第476話今更名前を聞きます!

「こことここ、後はここですね。こちらで確認している遺跡はこれで全部です」

「意外と少ないんですね」


レイファルナさんが地図を見ながら指をさした個所を見て、意外と少ない事に驚いた。

この国の国土の広さから考えれば、もっと有るかなと思っていたんだけど。

ウムルと同じで、国の大きさから言えばロシアぐらいの大きさなのに。


「あんな物沢山あったら困りますよ」

「確かに」


確かに国土が広いからってあんな物ポコポコ出てきても困る。

ウムルにもそんなに大量に有る訳じゃないし、そもそも元々の国土の所には無いらしいし。


ミルカさんに連絡を入れてから数日たつが、まだ彼女は来ない。

一応訓練は毎日続けているけど、相変わらずあの時の感覚を感じられる気配もない。

なので、このまま実らない訓練を続けているよりも出来る事をやっておこうと思い、遺跡の場所を教えて貰えないかとお願いをしに行った。

流石にイナイもこの国の遺跡の場所は知らないそうなので、彼女達に聞くしかない。


イナイにもその話はしたんだけど、その時になったらギーナさんが教えてくれるから大丈夫だと言われた。

勿論それは解っているんだけど、どれだけ頑張っても一向に遺跡で使えた力が使えない事に焦りを感じていて、何か出来ないかなって思ってしまう。

クロトは焦っているのか焦っていないのか良く解らない。傍目には普段通りに見える。


ただこれは俺が勝手に焦ってるだけなのでクロトに何かを言う気は無いし、今日の事も一人で動いている。

レイファルナさん達は笑顔で対応してくれたけど、それもそれで我儘を通して貰ったようなものなので、少し申し訳ないと後で思った。

駄目だな、こういう所全然成長して無いな。


ただ彼女が俺の対応をしているのには少しだけ理由が有る。

彼女は日常生活が送れるようにはなっているものの、実は完全回復したわけでは無いらしい。

魔術を使うと何処か違和感があるらしく、ギーナさんに報告したらまだ暫く無理をしないようにと言われ、いつもより仕事が少ないそうだ。

なので俺の対応なんかの特に体に負担をかけないであろう事柄は、ギーナさんにとって都合の良い事だったらしく、俺の対応を彼女に任せた。


ギーナさん自身はどこぞに出かけて行ったので、今は何処にいるのかは解らない。

岩の人が付いて行っていたので、何かしらお仕事だとは思うけど。


「とはいえ、確認している遺跡が三つというだけで、先日の様に未発見の遺跡が在る可能性は有ります。ウムルと違い、我が国は未調査の土地もまだまだ多いですから」

「やっぱり調査って大変ですか?」

「内容を明かせる人間が限られていますからね。それに私達は様々な文化の種族が集まった国です。人族の方と違い本当に様々で、調査の為に避けようのないトラブルが起こる事もありますから。ギーナ様の為に部族の主義主張を全て後回しに出来る者ばかりでは有りません」


あー、確かに生態そのものが違いそうな人も居るもんな。

妖精的な生き方してる人達に、文化圏の生き方を押し付けても上手くはいかないだろう。


「そもそも私達はそれぞれが独自の文化を持って暮らしていた部族の集まりですので、開拓して街を作るという意識の無い部族も多く、土地の調査そのものの手が足りてないのが実情ですね」

「ああ、遺跡の前に、土地自体未確認の所も多いんですね」


流石にこればかりは人手が無いとどうにもならない。

どうにもならないのに、やれる人間が居ないのではそりゃあ進まない。


俺達が通ってきたところは整備はそこそこされていたし、街道で魔物に会う事なんかもほぼ無かった。

でもそれは、首都周辺に限られる話なのかもしれない。

この国の現状に納得した所で、俺はさっきからずっと気になっている事を聞こうと思った。


「ところでさっきから不思議に思う事が有って、それを聞きたいんですが良いですか?」

「奇遇ですね、私もとても不思議な事が一つ有るのですよ」


俺はここに来てから、いや、最初は別に何ともなかったのだが、今はとても不思議な事がある。

どうやらその疑問は彼女も同じ様だ。


「なんで、ビャビャさん、俺の隣に座ってるんでしょうか」


レイファルナさんを見つめながら、俺の隣で俺の袖を持っているビャビャさんの存在を訊ねる。

彼女も同じ疑問があるようで、説明を求める様にビャビャさんを見つめている。


訪ねた時は特に何も問題は無かった。レイファルナさんと同じで半休養みたいな仕事しかしてない彼女もいっしょに来たのは解る。

彼女もギーナさんに近しい部下だろうから、フットワークが軽いであろうのも、この話に参加する意味が有るのも解る。

けどなぜ彼女は地図よりも俺を見て、俺の袖をつかんでいるのかが解らない。


「だ、め?」


先日聞いた可愛い声で、おずおずと(おそらく)上目づかいで聞いて来るビャビャさん。

大半の男はきっとこれでやられる事であろう。彼女の顔や体が触手の塊でなければ。


「いや、えっと、ダメって訳じゃ無いんですけど、何で俺の隣なのかなって」


俺の言葉に一拍置いてから顔(?)を俯かせ、立ち上がってレイファルナさんの横に移動するビャビャさん。

そして先程の疑問に返答は無く、じっとこちらを見ている。


「ビャビャ、貴女本当にどうしたのですか?」


彼女と古い付き合いであろうレイファルナさんにとっても彼女の行動は珍しいらしく、ストレートに質問を投げかけた。

だがビャビャさんはそれに応えることなく、ふいっと顔をそむけた。


「はぁ・・・それは後にしましょうか。タロウさん、他にお聞きしたい事は有りますか?」

「あー、いや、えっと」


ビャビャさんの不可解な行動に思考を持っていかれ、聞くべきつもりだった事がすっぽ抜けた。

えっと、他にも何か聞きたかった筈なんだけどな。


「あ、そうだ、皆さんの名前を聞いて無かったと思って。教えてもらえませんか?」

「そういえばタロウさんには名乗っていませんでしたか。失礼しました」


あれ、俺以外の人には名乗ってたのかな?

もしかしてイナイ達には資料か何か渡されてたのかしら。

そんな疑問を持ちつつも、とりあえず彼女の言葉の続きに耳を傾ける。


先ず彼女はギーナさんと同じ種族である鱗尾族。

まあこれはギーナさんに種族を教えて貰っていたし、見たらわかる。

ただ尻尾の太さはギーナさんと彼女はかなり大きいが、他の人は大半この半分ぐらいらしい。

身体能力の高さに比例して大きくなっていくそうだ。


次に隣にいるビャビャさん。

彼女は擬態触人族と呼ばれる種族で、名前は他称でそれが定着したらしい。

本人達的には単に同じ種族という事だけで部族名に拘り等が無かった一族らしく、周りが区別を付けたいならそれで行こうと昔に決まったとの事。

触手を人の様な形に固定して、人と同じように動く事から呼ばれた名前だそうだ。


次は羊顔のニョンさん。

彼は毛獣族で、あのもこもこ毛皮からの由来だと思う。

ただこの毛獣族っていうのは正確には彼の部族名では無く、彼の様に毛の多い種族の総称であり、彼の部族名自体はゴボド族という昔住んでいた土地の名前だそうだ。


そしてここからは名前を聞いていない人達の説明が続く。


先ずは岩の人。

彼の名はドッド。

地態族という名前の種族で、今は血が薄れて人の体に近い形になりつつあるけど、昔はもっと岩や土っぽい感じで、地面に横たわると人とは気が付かない程だったそうだ。

今でも血の濃い一族は居ない事は無く、そういう人達は山奥で過ごしている事が多いらしい。


虫の人の名前はレ・ミナ・スエリ・ガ・ドノという名前で、一族的には色々意味があるそうだけどレイファルナさんは興味が無いので知らないそうだ。

普段はスエリと呼んでいるらしい。本人的にもスエリの方が良いそうなので、今度名前を呼ぶ機会が有ればそうしよう。

種族名はメズネレエリ族という名前で、彼もその土地の名を名乗っている種族らしい。

虫系の人は総称としては虫人族と呼ばれているが、その辺りは気にしない人と気にする人の差が種族で違うそうだ。スエリさんは特に気にしない一族の出らしい。


まあ、一緒くたにされるのは嫌がる人も居るよな。

スエリさんの顔は蜂に近い感じで体の形自体はほぼ人型だけど、蜘蛛や芋虫や蟻みたいな顔の人や、虫がそのまま大きくなったような体の人も居るからね。


リザードマンの人の名前はドローアという名前で、種族は硬鱗族。

触ったら解るらしいけど、彼女の体を覆う鱗はかなり硬く、ハンマー等で殴っても半端な力ではひびも入らないそうだ。

とはいえ衝撃を吸収できるという訳ではないので、斬撃にはめっぽう強いが衝撃は通り、彼女自身もまともに打撃を受ける事はしないようにしているらしい。


そして一番謎な人族にしか見えないあの人は、人族では無く人族に似た姿の長命種族らしい。

名前はフェロニヤ・トコヴァ。トコヴァ族で、彼の一族は皆トコヴァという姓だそうだ。

ただ彼の場合生まれた時から奴隷で、昔の文化を知っている長などは軒並み死んでおり、昔の自分たちの文化などはほぼ残っていないらしい。

数少ない残っている文化の一つが、一族が名乗るトコヴァという姓だそうだ。


彼の一族は特に命を落とす様な事が無ければ500年は生きる一族らしいのだが、奴隷生活の環境ではそんなに生きられる筈も無く、確認されている一番歳が上の者で5,60歳程度らしい。

フェロニヤさん、重いな・・・。


「こんな所でしょうか。本人達に聞けばもっと詳しく教えてくれるでしょうが」

「いえ、名前と種族が解っただけで十分です」


そもそもとりあえず名前だけでもって思ってたぐらいだし、それを考えれば思った以上に話を聞けた。

本当に生態そのものが違う人が多い国だから、紹介での情報が多いな。

立場とかよりも、その人そのもの生き方に個性がある。


「気になるなら、色々、話すよ?」


レイファルナさんが話終わると、下から覗くような動作でビャビャさんが言うが、これ以上は特に聞きたい事も無いのよね。

食事風景も見たから、特に彼らが特殊な食事をとるわけでもない事も解ってるし。

いや、虫が好きな一族とかもいるみたいだけど。ここまでの道中にそういう宿に泊まったし。


「ま、まあ、何か気になったらまた聞かせて貰います」

「う、ん」


ビャビャさんの言葉に戸惑いながら返事をすると、彼女は素直に頷いてくれた。

だがその彼女を見るレイファルナさんの表情は、不可解のという言葉が顔に張り付いている。

やはり今日のビャビャさんの行動は、レイファルナさんにとってもおかしいんだな。

俺にしても、仕事中の彼女の態度はそっけない所が有ったので、かなり違和感を持っている。


何となく、なんとなーく、好意を持たれてるのかなーとは思うけど、追及して藪蛇になるのが怖いので放置の方向で、今日の所は礼を言って帰る事にした。

シガルとイナイに話しておいた方が良いかなぁ・・・。

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