学園と授業初日5『我が友よ』
二時間目の授業は屋外での実技演習だった。
科目名は『魔法実技』。
この授業でもルドルフと同じとわかったので、並んで一緒に向かうことにした。
「うそ……ルドルフ様が他の生徒と歩いてる!?」
「あの孤高の神童が……隣の奴は何者だ!?」
「っていうか、あれエルフじゃない?」
廊下を歩いていると周囲がヒソヒソ囁いているのが聞こえる。
ルドルフって本当に学園ではすごいやつ扱いなんだな。
様付けとかクソ笑えるんだけど。
やがて注目は俺にも向く。
「珍しい、なんでエルフがわざわざこの学校に?」
「冷やかしじゃねえのか?」
失敬な。本命の目的は別にあるとはいえ、俺は真面目に勉強しに来たんだぞ。
……さっきは寝ちゃったけど。
廊下を出て、グラウンドに繋がる中庭部分を歩いていると、正面から数十人規模の集団でぞろぞろ移動する生徒の群れがあった。
その群れは先頭を歩く一人の男子生徒を中心に三角形になるように形成されていて、最後尾の列に向かうほど人数が多かった。
これあれだ、知ってるぞ。『なんとかの巨塔』ってドラマでやってたやつだ!
俺はちょっと興奮した。
「やあやあ、久しぶりだねルドルフ君」
先頭を歩いていた男子生徒が立ち止まり、ルドルフに気さくな感じで声をかけてきた。
金髪碧眼で、整髪料を用いたオールバックの髪型。
男子生徒は背が低い代わりに鼻のでかい特徴的な容姿をしていた。
自信に溢れる物腰や、集団のトップにいることから恐らく上位貴族の息子だろう。
「あん? お前は……」
ルドルフも立ち止まり、彼と応対する。いや、応対せざるを得なかった。
だって彼ら、横にいっぱい広がって道を塞いでるんだもの。
一列、せめて二列に並んでくれれば素通りできるのに。
まったく迷惑なことだ。
「ふっ、僕らの間に堅苦しい挨拶はいらないだろう。それより、僕の倶楽部に入る返事はそろそろ貰えそうかな?」
ニヤっと白すぎる歯を見せて笑うデカ鼻の男子生徒。
「……知らねえな」
ルドルフはそれに惚けたように答えた。
「神童と寵児が揃って会話をしてるぞ……」
「二人が並ぶと威圧感すげえな……」
「あの二人が近づいたら勢力図が大きく傾くんじゃね?」
「才媛は塔にこもりっきりだからなぁ」
周りがまたヒソヒソなんか言ってる。
ああ、これって派閥のお誘いなのか。
倶楽部とか洒落た言い回しで物々しさを緩和してるつもりですか、コノヤロー。
ルドルフが何も答えずにいると、男子生徒はフッと口元を上げ、
「ふむ、まだ焦らすのかい? まあいいさ。どうせ答えはわかってる。よい返事を期待しているよ。では、また会おう、我が友よ! ハッハッハッ!」
高笑いをしながら集団を引き連れ、去っていった。
集団は滑らかに統一された動きで一瞬だけ一列になって俺たちの横を避けて通って行った。
おかげで俺たちは道の端まで避けなくて済んだ。
すごい連帯感だと俺は感心した。
すっかり彼らが見えなくなった後で俺はルドルフに訊いてみる。
「あいつ、知り合いか?」
「いや、全然知らねえよ。あんな面倒臭そうなやつ……」
冗談ではなく、本気でわかってなさそうにルドルフは言った。
「我が友とか言ってたぞ」
「きっと人違いだろ。別のルドルフ君と勘違いしてんだよ」
「おいおい……ならあいつ、勘違いしたまま別人に『我が友よ!』とか抜かしてたってこと? あんなキザっぽい喋り方で? やばいやつじゃねーか……」
「ゾッとしちまうよなぁ。まったく困ったバカ野郎がいたもんだぜ。人の顔くらいきちんと覚えとけってんだ」
やれやれと溜息を吐くルドルフ。
俺は一拍置いて言う、
「返事を期待しているよ!」
「また会おう! ぎゃはは!」
俺たちは笑い合った。そりゃあもう、盛大に。
男子生徒の気取った話し方をマネしながら俺たちはグラウンドに向かった。
周囲の空気が凍り付いていたのは俺の気のせいだろう。
◇◇◇◇
「僕が考案した魔法式に基づけば、魔力の消費量が二割ほど軽減でき、威力もそれほど損なうことなく術が発動できます。それでは見てください。ファイアクロス!」
魔法実技の授業は魔法を教えてもらうのではなく、生徒たち自身が考案した新しい術式や研究成果のお披露目会という感じだった。
発表ごとに教師がアドバイスを送ったり、他の生徒が意見を述べて議論を交わしたりしていくのが全体の流れらしい。
一人ずつ前に出てご高説を垂れ流し、あれこれ見せつけてくるが、もとになっている呪文やそもそもの基準値を知らない俺は見ていてちっとも面白くなかった。
あと、話している連中が顎を若干上げて俯瞰しながら語っているのが地味にウザい。
なんだその得意顔は……。
鼻の穴を見せつけてくるんじゃねえ! ろくろ回すなよ! この平面顔が!
俺は今回初参加ということで見学だけで済んだが、次回からは研究したことをまとめてくるようにと教員から言われた。
何もわからないから教えてもらいにきたのに、なぜ俺がゼロから生み出せると思うのか。
『君はエルフだし、期待しているよ? ふん?』とか、油ぎった黒髪の男性教師に言われたが、知らねえよ!
適当に筋トレのやり方でも披露してやろうか。
『筋肉が増えたら魔法の威力が上がります!』とか言っちゃってさ。
エルーシャに教わったウォーターバレットを全力でぶっ放して披露すればうっかり信じちゃうやつが出てくるかも。
それで筋トレが学園で流行れば学園の淀んだ空気も少しは緩和されるだろう。
よし、そうしてやろう。そう決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます