第4話―一日の終わり―

 夜、外で一つの大きな鍋を囲み、男たちが数十人集まっていた。

 皆山賊であり、その中には俺もいる。

 鍋の中身は狩った猪、そして山菜や茸も入っている。山の幸を贅沢に使った一品だ。


 地べたに座り、一人がさらに取り分け全員に配分していく。周りは木の柵で囲まれており、ここが山賊のアジトであることを証明していた。


 遠くには木の小屋がいくつかあり、山賊たちはそこで寝泊まりしている。例外として俺と母は奥にある洞穴で過ごしているが。


 やがて俺の分も渡されるが、圧倒的に量は少ない。これは仕方ないだろう、俺が一番下なのだから。


 前世にだって、こういう決まり事みたいなのがあるところはあったんじゃないだろうか。


 一人そう無理やり納得していると、男たちの会話が聞こえた。


「今日は肉に女に大収穫だな!」


「はっ、肉も攫った女も子どもじゃねえか。女なんて、あんな子どもで愉しめるのはお前くらいだよ」


 ……あぁ、あまりここにいても気分が悪くなるだけだ。だから俺はいつも母のところへ向かい飯を食っているのだ。


 立ち上がり、皿を持って洞穴へ向かう。

 途中、我が父の方へと視線を向けた。


 二メートル以上はある巨躯、そして熊を思わせる風貌。

 父はあまり喋らない。一人酒を樽で豪快に煽っていた。


 この三年でも、俺は父と一度も言葉を交わしていない。

 あっちはどうでも良いと思っているのだろう。


 視線を戻し、洞穴へと足を進める。

 食べ終わり、少し時間が経ったらまた戻らねばならない。何故か? それは後片付けの役が俺だからだ。


 洞穴に入ると、母が笑顔で迎えてくれた。

 近くには俺よりもしっかりとした量がよそってある皿が置いてあり、俺も安心して近くに腰を下ろした。


「今日は猪が食べれるのね。フフ、ライクが運んだんでしょ? お疲れ様」


「大したことじゃないよ、俺も力もついてきたから。それに狩ったのは他の人だし」


 母は俺の頭を撫でながらそう言う。

 褒められるのに慣れていない俺は頬をかきながら目をそらした。


 母は俺の反応にくすりと笑みを零すと、光輝石が照らす薄暗い中、自分の皿に盛ってあった肉を俺の皿へと移す。


「ライクも育ち盛りだからね、たくさん食べないと」


 笑顔で言う母親に、俺は目どころか顔を逸らした。

 この優しさが、俺にはどうにも来てしまう。一々涙が出てしまうのだ。


 俺は一言ありがとうと述べると、肉に齧り付いた。

 熱く、固く、生臭い。


 だが、前世で毎日のように食べていたカップラーメンや弁当よりも何倍も美味く感じた。


 なんだか、生きているという感じがした。


 目の前で同じように、あつ、あつ、と頬張る母親を見て、幸せだと思った。


 あぁ、湯気が目にしみて涙が。


「もう……ライクは強くなったと思ったけど、泣き虫なところは変わらないわね」


 母は微笑みながら俺を眺めていた。

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