C-001-Section-007:Expected To Arrive (Occur) In The Near Future
「ブラッド。すまなかった。私が悪かった」
乗車している汽車の中で、今も尚、ぶつぶつと謝罪の練習を繰り返しながら、その謝ろうとしている相手への家と向かうテオリア。その奇怪な光景に回りの乗客は怪しみながらも、あえてその事には触れなかった。
練習は完璧と、納得する反面、納得いかない不満もある矛盾。いつしか、ブラッドに謝罪する事によりも、練習の出来映えにこだわっている事にテオリアは気づいていなかった。
駅を降りて、目的地へと向かうテオリア。
ブラッドの家まで後、10分というところの景色は大自然に囲まれていた。山と森、川。この地に魚や虫、動物達が共存している。
テオリアは、謝罪練習を忘れ、自然の景色に呆気にとられた。
「ブラッド。こういうところに住んでるんだな」
地図を見、ブラッドの住んでいる場所に感銘を受けながら、テオリアはこの大自然の息吹を肌で感じていた。
ブラッドの家に行くまで、この自然の景色を見ていたかったが、帰りでもそれは十分堪能できると、判断したテオリアは、ブラッドの家に向かう事を優先した。
「ここか…」
小さな橋を渡り、少し歩いたところにその曲がり角の向こう側にブラッドの家がある。地図に記載された通りの方向へと向かい、曲がり角を抜けると、まずそこにあったのは、ブラッドの家ではなく、一人の少女であった。
「…キミは?」
ブラッドの家の前に立つ少女。先程、テオリアが謝罪練習中に目に入った制服を着た少女だ。
(思い出した。確か、彼女は家の学校の生徒の、タイニー・フェザーさんだな)
出てこなかった名前を思い出したテオリア。だが、そのタイニーという少女は、語り出す。
「我々、始まりにとって、終わりとは痛みでしかない。その運命と痛みを持って、終焉へと還しましょう。新たなる秩序が今!」
「いてて、死ぬところだった。ソーラちゃん。勘弁してほしいよ」
ソーラの蹴りで吹っ飛ばされたカイが帰ってくる。「ん?」と、カイもまたタイニーの存在に気づく。
タイニーの回りから、青白く光る無数の翼が吹き荒れる。そして、彼女は翼に包まれ、翼がとれると、姿を変えていた。
「カイ! 気を付けろ! 始祖だ!」
窓から顔を出し、ソーラはカイに怒号とも言える声で叫ぶ。カイもまたすぐに不穏な雰囲気に気づいたが、そこに偶然居合わせたテオリアは、呆然としながら、その状況を飲み込めずにいた。
「星の種よ。汝の純潔。真実であるか。試そう!」
タイニーは、両手を翼に変え、球体の中に首のない女神のような姿で浮き上がり、次の瞬間強力な衝撃波が、ブラッドの家に直撃する。家は跡形もなく吹き飛び、その余波が、テオリアにも向けられ、その爆風に巻き込まれた。
「うわぁあああ!」
テオリアは訳もわからず、押し寄せる爆風に絶叫する。
絶体絶命と死を覚悟したテオリア。目を開けると自分が地に立っていない事に気づく。天国? と思ったが、生きている感覚はある。よく辺りを見渡すと、地上では、跡形もなく吹き飛ばされたブラッドの家があった。
更に良く確認すると、腹の部分に何者かの腕があり、掴まれている。
「大丈夫かい? 美しいお嬢さん」
とキザな台詞をまみえながら翼を生やしたカイが、テオリアに言う。
すると、リックにはブラッドが、ソーラにはリルが、翼を生やし、二人を掴んで空を舞っていた。
「すごい。空飛んでる…」
驚きのあまり、言葉にならないリル。ブラッドは、少し興奮ぎみで、空を飛ぶという夢のような状況に、驚愕していた。
「さあて、突然の始祖さんのご登場だね。どうする、リック?」
「どうするもねえだろ? やっつけんだよ」
カイのリックへの質問を遮り、ソーラが割り込む。
「倒す事は出来ればしておきたいところだが、問題は方法だ。各自、ブラッド君達を安全な場所へ下ろした後、戦闘に入る」
3人は合わない息で、気を合わせ、リックが指示した通り、ブラッド達を安全な場所へ下ろそうとした。
しかし、タイニーは、翼を刃に変えて、無数に上空へと放つ。
「おーコワ。ま、そんな簡単にはいかないよねぇ」
カイは空中を旋回し、刃を交わし、三人はブラッド達を地上に下ろした。
「ブラッド君。ひとまず、安全な場所へ隠れてるんだ」
先導しリックが、ブラッドを避難するよう指示する。そして、すぐに三人はタイニーへ戦いを挑みに向かった。
(翼…。オレ、知ってる。心がそう知っている)
ブラッドはなにか思い出そうとしていた。何処か懐かしい感覚が、あの翼を見て沸き上がった。自分も知ってる翼。
「ブラッド! あの存在はなんだ!? というか、翼を生やした人なんて聞いた事ないぞ!?」
記憶の追憶を妨げる声。テオリアだ。タイミングの悪いその投げ掛けに、ブラッドは嫌そうに、「オレも知りたいぐらいだよ!」と、声を張り上げる。
「また、お前は目上の存在に敬語を使えとあれほど…、いや、そうじゃない。ブラッド。私はお前に言わなければいけない事あって来たんだ。ブラッド、すまなか…」
「ブラッド。カイさん達が!」
意を決して謝罪練習の成果を、見せようとしたテオリアだったが、リルの声にブラッドの意識は向かった。それに気づかず、テオリアはたんたんと謝罪を続ける。
カイ達三人は、タイニーに敗北していた。
全方向に放たれた翼が、麻痺作用を促していたのだ。動かなくなった三人を無視して、タイニーはリルのもとへ向かう。
「逃げろ…! 逃げるんだ…!!」
必死に声を出してブラッド達に、逃げるように促すリック。だが、それも虚しく、タイニーはリルのもとへ突き進む。
絶体絶命のピンチが、到来した。
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