運命の傷痕

きのみのる

第1話

私はあたかも

今でも人を愛していると

そんな素振りを見せてしまう


それは声なり言葉の抑揚なりで紡がれる

狂おしくもまろやかな

そんな音のメッセージで

「愛おしい」のだと

口に出しては、呟いてしまう


内に宿ったこの想いが

あなたの虚無に届かぬ日には

あなたの大きく、逞しい胸に

私の心臓を重ね合わせ

同じ鼓動と、同じ体温があるのだと

きつく きつく

抱き締めてしまう


孤独を味わい

それでも生きると誓った日


私達はきっと別々の場所で

同じ夜空を見上げては涙で心を腫らしたはず


捨てられた過去を、縋った腕を

振り解かれた

叩き伏せられて

それはまるで、孤児であった。


あなたもいつかは私を捨てる

私もいつかはあなたを捨てる


それが真に望むべき恋慕などとは違くても

繰り返し覆いくる虚無に潜むすきま風


絶望の呪文

そちらの唸りを、信じては駄目。


愛された記憶を、愛を知った記憶を

愛した記憶を信じて、どうか失くさないで


偽りの中では一瞬たりとも

安らぎなんて憶えはしない


あなたもいつかは私を捨てる

私もいつかはあなたを捨てる


それは幻想。抱き締め合えば

あなたも私も、己を棄てない

あなたも私も、本当の自分になれるから

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運命の傷痕 きのみのる @Asmi10

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