リフレクテッド・サーフェス
惷霞愁灯
ニチジョウ
第1話 ニチジョウの中のニチジョウ
「おはよう!」
「おはよ、雪。今日も早く行くの?」
「うん!」
リビング中央のテーブルに座り、既に食事中である姉の
育った環境はほぼ変わらないというのに、むしろ同じだからなのだろうか。
姉の仕事は、始まるのが遅い。(詳しく教えてくれないが) 朝起きるのが早い夏にとっては、朝はマッタリ出来る唯一の時間なのだ。
姉の倍の早さで動く雪は、リビングを出ると、パジャマのまま洗面所へ向かう。
・顔洗
・化粧水
・歯磨き
・眉毛チェック
・髪を整える
・コロン
・消臭スプレー
・生理の確認
・その他総合チェック
いつもの項目を頭でなぞりながら、済ましていく。準備が終わると再びリビングに行く。姉に続き、大事な朝食タイムが始まる。寝坊しようが何をしでかそうが、この時間だけは抜かす事ができない
「雪、あんまりガツガツたべないのよ?」
と、母
「分かってるってー」
カリカリに焼けたベーコンが、ジュワーと音をたてて、朝ご飯の目玉焼きを際立てている。雪は思うままに、口に放った。黄身が中で弾けとろける。白身は、ベーコンの旨味だけで頂く。乙女とは言い難いその仕草も、美味しそうにご飯を食べる様は、見ていてとても気持ちが良く、母も深くは言及しなかった。
食べ終わった食器を片付ける頃、ご飯を済ませた姉はネイルを塗りながらテレビを見ていた。
その姿を背にし、雪は自室のハンガーに掛かっている、制服を目指した。
ショーツとブラジャーは昨日のお風呂の時に変えたから、そのままで良いと判断した雪。パジャマを素早く脱ぎ、キャミソールを身に纏う。制服のスカートのチャックを閉め、三回捲ると膝丈より少し上のスカートになる。ワイシャツのボタンをとじて、ブレザーを羽織る。準備万端になった。
「それじゃ、行って来ます!」
勢いよく部屋を飛び出し玄関に向かう。すると母から
「ちゃんと〈薇充電〉(ローテエナジー)は満タンにした?」
との通達を受ける。
「もー、昨日したから! 大丈夫だって!」
「念の為、もう一回しときなさい」
ハイハイと、溜息を吐きながら雪は承諾する。
リビングの入口には、 〈給電地〉(サピリアプレイス)がある。外観としては、B5サイズ位で、プラスチック製の箱の中にある四角い枠の中心から、六角形の突起物が生えている感じだ。そこに、雪はポケットから取り出した、厚い円盤の凹と、BOXを開けた中の給電地の凸を嵌める。
キュイイイイイイイン
と円盤が音を出す。
「ほらやっぱり、あんまり充電されてないじゃない」
母の呆れた声が、リビングに響く。そして、雪もハイハイと二つ返事を繰り返す。
チン!という音が鳴ると、薇充電のゲージはMAXになっていた。
―――少し説明する。〈薇充電〉は見た目は懐中時計のような、携帯充電器である。〈供給地〉にセットされると、中心の円盤が回転し、充電される。円盤というのは、中にゼンマイが組み込まれている特殊なモノである。〈供給地〉からの回転により、ゼンマイが巻かれて、エネルギーを貯める仕組みになっている。
「じゃあ、本当に行って来ます!」
いってらっしゃいという母の声を聞く間もなく、雪は玄関を出る。家の脇に置いてある、自転車に薇充電を取り付け、カチッと音がすると共に、突風のように漕ぎ出す。誰かに後ろから押されたような補助を受け、加速度は更に増す。
街並みをすり抜けていくのは、まるで旋風のようで、雪はこの時間が大好きだった。朝を行き交う人々はどこか楽しげで、活気があった。
中心街を少し抜け、坂道を登り切ると、雪の目的地である学校が目に映る。堂々と聳え立つそれは、雪の心を踊らせた。
今日も一日が始まる。
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