日本人消失

アサダユウ

第1話 現象

 頭にかぶさられた袋を外された。エレベーターのドアが開き、俺はまるで

受刑者の様に両脇を抱えられコンクリートの壁と天井、床は鉄板の廊下を歩かされた。

「離せ!もう抵抗しないから!」そういうと二人はわずかだが手の力を抜いた。

その瞬間片方の男には脇腹めがけて肘鉄をもう片方の男にはこぶしを顔面めがけて

喰らわした。

鼻が血まみれになり、少しよろけつつも、非常用ボタンを押した。

建物中にサイレンの音が鳴り響き、その音に駆け付けた男は銃口をこちらに向けた。

俺は両手をあげ「分かった。俺の負けだ。」と言った。

通路の突き当りの扉が開き、奥からさらに人が二人やってきた。

「OK!銃を下して。」白衣を着た女性がそういうと、男達は彼女の指示に従い

銃を下した。

「手荒な真似してごめんなさい。私は、アリシア・ローレンス。生物学を担当している研究員よ。」「俺はマッド・ノックスマン」彼女の背後に2メートル近くの背丈はありそうな筋肉質な黒人男性が「でもここは知られてはまずかった。だからこうするしかなかった。」と悪びれる様子もなく説明した。

俺は半分あきれながらも、「ああ、俺はてっきり何か犯罪に巻き込まれたのかと思ったよ。」と返事した。

「しかし、鮮やかな身のこなしさすがは軍人だ。」と男は言った。

「俺のことを知っているのか?」驚きを隠しきれない俺に彼女は申し訳なさそうに

「ええ、そうなの。知っておく必要があってね。」と答えた。

「今回は事件に巻き込まれて災難だったな。俺はジョン・ハワード、君と同じ軍人だ。」

今回は災難・・・。確かにその通りだ。自分の目の前だ起きたことが本当に信じられない。



 今から三日前の夜。家族を連れて買い物に出かけ食事をした後、横須賀米軍基地の帰る途中それは起きた。

「今日は楽しかったな。」俺が言うと助手席にいた妻が「そうね。」と優しい声で返した。

「お父さん。また行きたい!」後部座席から声がした。

「もちろんよ。秋斗また行きましょう。」と嬉しそうに声を弾ませながらそう言った。

「でも今日みたいに肉ばっかり食べてたら太っちゃうかもな。」と俺が言うと、

「やだ。私ってばそんなに食べてた?」と少し恥ずかしそうにしていたので、

「嘘だよ。冗談さ。マヤは今のでちょうどいいよ。」と笑いながらそう言った次の瞬間、飛行機のエンジン音のような音がしたかと思うとあたりはまるで昼間のように明るくなった。

その間 二、三秒。「ぐっ!何だったんだ今のは、大丈夫か?二人とも!」そう言って隣を見たが妻の姿はそこにはなく、ルームミラーを確認したが、そこに

息子の姿はなかった。

車を安全な場所に移動させると「マヤ!秋斗!」と大声を出しながら周囲をくまなく探し回ったが結局見つからず、「そうだ応援をたのもう。」と基地へ戻ると

基地内は騒然としていた。

「マッド!丁度いいところに帰ってきてくれたわね。」と同僚のハンナが言った。

テレビの前には大勢の人だかりができていた。

どのチャンネルに切り替えても真っ暗か、砂嵐の状態だった。

「どうなったいるんだ?俺の息子と妻は行方不明になっているんだ。」そういうと

部屋の奥から「ああ、俺も日本人スタッフが目の前から忽然と姿を消したんだ。」

するとハンナは「彼だけじゃない、多くの人が日本人が姿を消しているのを目撃している。」と言った。

暫くすると俺とハンナは司令室へ来るよう呼び出された。

五分後部屋から出ると部下であるニックが「どうでした?」と聞くので

「今すぐ支度するんだ。東京へ行って何が起きているのか自分たちの目で確かめるんだ。」

俺達は一斉にヘリやジープで東京へと向かった。

ジープで向かった者たちの目に飛び込んできた光景は、車同士または電柱や塀にぶつかり事故を起こしそのうちの何台かの車からは火の手が上がっていて言うまでもなく車には人が全くいない状態だった。

「おい。これは一体何の悪いジョークなんだ。」ニックは自分の目の前で起きていることがにわかには信じられない様子だった。

「俺にもわからない。グレッグそちらの様子はどうだ?」と他のジープに乗っているグレッグに話しかけた。

「まるでゾンビ映画の様だ。とにかく不気味だよ。どうして誰とも会わないんだ?」と戸惑っていると隣にいたハンナが「ねぇ、聞いてさっきからSNSをチェックして気が付いたんだけどある事に気が付いたのよ。」

「ある事って?」「投稿者が皆外国人なの。日本人の投稿者が一人もいないのよ。」「確かにそれは変だな。」と俺が考え込んでいるとグレッグが慌てた様子で

「おい!待て!人がいるぞ!」と言った。

ジープを止めると一人の若い女性が「よかった!私以外にも人がいて!」とかけよってきた。

「危険ではなさそうね。」ハンナはジープから降りて事情を聴くことにした。

「私はシルビア英語教師の友達と東京へ行って帰る途中強烈な光に包まれてみんないなくなちゃったの。」と説明した。

いつもはネオンできらめく東京の街だが、今夜だけは様子が違う。

非常灯と車のヘッドライトだけが光っていて、それ以外は暗闇と静寂の中にあった。

人は何人かすれ違うが、すれ違うのは決まって白人か黒人だった。

しかし、ここにきてハンナが「ちょっと待ってあそこにいるのって日本人じゃない?」と指さした。

東京駅バスターミナル、そこに留まっているバスのうちの一台の前に大勢の日本人を見付けた。

「ホラ!あそこ!日本人がいるわ!」とハンナが駆け寄ったが、しばらくして足を止めた。聞こえてきたのは日本語ではなく中国語で「この中で英語話せる人はいる?」と聞くと大勢の人の中から手をあげこちらに来た。

「日本人のツアーコンダクターが最後の挨拶中大きな機械音が聞こえたかと思うとまばゆい光にバスごと包まれたかと思うと運転手とツアコンだクターが消えたんだ。

もう停車中だからよかったものの、運転中なら大惨事だったよ。」と説明した。

ハンナと俺は顔を見合わせた。

この不思議な事件は俺たちの身の回りだけじゃない。そう推測していると俺の持っているスマートフォンの呼び出しベルかなった。発信先は基地の司令部からだった。「もしもし、俺です。何かありましたか?」少し間をおいてから「大変なことになった。緊急回線を使って日本各地にある米軍基地と連絡をとったんだが、この現象が起きたのは、何もここと東京だけではなさそうだ。つまり日本全国で起きているかもしれないんだ。」司令の言ったことがもし本当だとすれば、一体だれが何のためにこんな事をしたんだ。いやその前にこんなイリュージョンみたいな事がおきるだなんていまだに信じられなかった。






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