第3話 リバイン家の食卓
「リュウ!おいで!」
俺は先程決められた名前を呼ばれたので尻尾を振って近付く。但し、尻尾は振りたくて振っている訳ではない。やはり、勝手に動いてしまうのだ。リンデに呼ばれて喜ぶなと言われても無理だろ。因みにリュウと名付けられた理由は何かかっこいいかららしい。
「はーい、よしよしよし」
リンデのもとに行くと毛をワシャワシャされたり、ゆっくり丁寧に撫でられたり、頬ですりすりされる。そのたびにリンデの良い匂いが香る。犬になった分余計香っているのだろうか。さっきまで散々文句を言っていたのにこんなことを言うのはあれだが……ここは天国か?リンデと密着しても冷たい目で見られないし、明らかに自分を好いてくれるのを実感できるし、ずっとリンデのかわいい顔を見ていても半殺しにされない。
そんな最高の時間をドアの開く音が遮る。
「リンデ様、お食事の用意が完了いたしました、そちらのワンちゃんの食事も大広間に御座いますので」
「分かったわ、ありがとう」
メイド服の人が呼びに来た。確か名前は……チルだったはず。彼女が料理を作っているのだろうか?
そして大広間には俺のご飯もあった……ドッグフードが……。まあ、確かに今は犬なのだからドッグフードが出てくるのは至極当然の事なのだが、果たしておいしいのだろうか?
「あら?リュウ食べないの?」
リンデからキラーパスが飛んでくる。せっかく用意してくれたのに食べない訳にもいかない。男は度胸だ!見ていてくれ、リンデ。俺の勇姿を。……あ、やっぱ見ないで、吐くかもしれないから。意を決して恐る恐るドッグフードを口に入れる。
…………………あれ?うまい。普通にうまい。そうと分かればこっちのもんだ。たらふく食べてやる。
「ところで、リンデ姉様、そこで無銭飲食している馬鹿みたいな顔をした犬は何なんですか?」
「こら、レミィ、そんな他人が傷つくようなことを言わないの」
「リンデ姉様、あれは人ではありません、犬です」
「い、一緒よ、あの子は私がリュウと名付けました」
「なるほど、姉様、さすがです。ネーミングセンスが皆無です」
「何でよ、良い名前じゃない、ねえ父様」
「ああ、実にいい名前だ。とても強く勇敢な印象を受けるねえ、最高だよお、ファンタスティック」
「だから、姉様。父様には聞かないでください。こんな気色の悪い物見たくありませんから」
「あはは、ごめん」
「気色悪くないよお、レミィ。私は実にスマートでワンダフルな人間なのだから」
ああ、食った、食った。チルに三杯分のお代わりを貰えたからな。それはそうと仲良く家族団らんしている……のか?とにかく、リンデの妹で誰に対しても毒を吐くのがレミィ。さっきから、英語をちょくちょく挟んでイケメン風に話しているのがリンデの父さんだろう。名前は……知らん。てか、まじでこの父さんキモイな。人間だったころの俺とも比べ物にならんキモさだな。
「リュウ様、もう一杯どうぞ」
チルが皿山もりに盛られたドッグフードを差し出してくる。ってか、これ四杯目だぞ。いい加減、相手はおなか一杯だろうな、とかこれ以上食べたら健康に影響が出るんじゃないかな、とか考えるもんじゃないか?
ああ、そうか。さては、鈍感なんだな。アニメの男主人公みたいになんで気付かないんだよってぐらい鈍感なんだな。
反転してこの部屋を出て行く。それなら、もうご飯はいらないと絶対に思ってくれるだ……ってあれ?急に抱きかかえられて?
「リュウ様、お食事はこちらですよ」
見えてなかったと思われた!!いや、気付いてるよ、もうお腹一杯なんだよ!てかお前が気付けよ!こうなったら、最後の希望だ。リンデなら気付いてくれるはず。
リンデ、こっちだこっち。もうお腹一杯なんだ。だから、チルを止めてくれ。リンデ。お願い。気付いて。
「ん……?」
よし、リンデがこっちを向いた。これで俺は助かる……。
「いっぱい召し上がれ」
え…………………。
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