第八回にごたん

Summer×Summer Days

【パラダイス・ロスト】

【紋切型】

【二度目のキセキは】




「クソッ、もうこれまでか…」

「俺たちの探し求める本当のパラダイスは消えてしまうのか…」

『女子の、入浴シーン………』


 (はぁ………)

 コイツらは一体何しに合宿に来ているんだ全く、と同性ながら本当に呆れる。

 僕は何気に頭痛のする頭を抱えながら、記憶を夏休み前にまで遡らせた。


 「合宿よ、合宿!」

『おおおおおお!!!!』

 7月21日の文芸部室。つまり、明日から夏休み。

 部長たる剣崎千尋けんざきちひろ先輩は、僕らに向かってそう告げた。

「ちーちゃんちーちゃん、合宿ってどこ!?湯河原?伊勢?それとも舞浜?はたまた大阪?」

「残念、鎌倉よ」

「ええ~」

 情けない声をあげながら千尋先輩に縋りついているのは小宮由里こみやゆり先輩。通称、ゆりっぺ先輩。

「千尋先輩、鎌倉合宿はいいんですけど、どこに泊まるんですか?」

 この質問はクラスメートで同じく文芸部員の相良瑛四郎さがらえいしろう(いわゆるイケメン男子)。

「それはね…なんと!私の別荘、なのです!エッヘン!」

 推定Eカップはある(By 瑛四郎)大きな胸を見せつけるように宣言する。

『べ、別荘!?』

 千尋先輩の家がそんな金持ちだとは…!

「日程は今日中にみんなにメールするから、確認してね」

「でもそうすると合わない人も出るんじゃあ…」

 3人目の男子、水上みなかみトオルの疑問には、

「大丈夫よ、皆に前に聞いた夏の予定で全員問題ない日を押さえてあるから」

 と答えた。

 かくして僕ら文芸部は、鎌倉にある千尋先輩の別荘で合宿を行うのだった。



 通勤電車と路面電車を乗り継いで約2時間。さらにタクシーで30分。

 めちゃくちゃ豪華な邸宅に到着。

「ここが、私の家の別荘よ」

『おおおおおお………』

 揃って感嘆の声を上げる僕ら。

「さあ、早く入りましょ」


 玄関の門をくぐり、さらに徒歩3分。

『お、お邪魔しまーす………』

 まさに恐る恐る、といった様子で館内に入る僕ら男子に対し、部長の幼馴染でもあるゆりっぺ先輩は、

「あれ?ちーちゃん、キッチン新しくしたのー?」

「うん。今はIHの方がいいって、お兄ちゃんが言ってて」

「へぇー」

「ゆりっぺ先輩って、ここの別荘に来たことあるんですか?」

 と聞くと、先輩はこう答えた。

「うーん。そうなんだけど、結構昔のことだからあたしもあんまり覚えてないんだー。ごめんね、いっくん?」

 いっくん、というのは僕のこと。本名が織部おりべいつき、だから。

「あ、そうそう。部屋は、男の子が真ん中の階段を上がって右、私たち女の子は左にまとめて1部屋よ。荷物は各自でよろしくね」

『はーい』

 とりあえず千尋先輩にくっついている(物理)ゆりっぺ先輩はスルーし、案内された部屋へ。

 ドアを開けると、どこかの高級ホテルのような調度品の数々が目に入る。

『す、すげぇ…!』

 ベッドは三人分、シングルで丸ごと入るサイズの部屋に、ソファやらテーブルやら花瓶やら。

 どう考えてもエグゼクティブ、もしかしたらセミスイートくらいはありそうなレベル。

「よし、2人とも集まれ。ベッド決めるぞ。どれがいい?俺はバルコニー寄りがいい」

 と瑛四郎。

「じゃあオレはソファのところ」

「僕は入ってすぐのがいい」

「よし決まりだな。それともう一つ」

 声を潜める。

「なんだ」

「なに」

「例のアレ、についてだ」

「よしきた」

「あれって何?」

 僕の疑問に対し、瑛四郎とトオルは、

「のぞきだろう」

「のぞきだぞ?」

 何でこんなことも分からないんだ、という顔をしていた。

「君らおかしいんじゃないの!?」

「何を言うんだいつきよ。合宿と言えば露天風呂、露天風呂と言えばのぞきだろうが。合宿の醍醐味だぞ?」

「何その等式!?それはアニメの話だからね!?現実でやったら逮捕モンだよ!?」

「だからこそオレ達は、いや、オレ達だからこそ、成し遂げなければならないんだ」

「意味不明だよその理屈!?」

 と、そうこうしている内に、部屋のドアがノックされた。

 開けると、部長とゆりっぺ先輩が。

「私たちは先にお風呂入ってくるから、しばらく部屋で待っててね。お風呂は下に露天風呂があるわよ。それから、のぞきはしちゃダメよ?」

 今まさにその話をしていましたなんて言えるはずもなく。

「は、はい」

「じゃあよろしく頼むわね」

 そう言って、二人は大浴場へ。


 「よし、作戦決行だ。まずは正面から強襲偵察を行い、その後、状況により突入を図る。いいな?」

了解ラジャー

 既にこの2人には部長たちのあられもない姿が脳裏に浮かんでいるのだろう。

 ………バカだ。全くもってバカだ。

「ほら、何をぼさっとしているんだいつき。お前も来い。我らがアガルタのために!」

「えええええーーーーーーー!?」

 強制連行と相成りましたとさ。



 大浴場前。

 瑛四郎が先行し、トオル(に腕をつかまれ引っ張られている僕)が50mほど後方で待機。

「アルファ1、ターゲットに接近。これより強襲偵察に入る」

「アルファ2了解」

 1が瑛四郎、2がトオル。

 瑛四郎がさらに近づき、扉に触れる。

 その瞬間。

 ファオーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!

 突如サイレン音が鳴り響き。

 ブシャアアアアアアアアアア。

 瑛四郎が僕らの目の前でホースから放たれたような水に襲われ。

「あーーーっはっはっはっ!!引っかかったね瑛四郎少年よ!」

 大音量でゆりっぺ先輩の声が流れた。

「君たちの考えることなどとうにお見通しなのだ!ここに君たちの求めるパラダイスなど無いっ!おととい来やがれってんだい!あーーーっはっはっはっ!!」




 「クソッ…卑劣な手を使いやがって…」

 むしろ卑劣なのは君らだよ、と心中で突っ込む。

「なら、裏から回って塀を上り、上からのぞくというのはどうだ」

「いや、それは無理だ。何せ回り込もうにも侵入路が確保できない」

 何故かこの別荘、崖に沿って建っており、結果露天風呂は少しはみ出した形になっている。

「中学の時は上手くいったのに、二度もそんな幸運は無いのか…」

「でも、もう瑛四郎は面が割れてるからなんにせよ断罪は免れないよ?」

「あっ…!しまった…!」




 その後、風呂から戻ってきた女性陣によって瑛四郎は吊るし上げを食らい、残りの4人で夕食に部長の手料理を味わいましたとさ。



 めでたしめでた…し?


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