異世界の遊園地は泥棒を招かない ワンダーキングダム編 (タイトル仮称)

三叉霧流

第1話 黄金の鍵

「これはお前を成長させる魔法の鍵、これはお前を守ってくる魔法の銃、これはお前を暑さと寒さから防いでぐれる魔法の外套、これはお前が物をなくさないための魔法の鞄」

 一人の老婆は、慈しみ深くその広げる品々を大事そうに撫でるとそう言った。

 少年は目を輝かせてテーブルの上で燦然と輝くその品々を見る。黄金の龍がルビーを抱える大ぶりの鍵、古典的優雅さを秘める白銀の八連式回転銃。闇よりも黒い外套は起毛し裏地は星色。三日月型の肩下げ鞄は古ぼけていても頑丈な作りで歴戦の戦士のようだった。

 少年は、テーブルに倒れてしまいそうなほど身を乗り出して、たまらずその品に手を伸ばすが、パシリと老婆にその手を叩かれた。

「お前にはまだ早い。これを持つにはお前が一人前の男になってからだよ」

 その老婆のたしなめる言葉に少年を頬を膨らませて言う。

「お婆ちゃん。僕はもう一人前だよ。お父さんを手伝ってお母さんにたくさんの知識を教えて貰っている」

 少年の不満げな頬と目を見て老婆は首を振って答えた。その顔には皺の数だけの教えが詰まって、少年を甘やかす事は無かった。

「それでは駄目だよ。お前はまだ一人前の男ではないさユウ」

「じゃあ、どうすれば一人前になるの?」

 ユウは諦めずに祖母に向かって尋ねる。その目はときおり魔法の品に向けられて気もそぞろだった。早くそれを手にして自分の腕に抱えたい。その一心が顔と言葉から溢れている。

 それを見て祖母は口の前に人差し指を立てて微笑む。

「決まっているさね。それはお前が一人で生きていくときさ。私達家族の元から外の世界へと旅立つときが一人前」

 微笑む祖母を見てユウは嘆くように肩を落として声を上げる。

「それじゃあ、まだまだだよ、お婆ちゃん。僕はそれまで待てないよ」

「ああ、この子はしょうがないね。だったらこれはここまで。倉に直しておくよ」

 祖母はテーブルに置かれた革鞄に品々をしまい込む。

 祖母の倉。それは少年の父や母でさえも入ったことのない秘密の場所だった。いつも倉に行くといって祖母が玄関を出ると彼女は消えてしまう。窓から祖母が倉に行くところを見てやろうと思った少年は、ついぞその倉を見つけることはできないかった。

 祖母がしまい込む姿を物欲しそうに見ていた少年はその鍵に目をやった。

「お婆ちゃん、その僕を成長させる鍵は、どこの鍵なの?」

 祖母は鞄の中にしまう最後の品、その鍵を掴んで少年によく見えるように掲げる。

「これはね。私の倉の中にある扉の鍵さ。いつかお前が一人前になったら私の倉に連れて行ってやろう」

 その言葉に少年はさっきまでの物欲しそうな顔をぱっと消して満面の笑み。

「本当!? お婆ちゃんの倉に連れて行ってくれるの!」

「ああ、もちろんだともさ。そうしなきゃ鍵を使えないからね。早く一人前になるようにソールとルナを手伝っておやり」

「うん! 分かった!」

「よしよし、いい子だ。倉から戻ったら夕食にしよう。今日は私特製のシチューだよ」

 その言葉に少年はうん、と元気よく答えた。祖母のシチューは少年の大好物。野ウサギや山菜、大きなジャガイモ、ほくほくのニンジン、甘くてとろりとしたタマネギを、取れたての牛乳でつくったホワイトソースで煮込めば、たちまち極上のシチューになる。空になった皿をパンで拭き取り、最後の最後まで楽しむ光景を思い浮かべて、少年の頭の中から魔法の品々はシチューのように空っぽになった。


 ◆◆


 魔法使いの祖母を持つ少年ユウは元気よく成長していく。父は大陸一の冒険家。母は世界でも名高い考古学者。祖母が暮らす山奥にいない間、ユウは両親に引き連れられて全世界を旅した。あるときは人の訪れない荒野の遺跡、あるときは茹だるような湿気と暑さのジャングルの秘境、氷に閉ざされた極寒の土地の神殿、険しい俊嶺が連なる高山の僧院。彼はそんな過酷な旅の中でも満足だった。毎日のように襲ってくる数々のトラブルも、彼にとっては揺り籠のような物。母からあらゆる言語を、父からはどんな状況でも生き残るための技術を学び、世界を渡り鳥のように飛んでいく。

 肌の色や言葉の違う外国の人々、風習も宗教も異なる外国の生活、生きる意味さえも違うそれぞれの生き方をその大きくて太陽のように光る眼に映し、その輝きを取り込んでいく。

 彼は自由という翼を手に入れる。おおらかな彼の両親はそんなユウを愛し育み、自分たちの全てを伝えた。

 その愛を授かり翼は白く、大きく成長していった。

 しかし、運命とは無情なもの。

 冒険を繰り返す親子にはいつも危険が影のように付きまとう。ユウの両親はその影を見極める術を知っていたが、靴底に張り付いた影は見えなかった。

 ある国のユウの両親を良く思わない者達が親子に凶弾を向けた。まず始めに撃たれたのはユウだった。全てが終わり、彼らを発見した者は見た。撃たれ気絶したユウを守るように、ソールとルナは折り重なって倒れていた姿。

 退院したユウ。それは白くて美しかった翼の羽がむしり取られる見るも無惨な姿だった。

 彼は絶望の中、自らの両親の骨を持って故郷、魔法使いの祖母の家に戻った。

 そんなユウを迎えた祖母の顔は厳しかった。ユウが悲しみの海に身をたゆたわせる暇も無く彼に雑事を言いつけ、ユウが何かの失敗をすると、微笑みの皺を引き延ばし口を大きく開けて彼を叱責した。

 ユウはその祖母に打ちひしがれるが、その忙しさは両親の死について彼に考えさせる暇を与えない。家事や食料のために山へ狩猟に行き、時に村の依頼で様々な魔法の薬を調合する。祖母は魔法について彼に教えた。

 魔法にはどれだけ不思議な力があるか、どれだけ怖いものか。古今東西のあらゆる魔法の知識をユウは絶望から逃げるように追い求めた。

 祖母が彼に魔法を教えるために引っ張り出した数々の書籍、墨で描かれた巻物、数百以上の木簡、乾いた羊皮紙の写本、葦や綿といった様々な植物でできた紙の本、高級仔牛皮紙の見事な装飾の書籍。彼は母から得た言語の知識を活用してそれらを次々へと読破する。

 ユウは次第に元気になった。祖母が言いつけた雑事が彼の絶望を癒やし、村の人達との交流が彼に優しさを思い出させていた。だが、それ以上に彼には希望が差し込んでいる。

 彼には追い求めるものがあった。

 魔法の知識。彼の想像を超えた超常の力には、死んだ者を復活させる力が数多く存在する。

 挽けばどんな望みでも叶う石臼、黄泉の川の船頭を誑かす竪琴や黄金の枝、神の裁きと死者復活のために吹かれる黄金の喇叭、地獄の番人が蘇生の対価として要求した全世界の住人すべての涙、死者を生き返らせる霊薬。

 そんな数々の魔法を描いた書籍を、彼は寝る間も惜しみ調べ続ける。夜遅くまでユウの部屋には洋燈が灯り続けていた。扉の下から隙間を零れ出る光を祖母は見つめる。そんな日が春を駆け抜け、冬の寒さが身に染み、また春が巡っても繰り返された。

 それでも祖母は、朝日が白み始めてもユウが本を置かない内から彼の部屋を叩き、彼に雑事を押しつける。ユウは本を小脇に抱えて、朝の清々しい空気を吸って元気よく飛び出していく。

 しかし、そんな日が長く続く訳もなく、祖母の年老いた身体が衰弱していった。祖母自慢のシチューの味は落ち、居間の革張り椅子に座ったまま彼に仕事を命じるようになった。そんな祖母の様子にユウは気がつかなかった。されどユウを責められない。祖母はその衰弱していく身体に鞭打って彼にそんな素振りを見せなかったのだ。暗い洞窟で水が滴り落ち、少しずつ鋭い石が作られるのと同じように日常はゆっくりと変化していく。ユウの背にその鍾乳石が鋭く尖ろうとも、彼は後ろを振り向かずただ彼が求める先を見続けていた。

 とうとう祖母が倒れたとき、全てが遅かった。ユウは祖母のローブから覗く細い腕を見て初めて自分の愚かさに気がついた。

 寝台で伏せながら祖母はユウに言って聞かせる。

「ユウよ。お前はまだ一人前じゃないねぇ。だからよくお聞き。お前に渡す鍵は、お前を良くも悪くもする。あの鍵の向こう側には金銀財宝や魔法の道具がたくさんあるからね。それに溺れて身を破滅させる者もそれと同じぐらいいたよ。だからあの鍵を守る者は私達一族しかいないのさ。だから、ユウよ。お前はちゃんとそれに目をつぶりなさい」

 祖母は寝台に伏せながらも力強い瞳でユウを仰ぎ見ている。ユウもそれに頷きながら自分の不甲斐なさで大粒の涙を静かに灯す。

 祖母は咳き込んで続ける。

「ユウ、お前が求めているもの。それは私はちゃんと知っているさ。でも、それは本当にお前が望んでいることかい? ソールとルナが死んで生き返らせたいと思ったから望んだこと。それはお前の望みじゃないさ。それはお前の宿命。お前の身に起きている事で、お前が起こした行動以外の事。だからそれはお前の望んだ運命ではないさ。もう嘘をつくことはお止め。ユウ、お前が望んだ運命、それを探しな。そして、思い出すんだよ、私があの鍵を見せたときに浮かんだお前の喜びを」

 長い祖母の言葉にユウは、涙を溜めながらゆっくりと聞いていた。その言葉の意味は彼の人生を大きく変えるものだったが、ユウはすぐにそれを飲み込むことはできなかった。彼は、自分を絶望の淵から救ったのは祖母の優しさではなく、魔法の素晴らしさだとすっかり信じ込んでいたからだった。それでもユウはゆっくりとゆっくりと言葉が胃に落ちて、空っぽのお腹がキリキリと痛むように、苦痛に晒されながらも意味を消化していく。

 消化はまだできていない。その意味がユウの身体の血となり肉となるには時間が少なすぎた。それでもユウは祖母の手を握りながら頷く。

「うん、お婆ちゃん」

 ユウが短く返事をすると、祖母はずっとしかめていた顔を初めて和らげた。それはユウの両親が亡くなってから初めて見せた微笑みだった。

「よい子だ、ユウ。私はお前に飛び立ってほしいのさ。白い翼で鍵の向こう側へ飛び出し、駆け抜けて大きく成長してほしいねぇ。そして、一人前の立派な親鳥になって時たまここに帰ってくる。そんな日をずっと私は待ち続けているんだよ」

「そんな・・・お婆ちゃん・・・そんなことを言わないで」

 ユウは小さく呟いた祖母に涙を向けて答えた。その祖母の声にはユウが帰ってきた家には自分がいないとでも言うような遠い声が含まれている。それにさめざめと泣きながらユウは必死に祖母の手を握る。

「ユウ、もう泣くのはお止め。一人前の男は悲しくて泣くんじゃない。自分の成したことに嬉しくて泣くものさ。さあ、もう仕事に行きな。村の連中を待たしてはいけないよ」

 そう言って祖母はユウの手を振り払い、厳しい顔で笑いながら彼を送り出す。ユウは何度もその姿を振り返りながら、後ろ髪を引かれる思いで静かに扉を閉めた。

 ユウが仕事から戻ってきた時、祖母はもう目を覚ますことはなかった。


 ◆◆


 祖母を亡くしてから数年後。

 ユウが立派な青年になった頃。

 ユウは旅の準備をして玄関に立っていた。

 祖母は亡くなる直前に魔法の倉を開ける方法を書き留めていた。その書き置きの中には、倉を開けるのは自分が一人前になったと思ったときに開けなさいとあった。ユウはこれを守り、両親と祖母の死を受け入れ村でも評判の若者になってから決心した。

 黒髪は飛び立つ鳥が風を受けたようにとんがり、気高い猛禽類と小鳥のような可愛らしさを秘めている。手足はすらりと伸びて、器用そうな手は繊細で美しい。はだけた白いシャツの下には黒いTシャツと黒いズボン。手には旅の日常品が入った鞄を持っている。

 彼は深呼吸して自分の緊張を和らげる。

 祖母の書き置き、一人前になったらと言われたことが気になっていた。いつが一人前なのか自分でも分からない。だからユウは結婚話が舞い込むことで一人前と思うことにしたが、それが正しいのか未だによく分かっていなかった。

 自分は本当に一人前なのか? そう疑問に思いながらも彼は決心したことを途中で止めなかった。

 祖母からもらった魔法の言葉を玄関に向かって呟いた。

「我は調停者であり盗賊。異界を渡る調停者の血脈と調停を成すための盗賊の血脈なり」

 じっとユウは扉を見つめる。

 だが、何も起こらなかった。ただよく分からない言葉が空気を振るわせただけに終わった。

 ユウは大きくため息をついて、無駄に終わったことを確認するために玄関のとってを握りしめて回した。その心には祖母から貰った魔法の呪文を使えない自分に対する不甲斐なさで一杯だった。そしてまだ一人前に慣れていない事に彼の心は真っ暗になる。その暗い面持ちで彼がギギギと立て付けの悪くなった扉を不思議に思って顔を上げる。

「え?」

 彼が面を上げるとその扉の向こうには巨大な空間があった。

 石作りの大広間。数十台の棚が左右にびっしりと埋まり、赤く分厚い高級絨毯が続き、その向こう側にある黄金の扉まで続いていた。石の天井からシャンデリアが何十台も垂れ下がって、鈴なりに実った葡萄畑のようだった。煌々と灯るシャンデリアのお陰でその大広間は真昼のように明るい。

 彼は茫然としてその光景を見ていた。その棚に所狭しと並べてある金銀財宝に目がくらみそうになる。しばしユウが気を取り直すまでかかり、頭を振って中に入る決心をした。

 入った途端にガチャリと扉が閉められて倉の中に流れる時間が止まったようにユウは思った。

 閉じた扉を一度振り返った後、ユウはその大広間に並んでいる棚をゆっくりと見ていく。

 龍姫の涙、四方夜鴉の大羽、王達の聖杯、世界樹の種、雷神の大槌、妖艶巫女の衣、世界亀の甲羅、黄泉の地図、海洋神の投網・・・。

 数々の奇妙な珍品が硝子の箱に丁重に入れられ、棚の下には名前が彫られた金属板が打ち付けられてある。そこに並んでいるのは万金、いや、いち世界が全ての金銀財宝を賭しても手に入れたいと願った品々が静かに眠っていた。

 その財宝が眠る倉を歩きながらユウは時間が過ぎるのを忘れそうになった。その一品、一品が見事な芸術品で、人の心を奪って離さないある呪いがかかっているようであった。

―――コツコツ、・・・コツコツ。

 誰もいない大広間ではユウの足音だけが住人。彼の後ろをぴたりと張り付いて、彼が見上げる棚の床に忍んでいる。彼がまた歩き出すと住人達は動きだしじっと彼の行動を見ている。

 それに気がついたとき、ユウは昔聞いた祖母の言葉を思い出した。

 身の破滅。

 ユウはこの倉にいればいるほど自分の足下が崩れると思った。足音がずっと響くこの場所では、その足音の長さが彼を引き摺りこむ悪魔。

 彼は再び頭を振って棚から絨毯の上へと戻った。この絨毯の上だけは足音がしない。踝まで包まれる絨毯には悪魔が潜んでいない、そんな風に感じていた。

 彼は姿勢を正して、真っ直ぐ倉の奥にある扉へと向かった。

 黄金の扉。その装飾は様々な神話の一場面をつなぎ合わせたように一貫性がなかった。つぎはぎだらけの神話の世界の寄せ集め。そんな印象を受ける扉の前の絨毯には、その遠い昔に祖母に見せて貰った三日月の革鞄が置いてあった。

 ユウはそれを見た途端に嬉しくなって走り出す。それを大事に、懐かしそうに手で撫でると抱きかかえた。

 ようやく、昔見せて貰った物へと辿りついた達成感が彼の胸に去来する。涙を出して喜びそうになる気持ちを抑えて、彼は鞄の留め具を外して中を確認した。

 その中には昔と寸分変わらない品々が入っていた。彼はそれを丁寧にひとつずつ取り出しては抱きしめる。

 黒い魔法の外套を羽織り、フリントロック式八連式拳銃の魔法の銃を腰の革拳銃袋ホルスターに入れ、そして最後に入っていた黄金の魔法の鍵に金の鎖を通してズボンの隠しポケットに入れる。

 そうして満足そうに頷くと、今度は空っぽになった魔法の革鞄の中に旅の道具を入れていく。

 オイルライター、火打ち石、数条のロープと鉄線、銃の火薬、消毒液、水筒、簡易寝袋、雨具、大きな布数数枚、折りたたみ式の薄い鍋、フォークと十徳ナイフ、狩猟用の投石紐などなど。ユウが用意していた旅の道具がぺろりと魔法の鞄の中へと吸い込まれていく。魔法の鞄は見た目よりも中の空間は広く、入れれば入れるほど中の布地が広がっていった。

 その鞄を外套の下へ隠すよう下げると彼は立ち上がる。

「よし、準備万端だ」

 言葉を呟いて彼は心を奮い立たせた。

 祖母達が守ったこの場所は明らかに彼の想像を超える場所だった。だからこそ、どのような事が待っているかはわからない。

 彼は覚悟して、隠しポケットから黄金の鍵をゆっくりと取り出して、龍が守るルビーに口づけをした。

 そして、それを黄金の扉のとっての鍵穴へと滑り込ませる。一瞬、彼は身を震わせるが目には強い意志が灯り、カチャと回す。

 扉はそれに応じて音を上げる。

―――ガチャンガチャンガチャン。

 無数の留め具が外れるような音が鳴り響く。黄金の扉の装飾が消えて、その扉には賑やかな遊園地の行進パレードのような彫刻が浮かび上がっていく。

―――カチャン

 小さな音。

 扉の鍵が拓かれた音だった。

 その音だけが倉の中に響き渡って、その扉の向こうからすきま風が入り込んだようにユウの髪をなびかせた。

 ユウは黄金の鍵を鍵穴から抜いて自分の首へと掛け、目を閉じる。

 静寂が倉の中に降りた。無数の静寂がずっと沈殿してきたような倉は、じっとユウを見ている。

 ユウは一度大きく深呼吸をして掴み手を握る。

 しばしまた沈黙。

 それどそれは僅かの間だけ。彼は勢いよくその扉を開け放つ。

 その瞬間、光が爆発した。

 黄金の光が扉の向こうから弾けて、ユウを光の渦へと巻き込んだ。



 その光の中で彼は耳にした。強く心に響き、絶対に忘れられないような声。


―――汝、調停者であり盗賊の一族よ、汝に調停を任せよう。求めるは、『ホラーハウスの王、恐怖のあるじが流す涙』。骨の随から滴り落ちる慈愛の涙を盗み、彼の地に調停をもたらせ―――

 

 そしてユウはその言葉を聞き、気を失った。

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