上場一部企業ブラック部署から公務員へいざ
山田かずと
第1話 何時まで働いたら良いの
時間を見ると、2時をまわっている。周りを見ると自分が所属している営業部門の先輩達はタバコを吸いながら黙々とパソコンのキーボードをたたいている。
何度時計を見直しても午後2時ではない。午前2時だ。
なんつー部署だと独り言を言っても、長くこの部署にいる先輩たちは関係ないとばかりに黙々と目の前の仕事を片付けるために手を動かしている。
僕はA県にある上場一部エネルギー企業のマンション営業部に1年前に配属になった。前職の課長に「一番花形の部署だから精いっぱい頑張れよ。勉強になることは多いぞ」。そう声を掛けられながら僕は1年前に送り出されていた。
僕はA県の進学校を卒業後、3年間浪人後、早稲田大学法学部に進み、地元A県では有名優良企業に就職した。浪人時代は国立大学医学部を目指し、必死とは言えないまでもそれなりに勉強した。医学部を目指したのも、親の期待に応えたかったのと、将来お金に困ることはないという漠然とした理由だった。人の命を救いたいという気持ちがなかったわけではないが、別にとりわけ強い気持ちがあるわけではなかった。浪人しても医学部に不合格し、社会に求められていない存在だと理解し、友人の勧めでなんとなくセンター利用で受験し、なんとなく合格していた早稲田大学法学部に進学したのだった。その後、ぎりぎりの成績で卒業し、地元A県では有名な企業に入ることになった。僕はゆとり世代ではないが、ゆとりの考え方らしい。入社当時から9時に出社し17時で帰りたかったし、人と話すことが苦手な僕はお客様対応、電話対応も苦手で、事務作業もなかなか覚えられないし、ミスも多かった。案の定すぐに落伍者の烙印を押され、入社当時の部署からすぐにはじきだされたのだった。
「プルルルー、プルルルー」
突然深夜の静寂を切り裂いて、向かいに座っているやさカワ先輩の会社携帯が鳴った。
「まさか…クレームの電話?この時間に?」とまだ残っている6人の脳裏によぎった。
案の定、電話はクレームだった。しかも今から謝りに来いというもの。しかも大した内容ではない。頭おかしいんじゃないのと内心僕は思ったが、やさカワ先輩は了承した。やさカワ先輩は旧帝国大学出身でおっとりしていて優しくカワいらしい女性の先輩だった。2歳年上だったが、年下に見える。さすがにこの時間に女性のやさカワ先輩を1人で行かせるわけにはいかないということで、男性の屈強先輩もついていくことになった。
先輩がいそいそと準備し、出発を見届けた後、僕は帰ることにした。
「何時まで働いたら良いの」
クレーム続き、残業続きで、精根尽き果てている自分は誰にも聞こえない力で何度も呟いていた。
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