第九回にごたん
ハイドレンジアは七色に
【カサブランカ】
【君の笑顔が見れるなら】
【冷やし中華】
今日も雨。
明日も雨。
梅雨の季節って、本当に大キライ。
「はぁ………」
「どうしたの?そんな暗い顔して。リコには似合わないよ?」
「だって、先輩とデートに行けないんですよぉ…先輩は辛くないんですかぁ…?」
思わず涙声になる。
「デートに行けないからこそできることもあるんだ、って思えばなんともないよ。例えば、こんなのとか」
ふいに私の体を抱き寄せる。あったかい。
「先輩っ…!」
急なハグに対応できず、中華麺だって茹で上がりそうなくらいに体が
実際にはそんなでもないのに、悠久とも思える時間が流れる。
身体を離し、先輩に言う。
「先輩、」
「うん。どうしたの?」
いつもの優しさに満ち満ちた表情を見せてくれる。学校の女子から大人気の先輩ですら、私にしか見せない、私だけが見られるもの。
自分からこんなことを言うのはめったになかったから、思わず声がうわずってしまいそうになる。
「あ、あの…その…」
もじもじしていても先輩は待ってくれた。
「…キス、してください」
「…え?」
「キス、してほしいんですっ」
「…いいよ」
「いいんですか?」
「いいに決まってるさ」
先輩に対面し、少しずつ顔を近づける。
そして。
私の唇と、先輩の唇が重なる。
「ん…」
「先輩、大好きです…」
「僕も、リコが大好きだよ」
「先輩、ずっと一緒にいたいです…!」
「僕もだよ…!」
さっきよりも強く抱き締められる。
スッ、とお互い同時に身体を離す。
「あの、先輩…お昼ごはん食べて行きませんか?」
いま先輩がいるのは私の家。たまたま両親が出かけていなかったので、先輩が遊びに来ている。ちなみに今までお互いの家には行っていない。
「ごめんね、今日はちょっと、遠慮させてほしいかな。そろそろうちの両親が帰ってくるから家に戻らないといろいろマズいし。でも次は、必ず」
そういって、私の頭を優しく撫でる。
「そうですか…じゃあ今度ご馳走してあげます。約束ですよ?」
「うん」
小指を差し出され、私もそれに合わせる。
「「指切りげんまん、嘘ついたら針千本の~ます、指切った」」
「ふふふっ…!」
「あはは…!」
思わず笑ってしまう。
先輩はお腹を抱えて苦しそうにしている。
「あはははははは…!」
「せ、先輩、笑うことないじゃないですかぁーーーー!!!!」
「そ、そういうリコの方こそ…!」
ひとしきり笑い転げてから、先輩が言った。
「じゃあ、そろそろお暇させてもらうね」
「あ、玄関まで行きましょう」
玄関にて。
「デートは出来なかったけど、楽しかったよ。じゃあね」
「はい。また明日、学校で会いましょう」
私の中の最高のスマイルを見せる。
背中を向ける先輩。
その姿を見て、思わず、
「先輩!」
「なに?」
その背中に飛びついてみた。
「うわっ!?」
「先輩、私も楽しかったです。今度はお昼も作って待ってますからっ!」
「…うん。期待してるよ」
家に戻り、キッチンへ。
手作りの錦糸卵に、自家栽培のキュウリの細切りとハム。
自分の考えに思わず笑ってしまう。
(………フフッ)
用意したはいいけど、食べずじまいになってしまった。
冷蔵庫にそれらをしまうと、自分の部屋に戻る。
外はいつのまにか晴れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます