レテクル・スプリングの小さな旅路

鹿江路傍

小さな旅立ち

 レテクル・スプリングは小さな男の子だ。

 

 彼は何かを探して歩き回っている。


「だめだ、ここにもないなぁ」

「どうしたんだ、坊や」


 その時、しいの木の枝から一羽の大鴉おおがらすが問いかけた。


「何か探し物かい?」

「うん。僕は欠けてしまった小さな悲しみを探しているんだ」

「ほう、小さな悲しみ。それを探すのは、とても大変だろう。もしかしたら、もうここいらにはないかもしれないな」

「そうなんだ。それで、とても困っているんだよ」


 大鴉は、少し考える素振りを見せてからふむ、と呟く。


「なら、旅に出るといい。俺もついて行ってやろう」

「本当に?」

「ああ。俺も、失くしてしまったものがある」


 大鴉は右の翼を広げてみせた。真っ黒な羽根のうち、一枚だけが真っ白だ。


「俺はこの、失くしてしまった羽根の色を取り戻さなきゃならない。どうだ、一緒に旅に出ないか」


 大鴉の申し出に、小さな男の子は頷いた。


「わかった、旅に出よう! 僕は、レテクル・スプリング。君の名前は?」

「俺はワタ。よろしくな、小さなレテクル」


 その言葉を言い終わるや否や、ワタは椎の木から飛び立った。翼を広げて、レテクルを先導するように優雅に舞う。


 レテクル・スプリングは小さな男の子だ。


 大鴉のワタと共に、何かを探して旅に出る。

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