王都と門番2『王都ヴェルファイア』




 街道まで戻る。俺たちは王都に向かうのでエルーシャたちとは進行方向が反対だ。


 彼女らは串焼きが再販されるまでフォンダー村とやらに逗留するらしい。


 学校は行かなくていいのだろうか。


「手伝ってくれてありがとね! グレンたちは王都に行くんでしょ? わたしたちも王都に住んでるから、向こうで会えるといいね!」


 一緒に食べて行ったらどうかと誘われたが、俺は奴隷の問題を解決しないといけない。


 知り合いが捕まっているかもしれないし、早く助けてやらんと。


 まあ、王立魔道学園に彼女がいるというならまた会うこともあるだろう。


「あの、グレン様。ちょっとよろしいですか?」


 別れの間際、サラスに手招きをされる。


「……なんだ?」


 雰囲気的に内緒の話をしたそうだったので二人で周りから距離をとって声を潜める。


 エルーシャがリュキアの相手をしてくれたおかげでスムーズに離れることができた。


 ホント、あいつら仲良くなったよな。


 サラスはそんな二人にちらちら視線を送りながら口を開いた。


「あの子……リュキアさんでしたか? 彼女は大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫とは?」


「ですから……その……目の……特徴が……」


 ごにょごにょ言っていてよく聞き取れん。


 リュキアに聞こえるのを気にしているのか? 


 それにしたってエルフの耳で聞き取れないとかよっぽどだぞ。


 何の話をしたいんだ。もしかして車酔いのことか? 


 あれは一回吐いたけど、その後は問題なかったよな。


「心配ないだろう。俺も注意を払っておくけど。眠ってるときは案外平気だったぜ?」


「注意を払う……? なるほど、そういうことですか」


 サラスが何かに納得したような顔で頷く。いや、どういうことだよ。言葉にしてくれよ。


 結局、車酔いの話であってたのか?


「わかりました。それならば彼女のことはグレン様にお任せするとしましょう」


「お、おう?」


 言われなくても面倒は見るつもりだったが、わざわざ念押ししてくるとは。


 まあ、確かにデリケートな問題だ。


 子供とはいえ女子。彼女の名誉のため、再び酸っぱいスプラッシュをしないようマメに休憩をとるなどの配慮をしよう。


 頼まれたからにはしっかり役目を果たすぞ。


「……できるだけ刺激を与えないよう、今まで通り自然に接してくださいね?」


 サラスが耳元でコショコショと囁く。うあ、吐息が当たってこそばゆい。気を付けろよ、エルフは耳が敏感なんだから。


「任せとけ、上手く立ち回って見せるさ」


 リュキアがスプラッシュしても自然体で接するようにするぜ。まったく、心配性だな。メイドという職業柄、彼女の癖になってるのかもしれん。



「本当にわかっていらっしゃるのでしょうか……」



 俺を信じろ。





「エルぅー、ばいばーい!」

「リュキア、またねー!」


 無邪気な声を掛け合って手を振りあう少女と幼女。


 俺もサラスやジェロムに軽く会釈をして別れを済ませ、王都への道を辿る。


 予定外の時間を食ったが、こういう一期一会も旅の醍醐味だ。


 また会えるといいな。


「じゃあ、行くぞ、リュキア」


「うん!」


 背中に乗ったリュキア。


 シートベルトがないから事故らないようにしなければ。


 ただしスピードは落とさない。


 せっかく速度制限がないんだから、そこは好きに走りたいじゃんね。


 幼女を背に乗せ、俺は王都を目指した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「特に語るべきこともなく王都に着いたぞ!」


「……どうしたの?」


 リュキアが『何言ってんだ? こいつ』という感じで言った。


 ほら一応、言っておかないとね。どこにいるのかわからなくなりそうだろ?


 俺たちは王都の入場待ちをする列の最後尾にいそいそと並ぶ。


 王都には東西南北に門があり、入るにはそのいずれかで入場審査を受けなければならない。


 時刻は夕方付近。なんとか完全に日が沈み切る前に到着することができたな。


「ふむ、ここが王都ヴェルファイアか……」


 順番待ちをしながら俺は王都を取り囲む巨大な外壁を見上げる。


 今更だが、この国はトゥユーティタ王国という。


 そして、そのトゥユーティタ王国の王都がここヴェルファイアである。


「すごーい! たかーい!」


 有事には外敵から王都を守る砦となる壁を見てはしゃぐリュキア。

 ふふ、無邪気よのう。


 前世にあった高層ビルと比べたら驚くほどの高さではないが、これだけ大きな壁を前にすると圧倒されるよな。


「リュキアはデカい建造物を見るのは初めてか?」


「ううん? まえにもみたことあるよ?」


 キョトンした顔で答えられた。


 なんだよ、それ。

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