信号+僕=絶望

TKMR

朝が来た




2◯△□年5月28日午前7時43分



朝が来た、死にそう。

天気は快晴、僕の気分は台風12号直撃中。


僕は、趣味もなければ何の取り柄もない、彼女いない歴だけ無駄に長い社会人1年目のサラリーマン。


いかにもひじきを頭に乗せたような、歩くお惣菜屋ですよwwwって言わんばかりの、詰まる所禿げてる上司にごますりをする日々にはうんざりだ。



いつか結婚して家庭を築くかもしれないという淡い期待を胸に重い足取りを進ませる。思っていた以上に遅刻しそうで、寝癖直す暇もなく家を出た。



信号、僕の家から会社まで奴らは立ち塞がる。というか、この距離でこの数はどう見ても必要ないだろ。そんな僕の気持ちとは裏腹に奴らは嘲笑うかのように色を変え挑発する構えをみせている。



僕の性格上、信号無視するほどメンタル強くはないから、なされるがままだ。


遅刻は困る、頼むよ、今日だけは和解しようぜ


と思った矢先に、黄色から赤に変わりやがった。許すまじ。


まぁ、一度くらいならと思い次の信号に差し掛かる。


お、ラッキー青信号!!



と思ったら突然目の前に現れた大の犬好きの近所のおばちゃん。朝の散歩か知らないけど20匹近くの犬たちと共に、行進している。


ここは、レッドカーペットじゃないし、パリコレの舞台でもないからな?!殺気立つ苛立ちを抑え、後ろを歩く。


残る信号はあと二つ。ロスした時間も青信号の中ダッシュすれば取り戻せるぞ。



全速力でたまたま青信号になった信号駆け抜け、残るは一つ。黄色信号に変わったけど、まだ間に合うと全力で駆け抜けた、俺の勝ちだ。



その瞬間、突然後ろから、



お兄ちゃん、これ落としたよッ



黄色い帽子を被った小学生の女の子が、僕の落し物を取ろうと赤信号に気づいてないのか歩み寄る。



その傍大音量で北島三郎の曲を流しているトラックが勢いよく差し掛かる。



危ない!!!




の声が出る前に僕は駆けつけていた。

生まれてこのかた一度も信号無視はしたことないが、そんなこと関係なかった。



ドンっ!!



女の子を抱えたまま勢いよく地面にスライディング。危機一髪セーフ。



お兄ちゃん、大丈夫??




身体中が痛む中ゆっくり顔を上げると、無傷の少女の泣きそうな顔が目に入る。




全然問題ないよ!お兄ちゃんヒーローだから笑。




なんてこの間みたスパイダーマンに少し憧れてヒーロー気取ってみた。



よかったぁぁァァ



少女の目を細めて笑う頬には、えくぼがあった。潤んだ瞳にマシュマロのような肌に、天使のような笑顔。


え、え、え、なにこの気持ち。すっごく可愛いんですけど。公園で飴配る叔父さんの気持ちわかっちゃったんですけど。最早心臓張り裂けて最早メロディ流れてるんですけど。



こうして僕は、憎き信号のおかげで、ロリコンに目覚めるんだけど、これって気づかないほうが幸せだったんじゃないのか。ボロボロのまま遅刻という肩書きのもと出勤。周りからの白い目と、ひじきのお説教、僕の意識ここに非らず。


帰宅時、信号はわざとらしく穏やかに青色をして微笑んでいる。今日1日の出来事で、これから人生一変することを無論今の僕は知らない。



これは、悪戯っ子な信号が僕の人生にちょっとしたてへぺろって感覚で呪いをかけたことによって始まった僕のこれからのお話。



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