盗賊と二号さん5『俺は肉体派のエルフだから』

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ヒャッハー! まんまとカモがやってきやがったぜ!」

「撃て撃て! あいつらはたった五人だ! しかもほとんどがガキだ! 楽勝だぜ!」

「女は殺すな! 楽しみが減るからな!」



 ヒュンヒュンと弓矢が俺たちの足元の地面に突き刺さる。


 盗賊の拠点があるという岩場付近に辿り着くと、なんと武装した盗賊たちが待ち構えていた。


 数は二十人はいるだろうか? 


 まさか待ち伏せを食らうとは。どうなっている。



「拠点までの道のどこかに見張りがいたみたいだな。襲撃が失敗したときの保険として移動ルートをあらかじめ示し合わせていたんだろう」


 ジェロムが特に驚いたところもなく言った。


 ちらりと案内役の盗賊を見やると、勝ち誇ったようにニヤついていた。


 なるほど、そういうことか。少しは頭が回るみたいだな。


「ふへへッ。不意打ちができなくて残念だったなァ!? お前らがいくら強くてもこの数は無理だろ……」


 ボコボコの顔で言われても滑稽なだけだぞ。脅威は感じないが腹立つな。


 お前がすごいわけじゃねえだろ。


 ……あ、危ない。



「ぐえっ」



 案内役の盗賊は飛んできた流れ矢が胸に刺さって死んだ。


 小物らしい最期だった……。あっけねえ。


「サラス、あんたらのところのお嬢様は後ろに下げなくていいのか?」


 リュキアとともに未だ先頭にいるエルーシャ。


 女は避けて撃っているようだが、あんまり腕がよくなさそうだし危ないだろう。


 と、思っていると



「『ウォーターバリア』」



 エルーシャが唱え、水がドーム状に俺たちを覆うように発生した。

 盗賊どもの放った矢は水のドームに弾かれ、すべて無効化される。


「エルーシャ様なら心配ありませんよ」


「そのようだな……」


 まさか魔法の使い手だったとは。


「エルーシャ、すごーい!」


「ふふん、これでもわたしは王立魔道学園の生徒なのだぁよぉ?」


 無邪気な称賛を受けたエルーシャがリュキアに対してドヤっていた。


 しかし、リュキアに『おうりつ? なにそれー?』と言われへこんでいた。


 何となく思ってたけど、こいつら精神年齢同じくらいだよな……。



「エルーシャ様は神童や寵児、才媛ほどではございませんが、学園で上位の成績を修めているんですよ?」


 主人の自慢をしてくるメイド。いや、戦闘中だから。そういうのは後にしてよ。


 まあ、仕える相手を誇らしく語りたい気持ちはわかるけど。



 というか王立魔道学園……一度も行ったことないのに関係者によく会うな。





「くそっ、水魔法を使うやつがいるのか!」

「やべえ、矢のストックが切れそうだ!」

「切れるまで続けりゃなんとかなるだろ! もっと撃て!」



「弓での攻撃が収まったら我々も行きましょうか」

「馬鹿ばっかりで助かるぜ」


 サラスとジェロムは前衛としてしばらく待機をするようだ。


 エルーシャの魔法はそれだけ長持ちするということか。


 ここは俺も魔法でどうにかしたいな。


 このままでは魔法を得意とするエルフの名折れだ。


 体当たりで一人ずつ倒してもいいが、あんまり轢き過ぎるのもな……。


 トラックって、人を轢くためのものじゃないし。


「なあ、なんか簡単な攻撃の呪文を教えてくれないか?」


 魔法を展開しているエルーシャに背後から訊ねてみる。


「えぇ? グレンっちってエルフじゃないの? 魔法ならわたしより詳しいでしょ?」


「俺は肉体派のエルフだから呪文を暗記するのは苦手なんだよ」


 グレンっちってなんだろう、っていうのは考えないことにした。


「ぷふっ、肉体派ってなにそれー! おもしろーい!」


 大爆笑されたが、不思議とあまり不快には感じなかった。


 天性の人懐っこさが彼女にはあるんだろうな。羨ましい才能だ。


「なら、一緒に唱えてみる? わたしの後に続けば間違えないよね。そろそろ弓の攻撃もやみそうだし」


「そうしてもらえると助かる」


 やがて、すべての矢を放ったのか盗賊たちの攻撃はぴたりと止まった。


 エルーシャは水のドームを解除すると、俺に目で合図を送った。


「じゃあ、行くよー」


「おう」



『『tellubretaw///……○×▲%$§¶…………』』



 追って唱える呪文によって魔力が渦巻くのを感じる。いいぞ、いい感じだ。すごいのをお見舞いしてやるぜ! ちなみにこの呪文、エルフの里で習ったやつだった。テスト前に暗記して、終了後に即忘れたやつ。



「「『ウォーターバレット!!!!』」」



 そして次の瞬間、激しい轟音とともに盗賊団は岩場ごと壊滅した。

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