ヤナギタ物語

ぞうむし

第1話

「男が90、女が10くらいか、、」
横断歩道の前に立つ中年の男がつぶやいた

目の先には
スズキ インパルス
400cc
違法改造されたバイクが信号待ちしている。
二人乗り
ふたりとも半ヘル


運転している少年は幸せの絶頂の顏をしているが、後部座席の少女の視線はどこか違う場所
「世界の終わり」みたいな顔をしている。


中年は37歳
ずんぐりむっくりな体型
ヤンキースのキャップ
もじゃもじゃした横髪
腕まくり、紺色の作業服、
左手にはホカ弁の袋。

となりに立っている同じ服を着た20代前半若い男、金髪で目の大きな男が
「え?ヤナギタさん何の話っすか?」

中年は眩しそうに
過ぎ去っていくバイクを見ながら


「好きの割合だよ、男が90%好きで女が10%くらいの感情しかねぇ、、」


若い男はにやり、(でたー)
という顔をして
「マジっすか!?」


ヤナギタ
「ああ、」
「ぜったい別れるな、、」
と付け加えた。


ーヤナギタ物語ー

プシユー!(エアブレーキの音)
ドリュリュリュ(排気音)
荷台の箱がついていない平ボディと言われる4トントラック。

運転しているヤナギタ「ナカムラぁ」

助手席の金髪の若者、ナカムラはケータイを触りながら
「はい」


ヤナギタ「安くてマズイけど腹いっぱいになる店と値段はそれなりだが美味しい店どっちがいい?」

ナカムラ「は?ん?昼メシの話っすか?」

ヤナギタ「ああ」

ナカムラ「安いほうっす!」

ヤナギタはふっと笑い「ナカムラは若いな」

ナカムラ??

ヤナギタ「オレくらいの歳になるとな、量よりも質になるんだよ」
「で、どうせ金を払うならうまいものに、なんて思っちまう」

ナカムラ めんどくせぇ(心の声)
「へぇ〜そうなんすね、じゃそれなりの方で、、」

ヤナギタ「そこだよ、この時間だとそれなりの方は混雑してるから待たないといけねぇ、、」
「マズイ方はすぐ食べれるんだよ」

ナカムラ なんだよそれ??(心の声)
「ええ?!じゃ安い方で?」

ヤナギタ「いやな、どうせ金を払うなら、その時間を惜しんではいかんと思うんだよ」

ナカムラ ぷぐー!!(鼻から吹き出す音)
(めんどくさいの一周して)
「おもしろいっす!」

ブロロロ


ナカムラ「ヤナギタさんそんなに面白いのに何で結婚、彼女いないんすか??」

ヤナギタ(面白い?)「ん、いや、まあ、、出会いがな、、」

ナカムラ「えー!じゃ今度オレがセッティングしますよ、合コンしましょうよ!!」

ヤナギタ 耳を赤くしながら
「お、おう、」


ーうどん食べ放題ー

ナカムラ「ヤナギタさん、結局この店は?」

ヤナギタ「安くて腹一杯の、」

ナカムラ「マズイ方?」

ヤナギタ「しーっ!!お店でそんな事言うな!!」
本気で怒っている。

バイキング形式になっている店内、ナカムラは揚げ物を山盛り、
ヤナギタは野菜大盛りだ。

ヤナギタ
ごほっ(態とらしく咳払い)
「ナカムラぁ、オレはいつでもいいからよ、日にちはまかせるわ、」

ナカムラ? ?

ヤナギタ ごっほ!
「ほら、あれだよ」

ナカムラ「ああー!!合コンっすね!!」

ヤナギタは真っ赤になった。



先島第一ビル


レンガふうの壁、四角い7階建てのアパートビル。
603号室
ヤナギタの部屋


風呂上り、洗面化粧台に手を置き、上半身裸、黒いボクサープリーフ。筋肉質だが腹は出ている。
薄くなった頭頂部、
横髪を撫でつけ、鏡を見ながら(カッコつけている)

ヤナギタ
「土曜日か、、」

布団の中のヤナギタ
「土曜日か、、」


そして土曜日


福岡市の中心部、繁華街


グリースカフェ


3対3
女は20代前半〜中半、
男はナカムラ、ナカムラと同世代のスズキ、そしてヤナギタ。

女側「え?」という微妙な表情をした。

男側
ヤナギタはハンチング、ネルシャツ腕まくり、中はタンクトップ、リストバンド、オメガの時計、Gパン。

ナカムラはニット帽、被りのフード、カーゴパンツ、スケーターのような格好をしている。

スズキは茶色い短髪にピアス、
そばかすに細い黒目、ユニクロとシマムラのみで構成されている。

女側


シシブ ミカ


肩までの茶色い真ん中分け
目じりにほくろ、眉は上がって、目は大きく、背が一番高い、ハイネックの黒いセーターに飾りの小さなネックレス。

タチカワ ユイ


ニット帽、黒いロングヘア
デニムのシャツの上に厚手のカーディガン、顔全体のパーツが淡白だ。

クリハラ エイミ


毛先が跳ねたパーマ
眉も目もたれ目、赤いセルフレームの眼鏡、厚ぼったい唇。
袖無しのダウン。


ヤナギタ「この世界はユダヤ系の資本家が牛耳っていてね、
聞いたことある?ロスチャイルドとか」
「え?インフルエンザの予防接種?ダメダメ、あれは製薬会社の陰謀なんだから、打ったって効かないよ、」
「アメリカの大統領の娘だって打ってないんだから」

ヤナギタは全開だ、女の子は完全に引いている、クリハラだけはふんふん、と聞いている。

タチカワが(もういいわ、という感じで話題を変えようと)
「ヤナギタさんって車が好きなんですよね?何に乗ってるんですか?」

ヤナギタ「え?」
(少し自慢気に)
「ああ、ホンダのな、1300に、な」

タチカワ「え?ホンダってフィットとかですか??」

ヤナギタ「あ、いや」

ナカムラ「いやいや、ホンダのCB1300っていうバイクだよ」

シシブ「はあ?バイク??」

ヤナギタ「ああ、バイクっつってもパワーウェイトレシオだとセルシオなんかよりも大きくなるんだよ」

シシブ???

大皿の料理も減りはじめ、
あまり盛り上がってない様子

ナカムラが無理矢理元気良く
「さあ、二次会どうする??」


女の子たちは顔を見合わせて
「私たちはこれで、、」

その浮かない表情を見たヤナギタは(またやっちまった)と思った。


ナカムラ「ヤナギタさんじゃまた、月曜日、、」

ヤナギタ「お、おう、6時半に出発な、、」


ヘルメットを小脇に抱え、トボトボ歩くヤナギタ。

ヤナギタ「連休は、、当日よりも連休に入る前が一番楽しい、」
「合コンもそう、行く前が一番楽しい、、」


ふう、とため息をつきCBに跨るヤナギタの後ろから、さっきの女の子たちが歩いてきた。
ヤナギタは急いでヘルメットを被り顔を隠した。


シシブ「や〜今日のはナイわ〜」

タチカワ「ちょっと酷かったね」

クリハラ無言

シシブ「てか、だいたいオヤジ過ぎっていうの、あたしオヤジの匂いとかマジ無理なんだけど」
「何言ってるか全然意味わかんないし」

タチカワ「そうね、なんかお父さんと同じ匂いしたよね」

ガーン!!
ヘルメットの中でヤナギタは絶望的な顔をした。

クリハラ「あちし、(あたし)お父さんの匂い好きだけどな」

!?
ヤナギタはクリハラの後姿を凝視した。
(そういえば彼女だけはオレの話を一生懸命聞いてくれていた!!)

ヤナギタは走り出していた。 
「うおおおい!!」


?!! 女の子たちは驚いた。
シシブは悲鳴をあげた。


ヤナギタ「くっクリハラさん、これ、オレの!メアド!!」

クリハラは少し驚いたが
「はい」とメアドが書いてあるメモ紙を受け取った。


数時間後

ヤナギタの家


ピロリロ♪ユーガッタメー(メールの着信音)

クリハラ エイミ

件名 こんばんは

今日はありがとうございました。
とても楽しかったです♡

ヤナギタ「♡!!」
ヤナギタは「しゃっ!!」ガッツポーズをした。

月曜日


プシュッ、
ドリュリュリュー(トラックの排気音)


ナカムラ「ヤナギタさん、なんか嬉しそうっすね?」

ヤナギタ「ああ、先週の合コンな、」

ナカムラ「ああ!なんかすいません、めっちゃ盛り上がらなくて、、」

ヤナギタ「ん?んふ、そうか?」
「あの後な、メール着たよ」

ナカムラ「え!?誰から??」


ヤナギタ鼻を膨らませながら
「あ〜?クリハラ、さん?」

ナカムラ「えー!?いつの間に?」

ヤナギタ わっしゃっしゃ!!(笑声)

ナカムラも嬉しそうに
「このしれっとコゾーはー!!ちょっと飯おごってくださいよ!」

ヤナギタ わっしゃっしゃ!!


ヤナギタ クニヒコ


件名 500日のサマー観ました。

クリハラエイミ


件名re

500日のサマー観ました。


ヤナギタさん映画好きなんですね、私も大好きで、最近はスライディングドアを観ました(*^o^*)



Tシャツ、黒いボクサープリーフ
ソファの上に正座、ケイタイを大事そうに見るヤナギタ。

「映画の趣味もピッタリだ、、」
ヤナギタは嬉しかった。
何気無い毎日のメールのやりとり。。

ヤナギタ クニヒコ


件名 もしよかったら

週末の夜ご飯食べに行きませんか?
都合悪かったら大丈夫です!!


ブルブル、
指が震えている、
窓際に立つヤナギタ、顔が真剣だ。
「ダメでもともと」
「ダメでもともと」
くわっ!!
意を決して送信を押した。


その夜クリハラから返事は来なかった。

次の日
倉庫で荷下ろしするヤナギタとナカムラ。

ナカムラ「ちょっと元気無いっすよ!」

ヤナギタ「ああ、そうか?」
まったく覇気が無い。

ピロリロ♪ユーガッタメー(メールの着信音)

ヤナギタは走って倉庫の柱の影へ、


クリハラエイミ


件名reもしよかったら

日曜日のお昼じゃダメですか??m(_ _)m


ドーン!!
ヤナギタ「しゃーらっ!!」
急に大声で気合いを入れたのでナカムラは驚いた。

ヤナギタの動きが3倍速くなった。


日曜日


福岡市の中心部、アクロスという
コンサートホール、レストラン等が中に入っている建物、外観は空中庭園のようで緑のカーテンで覆われている。
そこで待ち合わせていた。


ハンチングのヤナギタは無言で
「やあ!」というポーズをした。


ニット帽、袖無しダウン
迷彩柄のタイツのクリハラを見て
「若いな」とヤナギタは思った。

ヤナギタ「じゃ、とりあえずランチに行こう」

海が見えるレストラン
イカスミのパン
アンチョビのパスタのランチ

クリハラは 
わ〜、という表情で「ヤナギタさん大人ですね〜」と感心した。
「このお店はよく来るんですか?」

ヤナギタはめちゃくちゃ嬉しそうに「ま、たまにね。」

クリハラ「あちしこういうお店あんまり来たことないから緊張するわ〜」
「美味し〜」

ヤナギタは満足そうに笑顔を浮かべた。


砂浜


テオヤンセン展

砂浜をストランドビーストという骨組みだけの動物の形をしたオブジェが風の力で歩いている。

クリハラは「すごーい!!」と目を輝かせている。

ヤナギタ「テオヤンセンはオランダの彫刻家で物理学者でね、
こうやって科学と芸術を融合させる人なんだよ」

クリハラ「ヤナギタさんは物知りですね」

ヤナギタ「いや、なんも知らんのよ」

砂浜に座り
ヤナギタ「福岡って文化が根付きにくい土地柄だと思わない?」

クリハラ「なんでですか??」

ヤナギタ「ブルーノートもビルボードも、劇団四季も結局撤退しただろ?」

クリハラ「あ〜そうなんですか、」

ヤナギタ「ジャミロクワイも東名阪までしか来なかったし、」
「福岡は最高だけど、もうちょっと何かが足らんのよね」

クリハラ「あちしは長崎から出てきたから福岡は都会でオシャレだと思ってました」

ヤナギタ「クリハラさんはあたしのことあちしって言うな」

クリハラは赤くなり「やっ、癖なんです」

ふたりは笑い合った。


夕暮れ

ヤナギタ「今日はとても楽しかった」

クリハラ「あちしもです」

ヤナギタ「もしよかったら」
クリハラ「あのっ!」
ふたり同時になった。
どうぞどうぞと、譲り合った。

ヤナギタ「よ、よかったらまた、会って、」

クリハラは何か言いたそうだ。
それに気づきヤナギタは
「いや、そうだよな!こんなおじさんとじゃ嫌だよな!!」

クリハラ「ち、違うんです」

「あちし、結婚してるんです!」

ヤナギタ え!?

クリハラ「ごめんなさい、合コンは人数足りないから来てくれって、頼まれて、、」

「ヤナギタさんには直接会って話さなきゃって思ってて、、」


ヤナギタ「あ、あーね!!」
「いや全然メールでよかったのに!!ははっ!!」

クリハラ「ご、ごめんなさい、」


ヤナギタ「何言ってんの!クリハラさん全然悪くねーし!オレが勝手に、ははっ!」
「だ、旦那さんどんな人よ?(わーオレ何を聞いてんだよ!)」

クリハラ「ヤナギタさんと同じ運転手で、ヤナギタさんと感じが似ています」

ヤナギタ「あ、あそう!」
思いっきり作り笑顔。
「いや、じゃ旦那さんに悪いからメールとかも、いかんよね!」

クリハラ「ヤナギタさんとのメール、とても楽しかったです」


夜の博多
BAR

バンガーズ


壁一面の大きなガラスからは
西中洲の川が見える。
水面がネオンを反射してキラキラ光っている。

ヤナギタ「オレが、、ふつうに話せるのは、彼氏がいる奴か、人妻ばかり、、」

バーテンはカクテルを出して
「きっといますよ、ヤナギタさんのことを分かってくれる人、」


次の日


ナカムラ「とんでもねぇ女ですね、人妻のくせに合コンに来るなんて!!」


ヤナギタ「、、ナカムラぁ、彼女はとても誠実な人だ、悪く言うんじゃねぇ」

ナカムラ「す、すいません、、」

ヤナギタ「は〜、しばらく恋は、女はいいわ〜」

ナカムラ(!?恋?)
「、、そうすか、今度看護師さんたちと合コンするんすけど、ヤナギタさんパスっすね、、」

ヤナギタ「いや、行くよ」

ナカムラ「え?だって」

ヤナギタ「いや、行くよ」

ヤナギタはタバコに火を着けた。

トラックは走り出した。

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ヤナギタ物語 ぞうむし @zomusi

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