※注意。ここに小説はありません。

砂夜

煙草を吸う描写①

 靴底で小気味良いリズムを刻んでいた和斗は、とうとう我慢出来なくなって上着の内ポケットから青いパッケージが特徴的な煙草を一本取り出す。かつて、マイルドセブンと謳われたメビウスだ。いそいそと口に咥え、先端に右手の人差し指を近付ける。すると、爪先にライター程度の火が灯った。魔術を応用した発火である。ライターを忘れた怠慢ではない。ガスでもオイルでもない火は、煙草の煙に無駄な味を付け足さないからだ。

 肺一杯に吸い込んで、空を仰ぎ見るように吐き出す。紫煙は僅かな間だけ大きく広がり、すぐに見えなくなった。濃いタール、メンソール、バニラ味、ラム酒風味、色々吸ったが、原点回帰してのチョイスだった。メビウスは大きな特徴がないのが特徴だ。良い意味でも、悪い意味でも、煙草の煙なのだ。白米に白米を超えた味を要求しないのと一緒である。

 欲を言えば五割増しのニコチンが欲しいが、これはメーカーの気分次第だ。


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