C-002-Section-004:To Break Through

 一週間後。

 始祖の問題は、公にされる事はなく、養成学校ヴィータ在学生であったタイニー・フェザーは事故死として処理される事となった。全ての真相は闇の中。それが、現実に生きていく事の生業なのだ。


「世の中、正しい事なんて、求められる中にしかないんだろうな」


 学校のベンチに座り、空を見上げるテオリア。

 テオリアは事情聴衆を受けた後、ティアの助力によってすぐに解放された。その後はいつもの日常。学校生活の勤務であった。

 ブラッドとリルは転校届けが出され、彼を推していた理事長であるエビデンスは名残惜しそうに、二人を見送っていた。


「今までの私ではいられない。これからの私は私自身で変えられる。あの頃の情熱。取り戻そう」


 テオリアは、ブラッドの別れを惜しむ事はしなかった。他の人としてではない。私達の中にある以上は、頼り合う立場でいたい。同情や馴れ合いではなく、互いが必要としている上で成り立つ関係を、テオリアは求め、心の決意を固めていた。一切の迷いはないといえば、嘘になるかもしれない。これからも試行錯誤の日々だろう。まだまだ、人生これから。テオリアは、飽くまで、自分の限界を示さず、まず、努力をし、納得できるまでにこぎ着ける事にした。


「さて、頑張るか。私には、私のやるべき事がある!」


 ベンチから起き上がり、意気込むテオリア。

 理屈以外何も持っていなかったテオリアはもういない。


「ん? あれは」


 気分上場にテオリアは、歩いていると、焼却炉でごみを燃やしている清掃員が目に入った。用務員のゲイズ・レムナントだ。ボロボロの作業服を来て、焼却炉の暑さに汗水流しながら、仕事をこなしている姿を見て、意気込んでいる自分と重なったのか、何やら縁を感じ、彼と食事をしようと思った。


「レムナント先生。頑張ってますね」


 テオリアが声を掛けると、ゲイズは軽く会釈し、挨拶を返した。「食事どうですか?」と、テオリアはゲイズを誘い、「いいんですか、私なんぞで?」と、遠慮がちに返されると、「全然、いいんですよ」と、半ば強引に先程座っていたベンチまでゲイズを誘った。


「イヤー、いい天気ですね~」


 テオリアはジュースを飲みながら、日に当てられた心地よさを語る。ゲイズは焼きそばパンを年なのか手を震わせながら、口に放り込む。


「何で、私なんぞに声を掛けてくれたんですか?」


 ゲイズはおずおずしながら、テオリアに改めて問う。


「何でって、やっぱり一生懸命に仕事している姿みると、私も燃え上がってしまうというか」

「一生懸命…ですか。私なんぞ、ただの一介の清掃員。ただ、学校を掃除してごみを燃やして、ただ、その繰り返しですよ」

「大切な事じゃないですか。学校がいつも綺麗に維持されるのは、レムナント先生のおかげです。汗水垂らして暑い焼却炉に向かって、ごみを片付けている姿。感銘付けられますよ。その繰り返しが継続として力になります。私は誇らしく思えますよ」


 テオリアは、自信なさげに言うゲイズに、自分の意見を率直に述べた。それを聞いて、少し照れ臭そうに嬉しそうな表情になるゲイズ。


「この数年でも、時代は目まぐるしいほど変わりました。だが、それは変化ではなく、劣化という見方です。恐らく、変わろうという気持ちが強すぎて、制御しきれるだけの環境も失ったからでしょう。それでたどり着いた正しさなんて最初から限界があるんです。学校という場所はその限界に囚われている。その限界の中で、教師は生徒を奴隷化しているのに気づいていないのでしょう。勉強できれば社会で成功できるなどといった固定観念に基づけるような考えですから、生徒達は教師の思想で人生が決定づけられていく構図ができていきます。逆に固定観念に当てはまらないものこそ、私は求めていくべき時代なんじゃないかと思うんですよ」


 ゲイズは長々と自分が学校に思う考えをテオリアに語った。テオリアは、少し呆気にとられてしまったが、それほどまでに真剣に思っていたなんて、新たな一面を知って、嬉しく思った。


「すみませんね。こんな老いぼれの戯言と聞かせてしまって」


 申し訳なさそうにゲイズは言う。


「そんな事ないですよ。それ程までに真剣に学校を見てきたっていうのが伝わりました! レムナント先生。時代を読むのが上手なんですね」

「いやいや、私なんぞの観察力なんぞ、大層なものじゃありません。私自身がなにかしたわけじゃない。時流がそうなっていると私がその流れを語っているだけにすぎません」

「いえいえ、素晴らしいですよ。私そんな風に考えた事ありませんでした。新たな世界に気づいた感じです。ありがとうございました!」


 テオリアはゲイズを賛美し、ゲイズもまた話を聞いてくれる存在がいてくれたことを少し嬉しく思ったのか笑みがこぼれた。そして、ゲイズはテオリアの事を興味を持ったので、彼女の事を質問する。


「テオリア先生は確か、心理士の仕事を請け負っているんでしたっけ?」

「はい。学校ではまだ認められていない職業ですけど、私は立派な仕事にしていきたいと思っています」


 そう問われ、テオリアは素直な気持ちで答える。それに対して、ゲイズはまた時代をまみえて、こう語った。


「今までにない新しいものを始めるという事は、頼れるものも自分で探さなければいけない過酷なもの。そして、そういったものほど、賛同してくれる者も少ないでしょう。偏見の満ち溢れた世の中では、反対意見も色濃く残るものです」

「そうですね。何かを始める事が、否定から始まってしまう。そんな世の中です。ですから、必要とするものものあると思うんです。私にとっては、この仕事こそその理想そのものなんですよ」


 ゲイズは心配もあって、テオリアに語ったが、今の彼女なら大丈夫と、思える根拠が彼女の語った言葉から感じられ、安心した。

 そして、授業が始まるチャイムが鳴る。


「いけない! 授業が始まりますね。副理事長がうるさいですから、行きますね。またお話聞かせてください。ではお仕事頑張ってくださいね!」

「いえいえ、私なんぞの話でよければ。では」


 テオリアはゲイズに礼を言い、学校の方へと向かう。

 残されたゲイズは、ベンチに座りこう語りだした。


「始まりを汚すもの。人の心にそれがある限り、我々はその終わりを購わなければいけない。君臨の時は、今…」


 ゲイズはそう語り終えると、ベンチから立ち上がる。その後ろでは、一枚の青白い翼が、地に落ちていた。

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