ヘリコプターが飛んできた
斜志野九星
ヘリコプターが飛んできた
バラバラバラバラバラバラバラ……
何処からともなく聞こえる音とそれによって発生する振動が、俺の身体を目覚めさせる。
きっと、ヘリコプターが俺の家の上を飛んでいるんだろう。
今日も朝からご苦労なことだ。
俺の目覚まし時計は、ヘリコプターということにしている。
その日によってやってくる時間が違うヘリコプターを目覚まし時計代わりにすることで、起きる時間がランダムになる。
ランダムとは良いものだ。
その日の気分を決めてくれる。
まあ、これは俺の持論だから、別に誰に参考にしてもらうつもりもない。
隣に住んでいる双子の兄貴なんかは、今日も規則正しく5時に起きているんだろう。
それはそれでいいとは思うけど……
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺は大きく口を開けて、腹から声を出した。
朝起きてまず最初にすることは、大声を出すことだ。
気分がスッキリする。
近所迷惑など気にしない。
この前、双子の兄貴に、「お前のそれ、何とかならないのか」と言われたが、俺が好きでやっていることだ。
やめるつもりはない。
ズドギャアアアアアアアアアアアアン!!!!
爆発音がした。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
とりあえず、家を出よう。
さて、「家から出てすることは?」と訊かれたら、何て答えるか?
俺は、朝の体操をすると答える。
これをしないと、身体が動かなくなってしまう。
「やっと、起きたか」
隣の家から、兄貴が出てきてこう言ってきた。
大層、イライラしているようだ。
無理もない。
兄貴はヘリコプターの音が嫌いだからだ。
「もう、ヘリコプターはいないよ。何でそんなに怒っているの?」
「お前が起きるのが遅いからだ!!」
兄貴の怒号と共に、俺は5mくらい吹っ飛ばされた。
流石は兄貴。
拳の力は俺以上だ。
「まあまあ、そう怒らないで……」
俺はとっても心が広い。
だから、兄貴に殴られた程度じゃあ怒らない。
むしろ、良い準備運動になったと言える。
「さあ、兄貴。体操を始めよう!」
俺はニコニコしながら兄貴に言った。
それを見た兄貴は、溜め息をつきつつも体操をし始めた。
俺も体操を始めよう。
「イチ! ニ! サン! シ!」
おお、だんだんと筋肉が目覚めてきたぞ!!
実に良い気分だ!!
「イチ! ニ! サン! シ!」
しばらくすると、山のような俺の家の屋根から太陽の光が差してきた。
うーん、実に気持ちが良い!!
実を言うと、太陽光を浴びることが俺たちにとって必要なことなのだ。
だから、体操をする意味はあんまりない。
あくまでも、暇だから体操しているに過ぎない。
「イチ! ニ! サン! シ!」
今日はもうこれくらいでいいかな?
「おい。まだ、5分もやってないぞ」
なんて思っていたら、横から兄貴に注意された。
まだ、やるのかよ……
面倒くさいなあ……
「もう少しやる……」
バラバラバラバラバラバラバラバラバラ……
兄貴が何か言おうとしたが、そこを大きな騒音が邪魔をした。
また、ヘリコプターだ。
今日も朝からよく飛んでるなあ……
「うるせえ……」
兄貴が、眉間に皺を寄せて呟いた。
兄貴はヘリコプターの音が嫌いだ。
ひょっとしたら、暴れ出してしまうかもしれない。
それくらい嫌いだ。
バラバラバラバラバラバラバラ……
ヘリコプターが旋回し始めた。
まずい。
このままだと、兄貴の怒りが頂点に達しかねない。
「くそ! あのヘリコプターめ……」
そう言いながら、兄貴はヘリコプターを睨みつけた。
「兄貴、少しは落ち着きなよ」
「うるせぇ!!」
兄貴をなだめようとしたが、それが癪に障ったのか、殴られてしまった。
だが、大丈夫。
これくらいで、やられるほどヤワではない。
「まあまあ、さっき兄貴がやったんだから、今度は俺の番だよね」
俺はニコニコして、兄貴に言った。
「……ああ。さっさとしろよ……」
不満そうな返事を頂いたが、まあいいや。
兄貴に言われた通りにさっさと済ませよう。
俺は小石を手に取った。
バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ……
ヘリコプターがこちらを向いた。
両脇には、物騒な機関砲が見える。
次の瞬間、機関砲の辺りが明るく光った。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
銃弾の雨が俺と兄貴に降り注いだ。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺たちにとって、銃弾の雨など砂をかけられるのと大差はない。
どっちも嫌だけど、そんなに痛くはない。
俺はずっと耐えて、銃弾の雨が止むのを待った。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
今日の機関砲はやけに元気が良いみたいだ。
こんなに長く撃ってくる。
でも、そろそろ息切れするんじゃないかな?
ズドドドドドドドドドドド
ほら、止まった。
この瞬間を俺は逃さない。
小石に力を込めて、勢いよくヘリコプターに向けて投げる。
よし、どうだ!
ズドギャーーーーーーーーン!!
クリーンヒット!
実に気分が良い!!
「お前、よくあんなことされて平気だよな……」
横で兄貴が小言を言っている。
「別に、俺たちの身体だったらどうってことないじゃん」
「いや……でも、お前はおかしいよ」
酷いお言葉だ。
でも、俺は気にしない。
兄貴との性格の違いなんて重々承知だもん。
ドーーーーーーーーーーーーン!!
後ろの方で大きな音がした。
どうも、俺の家にヘリコプターが墜落したみたいだ。
これまた、実に気分が良い。
うまい具合に当てられたぞ。
「うまく当てるよな……」
お褒めにあずかり光栄です。
これは俺の特技だから、褒められると嬉しい。
兄貴もうまいけどね……
ただ、ヘリコプターを散乱させるのはどうかと思う。
もう少し綺麗にヘリコプターを墜落させられないものだろうか?
俺みたいに綺麗な山にしなきゃ。
「まあね」
俺はVサインをして笑った。
俺や兄貴が、ヘリコプターを落とすのには事情がある。
人間が最新鋭の兵器ヘリコプターで、俺たちを殺そうとするからだ。
何故、人間が俺たちを殺そうとするのかというと、俺たちが怪物だからだ。
しかも人間は、自分たちで俺や兄貴みたいな怪物を生み出しておきながら、殺そうとする。
なんとも、身勝手な生き物だ。
殺そうとするから、俺たちは殺しに来るヘリコプターを壊す。
別に何の問題もないよね?
その代わり、ヘリコプターに乗っている人間たちにどうこうする気はない。
あくまで、攻撃されるのが嫌なだけだ。
嫌だから、俺はその嫌なことを趣味にすることにした。
俺の家と兄貴の家は、人間たちの残した瓦礫や何やらを適当に組み上げたものだ。
いくらでも増築ができるし、壊れても直すことができる。
俺はそこに着目した。
家にヘリコプターを落として、家を増築することにしたのだ。
それからというもの、毎日が楽しみだ。
今までただ五月蠅いだけだったヘリコプターが、自分へのご褒美に見えてくる。
「さあ、兄貴。家に戻ろう!」
俺は、自分で改造し尽くした家を眺めた。
怪物の俺が作った、ヘリコプターの山でできた家だ。
いつ眺めても、良い出来だ!
さて、今日は後、何機来るかな……
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