法螺貝吹きのテノヒラ
洞貝 渉
第1話 雲
痛くはなかった。
ただ醜いだけで。
いつ付くのかは知らないけれど、身体中に擦り傷が出来ていた。しかも、日ごとに増えている。
私は平気だった。そんなものだと割り切っていたから。けれど、あの人はだめだったみたい。
あの人は私のことが好きで私のことが大切で、でも醜いものが嫌いな人。
擦り傷でどんどん醜くなっていく私のことを、あの人はそれでも好きで大切だと言ってくれて、大切で好きだからこそなんだと小さなガラスのケースを用意してくれた。
私はあの人の用意したガラスのケースにすっぽり入り込む。そして毎日毎日ぼんやりと空を眺めて過ごす。
ケースの中でも、私の擦り傷はなぜか増え続けた。あの人は頭を抱えた。
ある日、私の目の前が真っ白になる。あの人がたくさんの綿を用意して、ケースの中に押し込んだのだ。これ以上醜いものは見たくない、見たくないんだ、と言っていたような気がする。
痛くはなかった。
ただ、痛々しかっただけで。
もう見ないでいいのかと思ったとたん、身体がふっと軽くなった。
私はでこぼこな白い雲になって、そよそよと浮かび上がり、空の一部に溶け込んでしまった。
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