第433話その理由です。
「ん・・・あ・・れ・・・」
ここ何処だ。あれ、俺何で寝て―――。
「ああ、そうか。負けたのか」
俺が一人ここで寝てるって事はそういう事だろう。この天井は見覚えが有る。城の医務室的な所だ。
首だけを回して周囲を見回そうとするが、首が動かない。いや、正確には動かしたくない位痛い。完全に仙術の反動だなこれ。天井しか見えないのは辛いなぁ・・・。
えっと、どうなったんだったっけか。
とりあえず最後攻撃防いだとこまでは覚えてんだけど、そこから思い出せない。
拳を突き出してた気はするんだけど、記憶がはっきりしてない。
「もうちょっと力の残し方の調整をするべきだったかな」
最後の最後、多分全力を使い切ってすっからかんになってたんだろう。
あの人に立ち上がれないダメージを与えるために、全力で強化して突っ込んだけど、そこで使い切ってしまった。
あのローブを取り出して防御したけど、それが限界だった。
だからって最後の一撃を当てる為に温存や加減をしていたら、多分あそこまで長時間戦えなかったし、最後の一撃も多分当てられなかった。
俺の魔術の癖や、仙術を使う時の動作を何回も見せたから引っかかってくれた筈だ。
「強かったなぁ・・・」
初めて空っぽになるまで戦った気がする。
全部使いきって、負けてしまった。
全部使いきったのに、負けてしまった。
「・・・うーん、自分にこんな感情が生まれるとは思わなかった」
何だか物凄く悔しい。いや、今までもちょっと悔しいとか思う時は有った。
前に一度負けた時だって、ちょっと悔しかった。あの時は結果的に上手くはいったけど。
今回は完全に負けだ。余力も何もない。言い訳もできない。完全な負け。
もうちょっと、もうちょっとで勝てたかもしれない、負け。
「・・・」
拳を握ろうとして、それすら激痛が走る。多分やってる最中既に限界超えてたんだろうな。
脳内麻薬でも出過ぎてマヒしてたんだろう。
というか、多分攻撃の時に強化切れてたと思うんだけど、よく無事だったな俺。
「タロウさん、起きたの?」
お、シガルの声だ。用事で離れてたのかな。シガルの事だから俺放置してどこか行くとは思えないし。
・・・この考え方、凄い自惚れてる様にも感じるな。むしろそれは俺な気がする。
「おはようシガル」
「・・・よかった。タロウさん、痛む所とかない?」
俺の顔を覗きこみながら、ほっとしたような顔を見せるシガル。
心配かけたっぽいな。そりゃそうか。
「全身痛い。仙術の使い過ぎで動けないや」
「え、もしかして起き上がれないの!?」
あ、しまった焦らせてしまった。
「うん。でも仙術使い過ぎただけだから、暫く安静にしてれば治るよ」
我慢すれば出来ない事は無いと思うけど、無茶苦茶痛いのでやりたくない。
起き上がるどころか首回すのも痛いからね。
「ほ、ほかには?他には異常はない?」
「んー、魔力は回復してるっぽいし、体の感覚自体は有るし、多分回復すれば大丈夫かな?」
「そ、そかぁ・・よかったぁ・・」
ただじっとしてても痛いのは言わない方が良いかもしれないな。
動かしても動かさなくても痛いんだよな、仙術のダメージって。
反動でここまで酷いの食らってるのは初めてかも。
「心配しなくても大丈夫だよ、すぐ治るさ」
安心させようと言ったのだが、シガルは怒ったような表情になった。
あれ、なんで。
「あのねタロウさん、倒れてるとき右腕ぐちゃぐちゃだったらしいし、体中の骨折れて血まみれだったんだよ。心配に決まってるでしょ!」
「うっげ。マジ?」
「マジマジ。セルエス殿下が治してくれたけど、すっごい重症だったんだから」
あー、セルエスさんが治してくれたのかぁ。
なら後遺症とかも大丈夫かな。知識とかそういうの完全関係ないレベルでの治癒魔術ぶち込める人だし。
しっかしそうか、やっぱ最後強化切れてたか。
「そっか、ごめん。心配かけて」
「ほんとだよ、まったくもう!」
拗ねたようにそっぽを向くシガル。
そこまで心配させたのは申し訳なかったなぁ。
・・・それに彼女には、もう一つ申し訳ない事が有る。
「・・・シガル」
「何、タロウさん」
「・・・俺負けちゃったわ」
「うん、そうだね」
「・・・全力でやって負けたんだ」
「うん、遠くからでも判ったよ。タロウさんが今までにないくらい全力だったのが」
「・・・ごめんな」
「なんで謝るの?」
俺のが謝ったところで彼女は俺の視界から外れ、その表情は伺えない。
なんで、か。そうだな、謝るのはおかしいのかもしれないな。
でも、俺はシガルに謝らないといけないと思ったんだ。
シガルに、見せられなかった事が、悔しかったから。
「・・・君が目標にした人間が勝つところを、見せられなかった」
ああ、そうだ。負けた事そのものよりも、それが悔しい。
リンさん達クラスの、どうしようもないぐらい強い人以外に本気で負けて、初めて知った。
彼女に、自分を目標にして、自分に追いつこうとして、自分を支えて愛してくれている彼女に、勝った自分を見せられなかった事が、とても悔しい。
「カッコ良かったよ」
俺の視界から外れた位置で、とても優しげな声音が聞こえる。
とても暖かな声音で、シガルの言葉が聞こえる。
「凄く、カッコ良かった。全力で、限界まで頑張ってるタロウさんが凄くカッコ良かった」
ひょいと、とても優し気な笑みを浮かべるシガルの顔が視界に入る。
「あたしが目標にした人は、ちゃんと目標で有り続けてくれたよ」
「・・・そっか」
「うん!」
俺は今、どういう顔をしてるんだろうか。
多分、みっともない顔してるんだろうな。
ああくそ、悔しいな。やっぱり悔しい。
まだだ、まだこの程度じゃ終わらない。終わってたまるか。
俺はこの子に、この子が追いかけるに値する人間じゃ無いと駄目なんだ。
シガルが愛してくれる自分で無ければ意味が無い。
イナイが愛してくれる自分で無ければ意味が無い。
俺は、二人にとって要るべき存在でなければ、意味が無い。
二人を離さないためにも、これじゃ終われない・・・!
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