第15回にごたん
俺と祭りと馬鹿囃子
【届かないものに手を伸ばす】
【突然のスケべ心】
【祭囃子】
「ねぇ玲央、あれ取って」
「どれどれ…」
「なにナチュラルにスカートに手いれてんのよ!?蹴るよ?」
「お願いしますっ!」
「この変態っ!」
バシィッ!
案の定蹴られた。これもこれで気持ちいい。中見れるし。
だがそんなことは今はどうでもいい。今は彼女の浴衣を出さねばならないのだから。
遠くに聞こえるのは囃子衆のすり鉦と笛、そして締太鼓の音。
夏祭りに誘ったのは俺だが、浴衣を探すのを手伝ってくれ、というので、優奈の家に来ている。
捜し物自体は早々に見つかったものの、あったのがクローゼットの一番上のさらに一番奥にしまわれていた。
当然女の子には取らない場所なので、俺の出番と相成ったわけで…
「よし、掴んだ!」
慎重に探し当てたその箱を手元へたぐり寄せる。
「降ろすよー」
「はーい」
ハシゴの下で待機していた優奈にそれを渡す。
「ふぅ…」
「うん、これこれ。ありがとう」
中身の浴衣の色は紺色に桜。着れば更に美しく見えるのは想像するまでもなかった。
「じゃあ着替えるから、リビングで待ってて」
「りょーかい」
待つこと30分。
「お待たせー」
「…!?」
長い緑の黒髪をサイドテールでまとめた彼女の姿に、俺は絶句するしかなかった。
「どうかな…?似合ってる…?」
その少し照れた表情と相まって、俺の体を何かが駆け巡っている。
「…あ、ああ。すごく似合ってるよ」
「ありがと♡」
もう体が蕩けそうだ。もうすでに蕩け始めてい脳をなんとか機能させ、会場の公園へ向かった。
人、人、人。
こんな小さな町内にもかかわらず、混雑していた。
決して広くはない砂浜に、ところ狭しと並ぶ屋台。
軽トラに乗っかって演奏している囃子衆。
「優奈、かき氷食べる?」
「もちろん。当たり前じゃない!」
ちなみに食券制なので、テントの中の販売列に並ぶ。
かき氷以外に、フランクフルト、焼きそば、たこ焼きと、それからヨーヨー釣りも買った。
お代は俺が出すよ、といったが、彼女は首を振って、
「いいよ、私のは私で買うから」
と、俺の手を止めた。
「ほんとに人多いねー」
護岸沿いに置かれたベンチの1つに座り、焼きそばを頬張る。旨い。
「まー、自治会入ってない人間もお祭りにだけは来るからなー」
「そういう話じゃなくって、さー」
ぷくー、っと頬を膨らませる仕草も可愛い。
俺自身、自治会の役員を年寄り連中による半ば押し付けとはいえやっている立場なので、そういうことが脳裏に浮かんでくるのは仕方ないだろう、と自分の中で適当に処理する。
「ねえ、玲央」
「ん?」
「はい、あーん」
彼女にたこ焼きを差し出され、かじりつく。
「うん…美味しいな」
「でしょ?」
「ああ」
ヒュ〜、ドン、ドーン!!
砂浜のあちこちから歓声が上がる。
花火が始まった。
夜空を彩る七色の太陽に、俺達は食べる手を止めて見入っていた。
次々と細い線を空に描き、大輪の華を咲かせる。
「ねえ、玲央」
「うん?」
「来年も、また来ようね」
振り向く彼女の笑顔もまた、一輪の花を咲かせていた。
「…うん」
それから向き直して花火を見つめる。
いつの間にかお互いの手が繋がっていた。
もう一つ、花火が上がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます