀も貴族シャトーアも、このうるさい警察隊員も!」

「何っ!?」

 さすがのシュアンも目をむいた。ぎょろりとした目玉が飛び出しそうになる。

「私のことはどうでもいい。目的を果たせ」

 巨漢の哄笑。

 大男たちの、銃を構える気配。

「撃て!」

 ――と、巨漢が叫ぶと同時に、低く魅惑的なイーレオの声が執務室を貫いた。

「〈ベロ〉、れ!」

 次の瞬間、無数の銃声が鳴り響いた。

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