想像力に勝る恐怖などないのかもしれない

天司 時人

第1話 空席

その日、僕はなれない電車の乗換えでイラついていた。

引っ越してきたまだ二日。本来であれば電車に乗るのも億劫である。

しかし、この世は行き辛い上にめんどくさく、ややこしい。

引越しひとつでもいろいろな手続きなどが山積みだ。

大都会でも田舎でもそれは大差ないように思えた。

都会の電車が混雑するのは当然だと思うが、田舎も田舎とて侮れない。

常に混雑するわけではないのだが、とりわけ朝は混んでいる。

これは田舎であるので運行の本数が少なく、交通手段が豊富でないことが明白な理由であった。

出来れば混んでいる電車は避けたいのだが仕方ない。

僕は先頭車両から二番目の改札からまっすぐの車両に乗る。

案の定、乗客でいっぱいだ。

しかし、ふと窓際に空席があることに気づいた。二人がけの席が綺麗に二つともぽっかり空いている。

確認してみたが優先席などではないようだ。

僕は、こりゃ運がいいとその席に座り窓の外の景色を少しばかり堪能しようと外を見ていた。

席に移動した際に一人の女性が僕を見て小さく「あっ・・・。」と声を漏らしたような気がするが、気のせいだろう。引っ越して知り合いもまだ少ないし、席は早い者勝ちだ。

ご年配の方ならともかく、20代前半の女性に席を譲るほどの心の余裕はそのときの僕にはなかった。

しばらく景色を眺めて車内に視線を戻したところで、ふと違和感を覚えた。

視線を感じるのだ。

乗客の視線だ。

それも一人や二人ではない。


そこにいるほとんどの乗客が僕のほうを見ていた。


僕は霊感が強いほうであるらしく、今まで急に寒気に襲われるようなことが何度かあった。

しかし、目の前の生きている人間にぞっとするのは今回が初めてだ。

幸い次の駅で降りてバスに乗っても目的地には行ける。

降りることを決意し、早く次の駅よ来いと心の中で唱えながら、視線から逃げるように窓越しの景色に目をやる。

そのとき、気づいた。


満員電車の中で、この席だけ空席だった理由に。


窓に女の子が映っている。


5歳くらいの女の子がこっちを見ている。


僕の、隣に、座っている。


その時、電車が止まった。

目的地に着いたのだ。

僕は一目散に電車をおりて走った。

そのとき


「おーい!!」


と後ろから声が聞こえた。

振り返ると先ほど声を聞いた気がする女性だった。

「大丈夫ですか?あなた、あの電車の噂、ご存じないですよね?」

とその女性は言う。

わざわざ、後を追いかけてまで話しかけてくれるとはこの方はとてもいい人なのだろう。是非、席を譲ってあげればよかった。

「あの空席にはなにか、その、よくない噂があるんですかね?」

僕は興味と確認とをかねた質問をその女性に投げかける。

「そうなんです・・・。怖がらせるつもりじゃないんだけど、知っておいてほしくて。」

「構いません。教えてください」

「どうやら、見えるらしいんですよ。窓に」

僕は、やはり、と思った。

しかし、その後の彼女の言葉に、聞かなければよかったと、僕は一生の後悔を覚えることになった。


「どうやら、見えるらしいんですよ。窓に」






「親子連れの幽霊。」


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