才媛と塔3『一緒に筋トレしない?』



◇◇◇◇◇



 そんなこんなで翌週の基礎魔法の時間。



「うふふぅん? 今日もぉ、みんな、お疲れ様だよぅ? わからないことがあったらいつでも講師室にきてねぇ?」



 ぷるんぷるん。ぽよよん。ガラガラ、ピシャッ。


 女教師はスキップをしながら出て行った。


 やれやれ、相変わらずヒデェ授業だった。


 いつも通り諦観した表情で次の授業に向かう準備を始める基礎魔法の生徒たち。


 もう半分くらい魔法を習得することを諦めてしまっているのだろうか……。


 だが、今日はそのまま帰したりしないぜ。



「みんな。ちょっと話があるんだが。少し聞いてくれないだろうか?」



 俺は立ち上がり、彼らを見回して声をかけた。


 集まる視線。


 俺はラルキエリの名前を出して筋肉強化理論の説明を始めた。


 なんのため? そりゃもちろん、お前ら、一緒に筋トレしない? って誘うためさ。





 数日後――



 ラルキエリの塔は、むんむんした汗の熱気と声で満ちていた。



「うおおおおおおお!」

「どりゃあああああ!」

「ふんふんふんふん!」



 一階から最上階まで、階段ダッシュで駆け上る生徒たち。


 他のフロアでは別メニューで筋トレに精を出す者もいる。


 実に盛況。筋トレ理論の参加者で塔は大賑わいであった。


 いやぁ、まさか教室で声をかけた連中全員が参加するとは思わなかった。


 よっぽどあの授業に嫌気が差していたんだろうな。


 この実験が始まってから、彼らは基礎魔法の授業に出ないことを決めた。


 開始数日で僅かながらの成果が出たのも大きいだろうが、他に選択肢がないから仕方なく参加してたってのがよくわかる見切りっぷりである。


 あの女教師の面子を潰すような真似をしたのは悪かったかもしれん。


 だが、こっちだって無意味に精神を削られに行く変態趣味はないのだ。


 人間にとって時間は有限。俺以外のやつらは人生もかかっている。


 そういうわけで、勘弁してほしい。





「グレン……頼む……ゼエゼエ……やってくれぇ……」


 最上階まで駆け上がってきたポーンが息を切らしながら前にきた。


「ほいさー!」


 ポーンに頼まれ回復魔法をかけてやる。


 ラルキエリはフィーナに回復魔法をかけたのをやはり見抜いていて、足りないポーションの代わりをこうして俺に頼んできた。


 まあ、これくらいでいいならいくらでも協力してやるさ。


「よし、元気になった! また十往復してくる!」


 疲れ切っていたポーンはスッキリ元気爽快。


 再び階段を勢いよく下りて行った。


 こうやって休息の時間を短縮し、鍛練の密度を上げることで大きな成果を短期間で得ることができる。


 俺だから一人で回していられるが、普通なら大量のポーションか複数の人員を必要とする強引な方法である。


 データが揃って実用化が見込まれるまでは俺が規格外さをフル回転させてコスト軽減に尽力するつもりだ。


「あ、あたしにも回復魔法を……」


 げっそりしたツインテ少女が救いを求めるように手を伸ばしてくる。


 俺は横に控えるラルキエリに確認を求めた。


「ダメなのだよ? 君はまだ五往復しかしてないのだよ? あまり頻繁に回復をしても筋肉強化の妨げになるだけなのだよ?」


 ラルキエリが首を横に振ったので俺もそれを肯定するように頷く。


「う、うぐぅ……そんなぁ……」


 ツインテ少女は吐きそうな顔をしながら階段を下りて行った。


 お前のためだ。俺も心をオーガにするのはつらいんだぞ。




「つか、お前、よく一人一人の回数を覚えてられるな。俺は顔すらあやふやなのに」


「我輩は研究者なのだよ? それくらい覚えられなくてどうするのだよ?」


 座って本を読みながら平然と言ってのけるラルキエリ。


 はえー。研究者ってすっげえ……。




 ラルキエリによってしっかりと理論立てて行われる筋肉強化論の検証は順調だった。


 やはり個人差はあるが、基礎魔法学に参加していた生徒たちはこれまでの時間がなんだったのかと思えるくらいに次々と魔法を習得していった。


 もちろん、まだその威力は貴族の生徒たちの足元には及ばないが。


 それでも大きな進歩、驚異的な成長速度なのは間違いない。


 最近では他の時間に基礎魔法を取っていた平民生徒たちが噂を聞きつけて参加を願い出てくるほどである。



 俺だけじゃここまでできなかったな。


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