第435話復活です!
シャドーを軽く流し、足運びや、腕の振りの加減を確かめる。
特に問題なく動くことを確かめ、剣を握り、慣れた型を通してみる。
きりの良い所で強化魔術をかけ、時々仙術の強化も使いながら仮想的に攻撃する様にシャドーに移行。
暫くそのまま流し、納得いく状態まで動いたら深く息を吐いて背筋を伸ばす。
「うっし、完全復活」
おっし、もうどこも痛くないし、思ったより身体能力の低下も見られない。
仙術はむしろ、以前より使いやすくなってる感じがする。気のせいかもしれないけど。
多少体に重みは有る気はするけど、想像通りの動きは出来るから大丈夫でしょ。
魔術はまあ、うん、何らかのスイッチ入らないとあの状態になれないのかもしれん。
いつも通りだわ。
意図的にあの状態に出来れば、普段ももう少し色々出来ると思うんだけどな。
「その調子だと、特に無理する必要無さそうだね」
「うん、まさか10日もまともに動けなくなるとは思わなかったけど、思ったより大丈夫そう」
シガルも安心した様子だ。まああんなに長期間寝込んでたら心配だわな。しかも魔術をどれだけかけたところで治らないし。
流石に最後2日はある程度自分の事は自分でやったけどね。
シガルにはああ言われたものの、恥ずかしい事は恥ずかしいって。
「ったく、心配かけやがって」
イナイも若干ホッとした様子で、安堵の言葉を口にする。
イナイは寝込んで5日目の朝に慌てたように帰って来た。
どうやら4日目の夜ぐらいに俺の容態を聞いて、何やらやっていたらしい作業を途中で投げて俺の様子を見に来たらしい。
倒れた当日に連絡しなかった事をかなり怒られました。
因みにその連絡をしたのはシガルさんです。シガルは割と普通の雰囲気で看病していたけど、どうやら彼女は結構動揺していたらしい。
その時まで完全に、イナイへの連絡が頭から吹っ飛んでいたそうだ。
俺はなんていうか、この様を見せるのが何となくやだなぁとか思ってたりしてた。
リンさん達も特にイナイに連絡を入れなかったらしく、イナイはそれにも文句を言いに行ったそうだ。
流石に今回はセルエスさんも逃げられなかった模様。
「ちゃんとイナイちゃんに連絡してようー。珍しく私までがっつり怒られちゃったじゃないのー」
等と理不尽な言葉を頂きました。あの人何かあっても大体さらっと流して被害外に居るからなー。
ただその後、ミルカさんが何かイナイさんに言ったらしく、それで引いたらしい。
何を言ったのかまでは教えて貰えなかった。
その後はイナイとシガルの二人がかりでの看病だった。
まあ、細かい内容は、いいや、うん。
とりあえず二人とも色々世話をしてくれました。はい。
色々だ色々。
「まあ、思ったよりは平気そうで安心したわ。帰ってきたら碌に身動きとれねえんだから、どうなるかと思ったぜ」
「んー、まあ怪我自体はセルエスさんがしっかり治してくれてたし、後は回復待ちだったからね」
「・・・そうだな。怪我は治ってたからな」
俺の返事に、グレットに寄りかかりながら何故か不満そうな目を向けるイナイ。
あー、やっぱまだ怒ってるのかな。
昨日一昨日はもうそんな感じじゃ無かったんだけど。
「まだ怒ってる?」
「・・・怒ってねーよ」
なら何でそんな不満そうな顔してるんですか。
うーん、連絡しなかったこと以外に何か有るのかな。
「何か思う所が有るなら言ってほしいなぁ・・・」
「・・・はぁ、気にするんな。気にしたってしゃあねえ事だしな」
「え、何それどういう事」
「お前は気にしなくて良いよ。体に不調はねえんだろ?」
「うん、動かしてなかった分の重さは若干ある気がするけど、特に問題らしい問題は無いかな」
「なら気にすんな、あたしが勝手に心配してるだけだからな」
勝手に心配してるって言われてもなぁ。その心配の内容を知りたいんだけど。
まあ、こういう返事って事は、きっと教えてはくれないんだろうな。
まあいいか、心配してるだけなら、ちゃんと元気な所見せれば良いだけだし。
「・・・お母さん大丈夫。お父さんはもう平気だよ」
「あん? クロト、どいう事だ」
「・・・昨日までお父さん、凄く不安定だった。けど、もう大丈夫」
何かクロト君がまた不思議な事言いだしたんですけど。
え、なに、昨日までの俺なんか不安定だったの?
いや、メンタル的にはいつ治るのかって不安でしたけど。
「・・・お前もしかして、解んのか?」
「・・・? 何の事か解らないけど、お父さんがもう大丈夫なのは解るよ」
「そういやお前、しきりにタロウに大丈夫か聞いてたな。それが理由か?」
「・・・うん、お父さんそこにいるのに、消えそうだった。心配だった」
・・・まって、初耳なんですけど。俺が消えそうだったってどういう事ですか。
え、昨日までの俺、クロトから見たらそんなにやばかったの?
まってまって、そういう怖い事はちゃんと言って下さい。ただ心配してるだけだと思ってたのに何それ怖い。
「・・・お父さんは強いから、大丈夫だと思ったけど、でも、不安だった」
「強いねぇ。あたしとしちゃ未だに、お前の言う『強いタロウ』の部分もどこか良く解んねえんだが」
「・・・? お父さんは強いよ?」
ここに関しては俺も不思議なんだよなぁ。クロトは俺の何を見て強いって言ってんのか解らん。
今回なんか思いっ切り負けたのにな。
「ふーん。あたしはタロウよりお前の方が強いと思うけどな」
おうふ、解ってたけど、解ってたけどイナイさんにドストレートに言われるとちょっとショックだわ。
いやまあ、自分でも多分そうだろうなぁとは思ってるけど。
クロトの黒を突破する方法が俺には見えないし、勝てる勝てない以前に、通用しない。
「・・・お父さんは、強いよ。凄く強い」
「ふーん。お前がそこまで言うって事は、まだ伸びしろが有るってことかね」
伸びしろか・・・まあ、ここで止まる気は無い以上、そう願いたい。
流石に、この悔しさを抱えたまま折れる様な事はしたくない。
俺の弱点をカバーするために必要な物が、もう一つ見えた。
出来るかどうかわからないけど、もしできれば今回みたいな無様を晒さないで済む。
それに、バルフさんとやった時はまだ使えなかった物も、早めに使えるようにしないと。
ここに来て、体がきついとかそんな情けない事言ってられるか。
「まあ、クロトの期待に応えられるように頑張りますかね」
・・・嘘だな。言ってて自分で嘘だと思ったわ。
勿論完全に嘘ってわけじゃないけど、それでも本音は違う。
俺は、この二人に見限られないために努力するだけだ。
その為に、もっと知る必要がある。もっと使える物も見つける必要がある。
「そういえばふと思ったんだけど、バルフさん大丈夫なのかな」
最後気絶したから知らないんだけど、仙術ぶっ放したし、バルフさんもそこそこダメージ負ってるんじゃないのかね。
そう思ってイナイに聞いたが、その疑問にはシガルが口を開く。
「バルフさんなら次の日から普通にお仕事してたよ?」
「あ、そうなんだ・・・」
まじか、普通に翌日通常営業ですか。
完敗過ぎるなぁ・・・。
今やってもまた同じ結果だろうな。あの人に同じ手は通用しないだろうし。
俺の体捌きの観察だけで仙術避けてた人に、同じ奇襲が通じるとは思えない。
まあ、思い悩んでも、落ち込んでも仕方ない。
とりあえず今日は、体の感覚戻す事だけを集中しよう。なんだかんだ10日も寝てたわけだしな。
大丈夫だとは思うけど、それでも少しは戻しておきたい。
・・・そういえばイナイ、作業放りだしてきたみたいだけど、戻らなくて大丈夫なんだろうか?
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