願いが叶う

「一つだけ願いを叶えて差し上げましょう。」


急に部屋に現れたそいつはそう言った。急に現れたといったが別に私は精神異常なのではない。文字通り急に現れたのだ。


「ランプをこすってないのにランプの魔人が現れたと解釈すればよいのかな?」

「どんな考えをお持ちでも構いません。まあ正確に言えば私は死神ですが。」

「死神は人間の願いを叶えるものなのかい?」

「いえ、そんな義務はございませんよ。しかし私は命を刈る人間の最後の願いくらいは叶えて差し上げようと・・・。」

「待ってくれ。ということは私は死ぬのか?」

「そうです。風前の灯と言うやつですね。」

「願いは何でもいいんだな?」

「ええ、何でも言ってください。」


この死神は馬鹿だなと私は思った。ここで私が命を取るのをやめろといえば、私は死ななくて済む。そう考えた。


「願いは決まったぞ。私の命を・・・。」

「ああ、そうそう。命を失う運命は消すことができないので、願っても無駄ですよ。」


この死神に馬鹿は私だと思い知らされた。死神は私が何を願うのかを全てわかったうえであのように言っていたのだ。しかしここで引き下がるのは腹が立つ。そう考えていると名案が浮かんだ。


「では貴様の命をいただく。」

「つまり私があなたの目の前から消えるのがあなた様の願いである、と理解してよろしいですね。」

「ああそういうことだ、早くしろ。」

「では早速・・・。」


最後に見えたのは死神が笑う顔だった。


「またお前は悪趣味なことしてるな。」

「悪趣味とは失礼ですね。せっかく人間の願いを叶えているのに。」

「まったく、どこに願いを叶える気があるんだか。今回は何をしたんだ?」

「私が人間様の目の前から消えることをご所望だったので、目を潰して視界から私を消して差し上げました。」

「願いをねじまげて叶える・・・。本当に悪趣味な奴め。」

「いえいえこれでいいんですよ。」


死神には人間の願いを叶える義務などありませんから。

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