第696話知らない内に兄弟が出来たようです!
ゆっくりと意識が上がって行くのを感じる。
もうちょっと寝ていたいと感じる様な、全身の感覚の鈍さを覚えながら目をゆっくりと開く。
寝ぼけた目で周囲を確認すると、今自分の居る部屋には誰も居なかった。
部屋の防音がしっかりしているのか、外の音は殆ど聞こえて来ない。
そのせいで何だか世間から切り離されたような気分になり、少し寂しく感じる。
まるで世界に自分一人ぼっちの様だ。
「ポエムか、ぐっつぅ・・・あ、駄目だこれ、起きれない」
自分の思考に突っ込みを入れながら起き上がろうとして、起き上がれなかった。
全身に激痛が走り、痛すぎて碌に力が入れられない。
無理矢理動こうと思えば出来ない事はないが、流石にちょっと痛すぎる。
指先に力を入れるだけで激痛っていうのは勘弁してほしい。
「あー、意識したらどんどん痛くなって来た。頭痛もする。きっつ・・・」
喋っても痛いのだが、喋りでもしないと気が紛らわせない。黙っていると余計辛い。
痛みに変に耐性付いてるよなー、俺。
全部リンさんとセルエスさんが悪い。ミルカさんもちょっと悪い。
ま、そのおかげで痛くても動けるわけだから、感謝は感謝なんだが。
しかし何だか吐き気も上がって来た。寝転がっているのに吐き気はキツイ。
つーか何で俺こんなに不調なんだ。
つい最近まで確かに不調だったけど、ここまで酷いはずは―――――。
「あ、そうだった」
あのクッソ体調悪い最中、全力戦闘したんだった。
そりゃーこうなるわ。浸透仙術覚えてなかったら死んでただろうな、あれは。
ミルカさんにマジで感謝だ。
しかし後半の記憶が曖昧だな。あの後どうなったんだろう。
空に転移した辺りまでは覚えてるんだけど、そっから先が思い出せない。
大部頭に来ていた事は覚えているけど、何やったか殆ど覚えてないや。
ベッドに転がっているって事は助かったんだとは思うけど、倒れているって事は助けられたって事だろうな。
多分長時間の戦闘は出来なかったはずだ。アルネさんかイナイが駆けつけてくれたんだと思う。
記憶は曖昧だけど、かなり限界来ていた事だけははっきりと覚えているし。
「またイナイさんにお説教されちゃう。帰ったらシガルさんにも怒られちゃうなー」
奥さん二人に怒られる事を想像し、うへーっと溜め息を吐きがなら呟く。
二人は心配しながら怒るので何とも申し訳ない気持ちになるのです。
そう言っておきながら、またこうやって無茶をするので尚の事申し訳ない。
反省が足りないと怒られそうだけど、どうしてもやっちゃう時が有るんだよな。
まあシガルはその無茶を怒りつつも肯定してくれるのだけども。
彼女は同じ様に無茶する子だからなー・・・お互いにイナイに心配かけている気がする。
とはいえ俺達は俺達で、別方向の心配をイナイにしている訳だけど。
イナイは放っておくとすーぐ自分の中で抱え込むからなぁ。
まあ俺の場合は怒られるの解っていて、あえて突っ込む事も有るのが問題だが。
でもその時は仕方ない。怒られるの前提でもやりたいんだから仕方ない。
・・・ごめん、仕方なくはないっすね、すみません。
「誰に謝ってんだか」
ぐっすり寝たからか目はさえている。だというのに動けない上に周囲に誰も居ない。
そのせいで普段から少し多めな独り言がもっと多くなっている気がする。
周りに人が居ると喋らないのに、居ないと喋るっておかしいよな。
なんて思っていると部屋の扉が開いたので、痛む首を動かしてそちらに目を向ける。
中の様子を窺う様にゆっくりと開いた扉の先には、見覚えのない少女が立っていた。
少女は俺が目を開いている事に気が付くと、ぱあっと笑顔を見せて駆け寄って来る。
とってとってという感じでとても可愛らしい。一体誰なんだろうか。
「起きたか、兄弟。意識はどうだ。ちゃんと保てているか?」
そしてニッコニコな笑顔の少女に、いきなりそんな事を聞かれた。
後半はともかく、最初の兄弟っていうのが意味解らない。
いつの間に俺に妹が出来たのだろうか。まさかイナイかシガルの妹さん?
いや、だとしても何でその人物が帝国に居るんだろうか。
あ、帝国じゃない可能性も有るよな。前に倒れた時は気が付いたらウムルだったし。
あれ、でもじゃあ何で俺は自室に居ないんだろうか。
もしかして病院的な所に寝てるのかな。もしかしてここって病院の個室なの?
「どうした兄弟、変な顔をして。まさか喋る事が出来ないのか?」
良く解らない状況に困惑していると、少女は不安そうに近寄りながら訊ねて来た。
彼女と俺の関係は正直良く解らないが、黙っていた所でどうにもならないだろう。
取り敢えず自分は大丈夫・・・ではないけど、意識はしっかりしている事は伝えねば。
「えっと、意識ははっきりしてますけど・・・その、君は誰なんでしょうか・・・」
少女に応えるついでに問うと、彼女は一瞬驚いた顔になった後、少し寂しそうな顔をした。
今の問いかけ何か不味かったかしら。まさか俺、彼女と会った事有るのかな。
それなら何だか申し訳ない。ぜんっぜん記憶に無いんだが・・・。
「・・・そう、か。本当にあいつの言っていた通りなんだな。やはり違うのか。でもそれで良いのかもしれないな。お前も俺も変質して、だからこそこうやって生きていられる」
少女は寂し気に俺に語るが、何の事かさっぱり解らない。
変質って何ですか。取り敢えずもっと詳しい説明をして頂けませんか。
何だか俺こういう唐突な状況変化が多すぎる気がする。察しの悪い俺には凄く困る。
「だがお前は確かに俺の兄弟だ。この気配は間違いなく俺と同じ物だ。お前を俺の手で救えなかった事は残念だが、それでもお前が救われたならそれで良い」
優し気に少女は続けるが、語られている側は何の事かさっぱりなのですが。
少女もその事に気が付いたのか、はっとした顔を見せた。
「俺ばかりが語ってすまないな。やっと兄弟に会えて感情が高ぶっている様だ」
「は、はぁ・・・その、兄弟っていうの、何なんですか?」
「兄弟は兄弟だ。同じ魂と繋がりを持つ俺達は同じ存在だ。だがお互いに変質している。なれば俺達は同一存在ではなく、元を同じくする兄弟だろう」
ごめん、さっぱり解らない。
多分彼女の表情からしっかり説明しているつもりなんだろうけど、俺には全く解らん。
俺と彼女が同一存在で、でも変質している、っていう時点でもう本気でサッパリ過ぎる。
そもそも俺はこの世界の生まれではないし、こっちに兄弟が居るはずないんですが。
「まさか、全く解らないのか?」
「えっと、何が、でしょうか」
「俺がお前と同じだ、という事がだ」
「えーと・・・」
そう言われて少女をじっと見る。けど少女と俺に共通する項目は無いように見える。
相手は女の子だし、髪も目の色も俺とは違う。
もし童顔なのだとしたら共通点だが、そんな感じでもない気がする。
いや、喋り方は大人びているし、実際は俺より年齢上なのかな。
イナイっていう前例が居るし、有りえなくは無いだろう。
だとしても兄弟呼びはさっぱり意味が解らないけど。
「その、どういう事か、全く解らないんです、けど・・・すみません」
「そうか・・・いや、気にするな。この気配の小ささでは仕方がないのだろう。俺よりも遥かに小さな力の気配だからな。本来なら消えていてもおかしくない。生きているだけ僥倖だ」
小さな気配・・・あ、もしかして気功の事だったりするのかな。
確かにこの世界の人に比べると俺の気功の力は小さいし、消えそうに見えるのかもしれない。
てことはもしかして、彼女は気功仙術の使い手なのだろうか。
あ、兄弟って、まさかミルカさんの兄弟弟子とかそんなの?
いや、それだったらまた呼び方が違ったっけ。良く知らないけど。
「えーい、話が進まねぇ! ほっといたらべらべら喋るかと思ったけど、タロウが状況把握出来てなさ過ぎて全然会話が出来てねえじゃねえか!」
「うわっ!?」
そこに唐突に、グルドさんが転移で部屋に現れた。
言葉から察するにずっと覗いていたのだろうか。
ていうか何でグルドさんがここに?
「・・・従僕、邪魔しに来ないと思ったら、そういう事か」
少女はグルドさんに目を向けると、睨みつけながら口を開いた。
先程迄の笑顔や優しい顔とは大違いだ。
今の従僕ってどういう事だろうか。この二人どういう関係なの。
「だってお前、タロウの目が覚める迄何も話す気はないつって、本当に喋らねえんだもん」
「ふん、貴様に語るべきは語った。これ以上教える事など無い」
「ほんっと可愛くないなお前は。お前が一番欲しがっている情報をこっちは持ってるってのに」
「それも本当の事かどうか怪しいものだ」
二人は俺を置いてぎゃーぎゃーと言い合いを始めてしまう。
俺が完全に置いてきぼりなんですけど。そろそろ本格的にちゃんと説明プリーズ。
あ、イナイさん部屋に入って来た。彼女も一緒に覗いていたのか。
アルネさんも後ろに居る。皆居たのね。
「おはよう、イナっ―――」
起きた挨拶をしようとしたら、イナイにデコピンをされた。
そこまで力は入っていないがそれでも今の俺には激痛だ。
声を出せずに悶えているとイナイが俺を睨みながら口を開く。
「おはようじゃねえよ馬鹿たれ。散々心配かけやがって。取り敢えず今はこれで済ませてやるけど、元気になったら覚えとけ」
ずももももと効果音が聞こえてきそうな気配のイナイさん。
とっても怒ってらっしゃるようです。眉間の皺がとっても怖いです。
「はぁ・・・ったく、取り敢えずタロウ、お前どこまで覚えてるんだ。先ずはそっからだ。意識無くなる直前の事は覚えているか?」
けど一度溜め息を吐くと表情を緩め、そう聞いて来てくれた。
流石イナイさん。これでやっと俺も状況把握出来そう。
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