第382話記念です!

何とかシガルも目を覚まし、昼間とは違う服に着替えて飛行船の乗り場に向かう。

あそこあんまり広くなかった覚えが有るけど、人数分けて乗るのかね。


『今度は何するんだ?』


まだ若干寝たりない雰囲気のハクが聞いて来た。

確か最初の時点で教えた気がするんだけどなー。まあ、ハクだし仕方ない。


「飛行船のホールで夜会だ。酒と踊りで親睦を深めましょうってな」

「身も蓋もない言い方するなぁ・・・」

「事実だろ?」


イナイも少し面倒くさいのか、言い方が雑だ。


「でもまあ、その前にやる事が有るけどな」


イナイは乗り場の前でそう呟く。乗り場まで来ると、既に飛行船がそこに待機している。やっぱ圧巻だなぁ。でも人は全然居ない。

ただ、樹海の時のメンツが全員そろってる。セルエスさんの旦那さんとか、ウッブルネさんも居る。

後からくる形なのかな?


「やあ、来たね」


ブルベさんが爽やかな笑顔で、手を振って迎えてくれた。

俺とシガルはそれに頭を下げて応える。クロト君は震えるのを我慢しております。

めっちゃ我慢しております。

白いままだから痛くないけど、めっちゃ手に力入ってる。


「おう、全員そろ・・・ってねえな」

「うん、一人遅刻だね」


イナイは片手を上げて応える。今ここには身内しかいないからいつも通りだ。

それはともかく、一人遅刻って誰の事だろう。

疑問に思っていると、覚えのある、強大な魔力が傍に近づいて来るのが解った。

魔力が集まる場所に、ここに居る皆の視線が行く。そこに現れたのはグルドさんだった。


「お、来たか。おせえぞグルド」

「ごめんごめん」


そうか、遅刻ってグルドさんの事だったのか。

グルドさんはイナイに謝って、ブルベさん達の前まで歩いて行く。


「兄貴、リン姉、おめでとう」

「ああ、ありがとう、グルド」

「とうとうお義姉ちゃんになったぞ、弟よ」

「頼もしい義姉だよ全く」


祝いに言葉を述べるグルドさんと、笑顔で礼を言うブルベさん。

リンさんはなんかどや顔だ。あのあたりはあの二人にしか解らない何かがありそう。

そしてグルドさんはセルエスさんに視線を向ける。


「姉貴は・・・一応祝っておく」

「ふん、一応感謝を返してあげるわ」


こういう時ぐらい素直におめでとうありがとう出来ないんでしょうか、この二人。

出来ないんだろうなぁ。


「オルラッドさん。もし何かあったら兄貴にすぐ頼って下さいね。こいつ何するか解らないんで」

「あはは、大丈夫だよ」


実の姉より、姉の旦那さんを気遣う弟。うん、この二人のほんと仲悪いな。

あれ、でもなんか、セルエスさんの表情が前に見た時より柔らかい気がする。

前もっと、なんていうか、ごみを見るような目だった覚えが・・・。


「愚弟に心配されなくても問題ないわよ」


そう言ってセルエスさんは旦那さんの首に手を回し、横から抱き付く。

お熱い。ただセルエスさん若干照れてる気がする。


「あっそ。まあ、愛想つかされねーようにな」

「大きなお世話よ」


なんだかんだ、グルドさんもちゃんと祝いたかったのかな?

二人とも、前の時のようなムードではない。まあ、仲良くは見えないけど。


「うっし、じゃあ全員そろったから、やるぞー」


イナイが手をパンと叩き、腕輪から何かを取り出す。あれは、録画の道具だ。

イナイはそれを少し離れた位置に置き、いじって調整している。


「イナイ何するの?」

「記念撮影ってやつさ。あたしら、仲間内だけでの、な。せっかくこういう物が有るんだ。使わない手はねえだろ」


なるほど、記念撮影。仲間内だけの、記念撮影か。


「主役の4人は中央に寄れよー」


イナイの指示で、皆が横に並ぶ。中央に主役4人。それを挟むようにウッブルネさんとアルネさん。

アルネさんの横にグルドさんとアロネスさんが並び、反対側にミルカさんと俺達が並ぶ。


「うっし、そんぐらいで良いか」


イナイもこちらに戻って来て、俺の傍に来ようとする。

だが、その途中でグルドさんに転移魔術で中央に移動させられた。


「な、何すんだグルド。びっくりした」

「愚弟、今日は褒めてあげる。イナイちゃんは中央でしょー」

「は、何言ってんだ、セル」

「イナイは中央だよね」

「うん、姉さんはそこじゃないと」

「お、おいお前ら」


主役3人がイナイを中央に固定させ、その手をイナイの肩に乗せる。

3人とも楽しそう。セルエスさんの旦那さんも、ニコニコ眺めてる。


「イナイは、そこに居ればいい」

「そーそー。みんなの姉さんだろ?」


ミルカさんとアロネスさんも加わってきた。グルドさんはにやにやしてる。

なんだろうこのチームワーク。この人ら、ほんとイナイの事好きだよな。


「そ、そう言う事ならロウでも良いじゃねーか」

「私は騎士だからな。中央に立つわけにはいかん」

「意味が解んねーよ!」

「あっはっは。要は大人しくそこに居ろという事だ」

「くっ、お前までかよ」


イナイの言葉にわざとそっけない態度で応えるウッブルネさんと、笑いながら諭すアルネさん。

これはもう、大人しくそこにいるしかないと思う。


「はぁ・・・わかったよ。ったく、なんで主役おいてあたしが中央なんだか」

「私達が主役だからこそ、イナイちゃんが中央なのよー?」

「意味が解らん」


イナイは流石に諦めて、大人しく映像記録の道具を遠隔で操作し始める。


「ほら、お前ら向こう向け。撮るぞー」


イナイの言葉に従い、皆が道具の方を向く。イナイはそれを確認してから操作をして、今の映像が道具の中に記録された。


「さて、上手くいってるかね」


イナイは、置いた道具を拾いに行き、様子を見ている。

それを眺めていると、グルドさんがこっちにやってきた。


「よっ、元気そうだな」

「はい、そちらも」

「そっちの嬢ちゃん達は初めましてだよな」

「は、はい、シガル・スタッドラーズと言います。お初にお目にかかります」


あ、そうか。シガルは初対面だっけか。

なんか勝手に初めてじゃない気になってた。


「ああ、そんなに気を張らなくていいよ。姉さんと義姉妹になる子なんだし」

「え、で、でも」

「大丈夫大丈夫。大体俺、王族らしい仕事なんて碌にしてねーんだから」

「は、はあ」


シガルの頭を撫でながら、笑顔で言うグルドさん。シガルは困惑している。

ていうか、シガルのこと自体は聞いてるのね。


「それはともかく、その子大丈夫か?」


クロトが半泣きなのを見て、グルドさんが心配の声をかける。


「ああー、その、リンさんが怖いだけなんで」

「そういやそうらしいな。そんなに怖いのか」

「なんとか泣かないようにしようと、本人は頑張ってるみたいなんですけどね」

「ははっ、でもリン姉が怖いっていうのは、有望だな」


皆似たような事言うなぁ。それだけリンさんが別格扱いされてるって事だろうけど。


『なあ、お前、強いだろう』

「ん、そりゃまあ。強いぞ」


あ、ハクさんの目がランランと輝いてる。これはまずい。

さっきまで眠そうだったのに。


「ハク、今日は無し。今はダメ」

『やだ』

「いや、やだって言われても」

『やーだー!』


ハクさん、退屈だった反動か、駄々っ子になっておられる。

その様子を見て、グルドさんがイナイの方を向く。


「姉さん、この子ちょっと借りてくけど、いいかな?」

「んー?ああ、ハクか。ハクが良いならいいぞー。ただしちゃんと送って来いよー」

「了解ー」


あ、グルドさん相手する気だ。イナイも止める気一切ない。


『ん、良いのか!?』

「ただ、ここだとまずいから別の場所でな」

『解った!』


ハクが返事をすると、即座に転移魔術を発動させて移動するグルドさん。

相変わらずグルドさんの魔術はえー。息をするように使うなあの人も。

セルエスさんといい、あの人といい、全然届かんなぁ。


「さて、私達は中に入ろうか。そろそろ客人たちの移動の時間だ」


ブルベさんの言葉に従い、皆で飛行船に入っていく。

中ですでに待機していた人たちが出迎えてくれて、そのままホールまで誘導してくれた。

以前と違って、左右に人が等間隔に並んでいる。この人達何時までならんでないといけないんだろう。大変だなぁ。


ブルベさん達は中央に立ち、俺達は端の方へ移動。イナイ以外が中央に居る感じだ。

ブルベさん達は何か打ち合わせというか、最終確認っぽい事をしている。


「そういえば、タロウ、踊れるよな?」

「・・・多分」


正直自身は無い。一応教えて貰ってはいるけど・・・。


「まあ、リードしてやるよ」

「よろしくお願いします」


女性にリードされるのがみっともないだって?今更だよ!

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