C-000-Section-007:Fear

 ブラッドとリルがいた学院の屋上に、逃げ去った魔族が負った傷をフォビドゥンハートの再生能力で復元を施していた。


「お休みのところ、すみませんね」


 後ろから話しかけてくる声。その人物はゾーニングであった。魔族が行っている復元に関心を示す。


「おや、再生中ですか。フォビドゥンハートという能力ですね。魔族は魂は消える事無く、肉体は時の中で劣化していく。故にフォビドゥンハートで肉体を再生させ、半永久的に生き永らえる。ブラッドの一撃を以てしても、その再生能力を凌駕する事がなかったようですね」


 分析を交え、淡々と説明を続けてくるゾーニングに魔族は何をさせるのか、恐怖を隠せなかった。


「ですが、フォビドゥンハートだけでは説明ができない事もありまして。それが気になるのです。生徒達はあなたが突然現れたと言っていた。どうやって突然現れたんですか? 魔族の新技術でしょうか?」

「おれヲコロスノカ?」


 ゾーニングの質問は恐怖する魔族には不安が強くて答える余裕もなかったようだっだ。


「…そうなります。ですが、その前に聞いておきたいのですよ。当然でしょう? 得体の知れない者が何の前触れもなく現れて、見えない目的を気にしない事はありえませんから」


 臆する魔族をゾーニングは冷たい視線で見つめ、冷酷な口調で告げる。ひしひしと感じる殺気に更に臆した魔族は、恐怖を放つゾーニングに背を向け走り出した。そのまま屋上から翼で飛ぶつもりであったが、それもゾーニングは読んでいた。


「逃げますか…。そうですね。今のあなたには、それしか出来ないでしょう。ですが、あなたはここで死ぬのです」

「ヒイ!!!」

「抜刀術・颯」


 ゾーニングは剣を鞘から抜き、鋭い一閃を放つ。研ぎ澄まされた一撃が魔族の翼を切り裂き、転倒させた。「ギャア!」と堪らず、痛みに絶叫する魔族。その後ろからゆっくりと近づくゾーニング。一切の容赦はなかった。魔族の前に立ち、最後の言葉を掛ける。


「さあ、聞かせてください。目的は何ですか? 言っても言わなくても殺しますが、どうします? そうですね。三秒あげましょう。その間に最期の命の使い道を決めてください。3、2、1…」


 早々と死のカウントダウンが進めれ、数え終わったと同時に剣は振りおろされた。

 しかし、その一瞬の間に何処からどもなく鋭い視線が脳裏に突き付けてくるのをゾーニングは感じた。剣を持った腕は時が止まったように固まり、微妙に震えている。向けられた視線に恐怖しているのだ。動けない。まるでその視線に氷漬けにされているかのように指一本動けなくなった。


(凄まじい殺気。この魔族の主? 高位魔族ですか? いえ、違いますね。そんな次元じゃない)


 どうにか状況を分析しようと頭を働かせる。色んな憶測が飛び交うも、ゾーニングの常識の域を超えていた。

 そして、倒れていた魔族が浮くように上体を起こし、天に両手を広げる。すると、光の粒子が体全体を包み込んだ。


「オオ、シュヨ。カミノシルシニヨッテ、スベテノシソガムクワレマスヨウニ」


 まるで聖書の一文を読んでいるように開口し、、


「ねめしすサマニエイコウアレ!」


 最期は主と思われる存在の名前を口にした後、魔族は光と共に消えていった。

 そのすぐ後、動かなかった身体が視線の圧力から開放される。


「ふぅ~、これは私でも及ばずですね。ブラッド。大変な事になりそうですよ?」


 剣を鞘に戻し、消え去った魔族の跡でゾーニングは予感する。ブラッドがこれから大きな事態に巻き込まれると。そして、その予感は間もなく的中することになる。運命は静かに回り始めた。

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