異世界に行きたい願っていたら、現実世界のとんでもないところに連れて行かれそうです。
夕日 羅紗
俺に届いた不幸の手紙
「ねぇ、私と一緒にAuditしませんか?」
トクントクン
何かが脈打つような鼓動が聞こえ、俺は目を覚ます。誰かの声が聞こえたような気がしたが、夢であろう。
いつもと同じ天井。閉めきった部屋の少しカビ臭いにおい。誰もいないダイニングには昨日作ってそのまま置いたクリスマスのごちそう。
何も変哲のない部屋に一人寂しくクリぼっち。
★★★
「就活」それは人生で一番大事な決め事をするとても重要な行為だ。
これに失敗すると属にいう「ブラック企業」入ってしまうことも多々ある。
俺は晴れて大学四年生となり、就活を始めたがどうやら遅かったらしい。
唯一の強みは中学からずっとやっていた剣道。体の筋肉量と鍛え抜かれた精神は誰にも負ける気はしない。
だが、特にやりたいこともなく適当に企業面接を受けるが、やっとの思いで最終選考に行った企業も落ちてしまった。
これはもうこれは生きる望みさえなくしてしまう。
「吹雪 翼(男)、就活浪人確定」
これが脳裏によぎる。春から始めたのにもかかわらず、十二月二十四日現在、クリスマスとなり午後十時過ぎに届いた不幸の手紙。それは「残念ながら……」で始まる文章……
俺はクリぼっちの悲しさと就活の厳しさを噛み締めながら家で一人、ホールのケーキをやけ食いしていた。
「ちくしょうなんだよ! クリぼっちの上に就活浪人しそうとかマジオワタ……」
やけになって、いっぱい口に含んでいたケーキが床に飛び散った。
威勢よく叫んで見たものの、最後は恥ずかしくなり涙ぐんでしまった。もうこんな世界嫌だ。はぁ、異世界とかに転生なんか出来たらマジで本気を出すのに……
「ああ、慰めてくれる彼女かブラックでもいいから会社に入りたい。そして異世界に行きたいぜ」
どうにでもなってしまえと思いながら今まで受けた会社の不採用通知をビリビリに引き裂こうと部屋片隅に置いていた箱を机の上に乱雑に中身をぶちまけ、どうにでもなれとわさわさと手でかき混ぜ、手にいっぱいの封筒を下から上に持ち上げて、バサーっとおとしてた。
ブラックは嫌だと言っていた自分はもうどこにもいなかった。だって、仕事をしないと金は入んないし……
「ん? これは…」
不可解な物を見つけた。それはまだ一度も封を切っていない最終選考の合否通知だった。
おかしい。だって俺、最終選考まで行ったとかだったら、喜んで合否を待つはずなのに……
しかもこんな会社を受けた覚えがないのだが、まあとにかく採用なので素直に喜ぶことにした。
だが、これブラックじゃないのか__
封を開け中を見ると合格の文字とともに、少しブラックと疑ってもいいものが書かれていた。
「年中働ける健康な体かつ給料以上の成果を見せることのできる人間とみなし、我が社に入ることを前提として入社することを内定す。
そして採用者は全員我が社の社員寮に入ってもらい、盆・正月以外は寮で過ごすこと。」
なんとも言えない気持ちだ。この「Audit corporation」って…胡散臭いんだけど…ていうか「Audit」ってどういうことなんだろうか?
まあとりあえずIT企業っぽいので、少々ブラックでも仕方がないかな。
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